第1日曜日、パリのいくつかの美術館は無料で鑑賞することができます。ピカソ美術館は予約なしで入館できましたが、ルーブル美術館やオランジュリー美術館、そしてオルセー美術館は、1か月前にオンラインで予約しなければいけません。

私が訪れたのは5月の第1日曜日。チケット予約の列にはすでに200人以上の人たちが並んでいて、チケットなしの列には50人ほど。時間は11時を過ぎていました。予約している人たちは、いつ入れるのか、係の人の周りにも人だかりができていました。

チケット予約の列に並んでいると、『11時の予約の人はこちらに来てください』と聞こえ、その係の人を見失わないように着いていくと、チケットなしの列へ並び、そのままほぼ待つことなく、すぐに入ることができました。11時半には館内に入っていました。

看板通りに動いていないこともあるので、係の人に聞くか、周囲がどういう流れで動いているのか、自分はどの列に並んでいるのか確認しておいた方がいいです。

またパリは年中観光シーズンですが、5月から特に観光客が増える傾向にあると思います。

オルセー美術館(Musée d’Orsay)

・入場料:16€
・公式サイト:公式サイト
・開館時間:9:30から18:00(木曜日は21:45、月曜閉館)
・所要時間:3時間から半日

・作品数:常設4000点以上(約7万点所蔵)
・作品の種類:印象派、ポスト印象派、パリ前衛芸術
・芸術形式:絵画、彫刻、家具、工芸品、建築、デッサン、写真など
・有名作品:ゴッホ、レノー、モネ、セザンヌ

・美術館開館:1986年
・建築家:ヴィクトール・ラルー(Voctor Laloux)
・住所:Esplanade Valéry Giscard d'Estaing, 75007 Paris(map)
・アクセス:RER C線「Musée d’Orsay」駅直結
・音声ガイド:6€(日本語音声)、ガイドツアー:10€(英語、フランス語)
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オルセー美術館とは?

1900年のパリ万博博覧会のためにヴィクトール・ラルー(Voctor Laloux)の設計のもと、建てられたオルセー駅舎兼ホテルでした。その後1986年にオルセー美術館として開館しました。

1850年から1914年のあいだに制作されたあらゆる領域の芸術作品、絵画においては、印象派とポスト印象派のコレクションが大多数を占めており、有名な画家の作品を一堂に見ることができます。

オルセー美術館ガイド|おすすめの周り方

ガイドマップどおりに置かれていないこともありますが、オルセー美術館には、絵画から彫刻、家具と工芸品など多岐に渡り4000点以上もの芸術が展示されています。時間があればゆっくり一点づつ鑑賞できますが、広い館内を歩きながら見て回るのは体も疲れます。そこで筆者おすすめの回り方をまとめてみます。

おすすめの周り方

窓から外を見わたすと、エッフェル塔やサクレクール寺院などのパリ市内の素晴らしい景色が一望できます。

作品の鑑賞ガイド|特徴・鑑賞ポイント・インスピレーション

1、ミレー《落穂拾い》1857──農村に生きる人々への静かな讃歌

ジャン=フランソワ・ミレー(Jean-François Millet) ”Des glaneuses《落穂拾い》”1857

1857年、ジャン=フランソワ・ミレー(Jean-François Millet)が描いた”Des glaneuses《落穂拾い》”は、農村の女性たちを主題とした静かな名画です。

ナポレオン3世の第二帝政期、急速に工業化・都市化が進む中で、ミレーは忘れられゆく農村の現実と尊厳を描き出しました。

三人の女性たちは、金色の麦畑を背景に屈みこみ、地道に落穂を拾っています。貧しさを感じさせつつも、どこか神聖な空気が漂います。

この絵の前に立つと、19世紀フランスが失いつつあった「自然と労働」の記憶に触れたような感覚になります。

作品の特徴

農民を主役に据えた革新性
《落穂拾い》(1857年)は、収穫の終わった畑で、地面に残った麦の穂を拾う3人の女性を描いた作品です。これまでの歴史画や宗教画とは異なり、ミレーは労働者階級の農民を絵画の主役とし、彼らの存在に美と尊厳を見出しました。

絶妙な構図と色調
3人の女性は画面手前に静かに並び、重労働の姿勢が視覚的リズムを生み出しています。背景には豊かな収穫を運ぶ馬車や監督者、働く人々が描かれており、彼女たちとの対比を際立たせています。全体の色調は柔らかいアースカラーで統一され、土と空の広がりが穏やかな静けさをもたらします。

崇高さと現実の融合
この作品は単なる農村の風景画ではありません。3人の女性の姿勢は古代ギリシャ彫刻のような荘厳さをたたえており、労働という日常を通して、人間の尊厳や祈りにも似た静かな美しさを表現しています。

