南フランス・モンペリエの旧市街に佇むファーブル美術館(Musée Fabre)。世界100大美術館に数えられながらも、日本ではまだあまり知られていない、まさに隠れた名館です。
ルネサンスから現代美術まで、約200年の歴史を持つこの美術館には、2,000点を超える絵画、300点の彫刻が所蔵されています。ルーベンス、ドラクロワ、クールベ、モネなど、教科書で見た名画たちが、地中海の光が降り注ぐこの街で、あなたを待っています。
実際に訪れてみると、その落ち着いた空間に心が静まります。特に天井の高い柱のあるギャラリーは、ゆったりとした雰囲気に包まれ、まるで美術の大きな教会にいるような気持ちになります。パリの大きな美術館とは違って、静かでのんびりと絵を楽しめるのが魅力です。
ファーブル美術館のはじまり|画家の故郷への愛から生まれた美術館

ファーブル美術館の物語は、一人の画家フランソワ=グザヴィエ・ファーブル(François-Xavier Fabre)の深い郷土愛と寛大な心から始まります。1787年に絵画大賞を受賞するほどの実力を持つ彼は、長く暮らしたイタリアで貴重な美術コレクションを築き上げました。
1824年、故郷モンペリエに戻る際、ファーブルは、自身のすべてのコレクションを寄贈する代わりに、美術館を設立してほしいと市に伝えました。その願いは1828年12月3日の開館という形で実を結んだ。
彼の寄贈の精神は、後世へと引き継がれます。銀行家の息子アルフレッド・ブリュイヤス(Alfred Bruyas)、印象派の先駆者フレデリック・バジール(Frédéric Bazille)の家族、そして現代美術の巨匠ピエール・スーラージュ(Pierre Soulages)らが作品を寄贈し、美術館の姿を豊かにしていきました。一人の画家の想いが、世代を超えて受け継がれてきた場所、それがファーブル美術館です。
イエズス会の学校から始まる美の旅
美術館は18世紀の貴族邸宅であるマシリアン館に設置され、入り口は、17世紀のイエズス会の学校からとなっており、学校の中庭にあたるエントランスホールは、アーティストのダニエル・ビュラン(Daniel Buren)がデザインしたモザイクで装飾されています。
ファーブル自身がデザインした大階段、ネオ=エトルリア様式のフリーズが施されたグリフォンの間、天井画とシャンデリアのあるファーブルの旧アパルトマンなどが訪れる人々を魅了します。
印象に残った作品
ギュスターヴ・クールベ(Gustave Courbet)『パイプを持つ男』(L’Homme à la pipe)1849

この作品の最大の魅力は、クールベ自身の内面をリアルに映し出している点にあります。若き日の画家は、自身を理想化せず、素朴で庶民的な姿で描きました。肩から上の構図と暗い背景により、視線や表情が強調され、鑑賞者は彼の存在感を間近に感じます。
労働者風のブラウスと手に持つパイプは、単なる小道具ではなく、誠実さや独立心、現実に根ざした生き方を象徴しています。目は内省的で、遠くを見つめるような視線は、画家の思索や理想との葛藤を感じさせます。
さらに、粗く力強い筆触は、伝統的な美化や滑らかな描写を避け、現実をありのまま描こうとするクールベのリアリズム精神を伝えます。この絵は、若き芸術家の自己表現と、リアリズムへの覚悟を象徴する重要な一作です。
アレクサンドル・カバネル(Alexandre Cabanel)『L’Ange déchu』(堕天使)1847年

俯きながらも前をしっかり見据える堕天使サタン。その眼には涙が浮かび、今にも感情があふれ出しそうです。現実から目をそらしたい葛藤と、それでも向き合わなければという強い意思が伝わり、まるでその場面を目の当たりにしているかのようです。
怒りに満ちた姿勢のサタンは、楽園から追放された存在であると同時に、地上で天使としての役割を取り戻す人間の姿を象徴しています。若きカバネルは、単なる宗教的な象徴ではなく、美しい肉体と複雑な表情で、見る人に強い印象を与えています。
暗い背景と光の対比が、堕天と栄光、絶望と希望を際立たせ、翼や姿勢、視線の表現が劇的なドラマを生み出しています。この絵は、若き画家の技量や個性、挑戦心を示す重要作であり、鑑賞者の心に深く響く作品です。
パリの巨匠たちにも会える

モーリス・ユトリロ(Maurice Utrillo)の『Une école en banlieue』郊外の学校は、パリ・モンマルトル生まれの画家による作品です。母親も画家で、独特の雰囲気を持つ作品で知られています。この作品では、重ねられた色が立体感を生み、どこか哀愁が漂います。他のユトリロ作品と同じく、心に静かに響く一枚で、オランジュリー美術館やモンマルトル美術館で見た作品とも共通する魅力があります。
ファーブル美術館には、地元モンペリエ出身の画家だけでなく、印象派やパリの巨匠たちの作品も少しだけ展示されています。たとえば、クロード・モネ(Claude Monet)の若き日の作品『Jardin en fleurs, à Sainte-Adresse』(サント=アドレスの花咲く庭、1866年)では、後の印象派につながる光の探求がすでに感じられます。また、エドゥアール・マネ(Edoard Manet)の晩年の肖像画『Portrait d’Antonin Proust』(アントナン・プルーストの肖像、1881年)では、友人であった政治家プルーストを描いた品格ある一枚を鑑賞できます。
パリ滞在中は海外Wi-FiやeSIMが必須
Googleマップでの道案内や、レストラン予約、SNSへの投稿もストレスフリー。複数人での利用ならWi-Fiルーター、一人旅ならeSIMがお得です。
▶︎ WiFiレンタル:【グローバルWiFi】受取・返却が空港で便利
▶︎ eSIM: 充電・返却不要!海外旅行なら【JAPAN &GLOBALeSIM】スマホだけで設定完了、荷物にならない
さいごに
ファーブル美術館に足を踏み入れると、静かで落ち着いた空間に自然と心が静まります。ルネサンスやロマン主義の作品が並ぶギャラリーでは、人物や空間のバランスの美しさや神話の世界の神々しさを感じられます。一方で、クールベやカリエール、ユトリロの絵の前では、画家の個性やこだわり、情熱がにじみ出て、ぐっと心に迫ってきます。
時代も作風も違う作品たちが共にあるこの美術館では、歩くたびに新しい発見があり、思わず立ち止まって見入ってしまう瞬間が何度も訪れます。静かに、でも確かに心を動かす場所、それがファーブル美術館です。
Musée Fabre(ファーブル美術館)
開館時間: 11:00〜18:00(月曜休館)
入館料: 9ユーロ(第1日曜日は入館無料)
公式サイト: Musée Fabre(ファーブル美術館)
作品の種類: ルネサンスから19世紀まで、フランスとイタリアを中心とした重要な絵画とデッサン
所蔵数: 2000点を超える絵画、300点の彫刻、4000点のデッサン、1500点の版画
所要時間: 3〜4時間
おすすめ時間: 午前中〜13時ころ
住所: 39 Bd Bonne Nouvelle, 34000 Montpellier
アクセス: トラム1、2、4「コメディ」駅から徒歩約3分
