2024年12月11日から2025年3月19日まで、パリのグラン・パレ(Grand Palais)では塩田千春展『魂がふるえる』が開催されました。この個展は2019年の東京・森美術館で初開催され、アジア、オーストラリアを周り、パリでの個展となりました。
2025年3月の平日、午前11時半、気温は1度、少し霧がかかったような寒空のパリ。すでに前売りチケットは完売しており、当日の列には30人ほどの人が並んでいました。
塩田千春展(Chiharu Shiota)没入型空間 – 不確かな旅
グラン・パレに入ると天井から吊るされたイラストレーション『Where Are We Going? 2017』が迎えてくれました。 グラン・パレの白い階段とアール・ヌーボー様式の内装に映えます。はじめにこの個展のプロローグとともに、真っ赤な糸が張り巡らされた ”Immersive Spaces – Uncertain Journey(赤色の部屋)”へ。
部屋一面に、赤色の毛糸が絡み合い繋がっていて、体内の組織に入り込んだようでした。表面ではまだ糸の境界線は見えるけど、その先を追っていくと複雑に絡まり合っていき、そのうちその前にあった糸の状態もわからなくなり、思考回路が止まっていきました。そしてまた他の一本の糸を辿っていくとその糸がどこかに行ってしまい、思考は無重力に漂っていました。
最後の部屋(Accumulation ー Searching for the Destination)には、赤い太い毛糸にぶら下がったたくさんのスーツケースが階段のように並んでいました。ヴィンテージのスーツケースを眺めていると、時折揺れだし、それがどこか、そのスーツケースの持ち主の思い出と共鳴して揺れているように思えました。
初めの部屋では、赤い糸が体内の組織のように細く複雑に絡み合っていたのに対し、最後の部屋では、太くまっすぐな赤い糸がスーツケースと繋がっていて、その対比が印象的で興味深かったです。
塩田千春 Chiharu Shiota
大阪府岸和田出身、京都精華大学芸術学部で油絵を学ぶ
彫刻科で村岡三郎の助手を務める
ポーランドの彫刻家マグダレーナ・アバカノヴィッチ(Magdalena Abakanowicz)の個展で感銘を受ける
1996年、ヨーロッパへ渡り、彼女に師事
1997年。パフォーマンス・アートの先駆者マリーナ・アブラモヴィッチ(Marina Abramovic)、ベルリン芸術大学でレベッカ・ホーン(Rebecca Horn)に師事
1999年からベルリンを拠点に、作品を発表
1993年から2024年まで、300以上の個展、グループ展、ビエンナーレなどに参加
感想と考察 / Impressions and Reflections
塩田千春さんは病気の再発を知り、生きるのに精一杯な状況の中、この個展への構想をしていました。生命があるときは体と魂は共にあり、その後はどうなるのか、という問いからこのエキシビションは始まりました。
チューブに繋がれた女性が横たわり、一定の音(心拍数のような音)と共に、赤色の液体がチューブの中を移動する映像や、臓器をモチーフにしたイラストレーションを眺めていると、自分の体内に意識を向けたとき、心がズキっと痛みました。
それは外側のオブジェクトが内側に転写されることで、作品と一体感が生まれ、私の内側と深く響き合いました。観ることで、痛みやセンチメンタルな感情が呼び起こされ、魂が共鳴するように感じました。会場を後にする頃には、瞑想後のような心地の良い疲れがあり、外は曇り空でしたが、心は晴れていてマインドは軽い状態になっていました。
グロテスクに感じることもあるけど、生きていると美しいことだけではなく、醜いこと、苦いこと、痛みも起こる。しかし、それも含めて生きていると思い出しました。
会場にいた100人以上の人たちは、黙々と彼女の作品を鑑賞し、好奇心と驚き、ダイナミックな作品の中にも繊細さがあり、初めて抹茶を飲んだように圧巻されるけど、言葉にならない感情が流れているように感じました。
彼女の毛糸を使った作品は、そのエキシビションが終われば撤収されます。その時の彼女作品は、その時、その場所でしか見られません。機会があればぜひ、塩田千春さんの創り出す世界に訪れてみてください。
塩田千春展 魂の震え ”The Soul Trembles”
2024年12月11日ー2025年3月19日
・グラン・パレ(パリ)
・入場料:14€
・所要時間:2時間
・有名作品:糸を使ったインスタレーション