鑑賞ポイント

手前と奥の対比に注目
画面の手前では、3人の女性が地面にかがみ、黙々と作業しています。一方、奥には収穫された豊かな穀物や、馬車、立ち働く男たちが見えます。これは、貧しい者と豊かな者、力のある者と弱い者、社会の格差を象徴的に表しています。

静けさの中にある緊張感
一見すると穏やかな田園風景ですが、女性たちの姿勢や顔は見えず、個性が消されています。それによって「貧困」や「労働の苦しさ」が強調され、社会的なメッセージが静かに滲み出てきます。

3人の構図に注目
3人の女性は少しずつ異なる姿勢で描かれており、左から右へ「拾う→拾い上げる→手に持つ」という動作の連続が見て取れます。このリズムが絵全体に動きを与え、人間の営みの一瞬を象徴的に表しています。

インスピレーション

ミレー自身の農民としてのルーツ
ジャン=フランソワ・ミレーは、ノルマンディーの農家の出身で、若い頃から農作業に親しんでいました。都会で学び画家となってからも、農民の暮らしを描くことにこだわり、彼らの労働と誠実さに深い敬意を抱いていました。

第二帝政期フランスの社会問題
この作品が描かれた1850年代は、フランスが産業化・都市化に向かう一方、農村の貧困層が置き去りにされていました。ミレーは、そうした「忘れられた人々」の存在を社会に問いかけるために、《落穂拾い》を制作しました。

展示当初の物議と再評価
この作品は1857年のサロン(官展)に出品された際、一部から「貧困の賛美」「社会主義的」と批判されました。農民の貧しさを大きな画面で堂々と描いたことが、当時の上流階級には不快に映ったのです。しかし、時代が進むにつれて、作品はその人道的な視点と芸術的完成度から高く評価されるようになりました。

・貧しき者に寄り添う画家のまなざし
・ただの風景ではない、深い社会的メッセージ
・静けさの中に力強い人間性が込められた構図と色彩

この作品は、芸術が人間の尊厳と社会の現実をどう描くかを示す強力な証であり、現代においてもなお、深く考えさせられる力を持ち続けています。

2、ギヨメ《サハラ》1867──異国への憧れと植民地幻想

ギュスターヴ・ギヨメ(Gustave Guillaumet) ”Le Sahara, dit aussi Le Désert《サハラ、または砂漠》1867

風景画家ギュスターヴ・ギヨメ(Gustave Guillaumet)の”Le Sahara, dit aussi Le Désert《サハラ、または砂漠》”は、アルジェリアでの体験を元に描かれたオリエンタリズム作品です。

19世紀フランスはアルジェリアを始め、植民地政策を拡大していた時代。

この作品には西欧から見た“異国”へのロマンと幻想が色濃く現れています。

灼熱の砂丘、乾いた空気、そして静けさ。まるで“夢見る砂漠”のようなこの絵の前では、旅人のような気分になります。

作品の特徴

オリエンタリズムの中の静けさと尊厳
当時流行していた「オリエンタリズム(東洋趣味)」は、しばしばエキゾチックで華美な描写が主流でしたが、ギヨーメはその潮流に背を向け、アルジェリアの砂漠に生きる人々の現実と精神性に迫る静謐な表現を追求しました。《サハラ》においては、荒涼とした大地と、それを行く旅人たちの姿が、人間と自然の厳しい関係を詩的かつ敬意をもって描かれています。

写実と詩情の融合
ギヨーメは、砂漠の光と影、風に削られた地形、空気の透明感など、自然環境を正確かつ繊細に描く一方で、そこに生きる人々の姿に深い尊厳と祈りのような静けさを与えています。そのバランスが、単なる風景画を超えた精神的な深みを与えているのです。

鑑賞のポイント

広がる地平線とスケール感
作品では、視線は自然に遠くの地平線へと導かれ、画面全体に壮大な空間の広がりが感じられます。砂漠という無限の空間を前にした人間の小ささ、そしてその中に潜む静かな力強さが印象的です。

色彩と陰影
ギヨーメは、灼熱の太陽光や砂の反射、黄土色からオレンジ、白にかけての繊細なグラデーションで、観る者にサハラの空気感と気温さえ想像させる表現を可能にしています。

インスピレーションと背景

アルジェリアでの体験
ギヨーメは若くしてアルジェリアを訪れ、その風景と人々に深く魅了されました。何度も現地に足を運び、特にサハラ砂漠や遊牧民の生活に関心を寄せ、写生やスケッチを通して彼らの姿を描き続けました。

病との闘いと精神性
彼は体が弱く、アルジェリアの気候は療養目的でもありましたが、次第に旅と絵を通して自らの精神性を深めていくようになります。《サハラ》には、そうした生と死、信仰、自然の力と向き合う人間の姿が重ねられていると考えられています。

沈黙の中にある崇高さ
《サハラ》は声高に語らずとも、静寂と光と空間によって、多くを語る作品です。ギヨーメは絵筆を通して、「見せる」のではなく、「感じさせる」絵画を目指しました。その結果、この作品は19世紀のオリエンタリズム絵画の中でも、最も内省的で崇高なものの一つとなっています。

3、モネ《戸外での人物習作》1886──光と色彩への果てなき挑戦

クロード・モネ (Cloude Monet) ”Essai de figure en plein-air, vers la droite”, ”Essai de figure en plein-air, vers la gauche”1886

クロード・モネ(Cloude Monet)の”Essai de figure en plein-air, vers la droite《屋外人物テスト、傘をさして右を向く女性》”、”Essai de figure en plein-air, vers la gauche《屋外人物テスト、傘をさして左を向く女性》”は、モデルを同じ位置に立たせながら、左右から差し込む光と色の変化を追った試作的な作品です。

当時まだ「人物画=室内」が常識だった時代、モネはあえて自然光の中の人間を描こうとしました。

これはただの「習作」ではなく、『印象派の核となる思想――「移ろう光の記録」』を語る一歩だったのです。

当時の常識を覆すように、屋外での人物描写に挑んだモネ。日差しの強さ、影の濃淡、ドレスに映る光の揺らぎ――まさに印象派の本質「その瞬間の視覚体験」を追求しています。

印象派というムーブメントが生まれる前夜、モネは自然の光を「記録する」芸術へと塗り替えていったのです。

作品の特徴

印象派における人物画の革新
印象派といえば風景画が多い印象ですが、モネはこの2作品で、屋外の自然光の中で人物を描くという斬新な試みに挑戦しました。当時の人物画はスタジオで描かれるのが常識だった中で、自然光を受けて変化する服の色、肌のトーン、背景との調和をリアルに描こうとした点が革新的です。

光と色彩の実験
モネの関心は「誰を描くか」ではなく、「光の中にある人物がどう見えるか」にあります。ドレスの布の透け方、影の青さ、背景とのコントラストなど、すべてが瞬間の光と空気を捉える実験であり、印象派の真髄ともいえる試みです。

構図のミニマルさと洗練
いずれの作品も、人物を中心に据え、背景をぼかすことで、主役が自然の中に溶け込みながらも際立つ構図となっています。視線やポーズに無理がなく、自然な動きの中に静かな詩情が宿っているのも、モネの感性の高さを示しています。

鑑賞のポイント

・視線をまず人物に集中させ、その服の色彩や光の反射を観察
ドレスに当たる日差しがどう描かれているか、影の色が単なる黒ではないことに注目してください。

・次に背景との一体感
ぼかされた背景は、人物の輪郭を曖昧にしながらも自然との調和を図り、「その瞬間」の空気感を生み出しています。

・人物のポーズや顔の向きにも注目
「右向き」と「左向き」の2作は対になっていて、視線の方向や構図のバランスに違いがあり、それぞれ異なる感情や雰囲気を漂わせます。

インスピレーションと背景

・モデルはモネの妻カミーユ・ドンシュー(Camille Doncieux)
この時期のモネは、妻カミーユを多く描いており、彼女の柔らかくエレガントな佇まいは、自然と調和する女性像として、印象派の理想と一致していました。

・戸外制作(エン・プレヌ・エール)の模索
この作品は、モネが風景と人物を一体化させるために屋外で制作した習作です。最終的にはこれらの習作を元に、”La Femme à l’ombrelle《日傘の女》”のような完成作品へとつながっていきます。

・1870年前後のパリ近郊での制作
フランス=プロイセン戦争の前後、モネは郊外に身を寄せ、自然の中での制作に没頭していました。都市の喧騒を離れ、自然と調和する生活と芸術を追求したこの時期の姿勢が、作品に反映されています。

モネの”Essai de figure en plein-air”シリーズは、印象派における「人物×自然」の探究として、後の印象派絵画の道を切り開いた重要な試みです。そこには単なる写実や美の追求だけでなく、「光の中に生きる人間の姿」という哲学的なまなざしも込められています。

4、カイユボット《床削り》1875──都会のリアリズムと労働者の美

ギュスターヴ・カイユボット(Gustave Caillebotte) ”Raboteurs de parquet《床削り》” 1875

ギュスターヴ・カイユボット(Gustave Caillebotte)の”Raboteurs de parquet《床削り》”は、1875年のパリのアパルトマン内部を舞台に、労働者の姿を芸術作品に昇華させた名作です。

筋肉の張った裸の上半身、削り屑が舞う床――これまで芸術の対象にならなかった「市井の男たち」の仕事に、美しさと誇りを見出しました。

カイユボット自身が裕福な出自であったことを思えば、このリアルな視点には驚きがあります。都市の変化と労働の現場を静かに見つめるその目線は、現代にも共鳴します。

広い木の床に屈みこむ労働者たち。裸足で、黙々と床を削る姿には、力強さと静けさが共存していました。

この作品は1875年のパリを写実的に描いたもので、当時としては労働者を主役にしたこと自体が異例でした。

カイユボットは裕福な家に生まれたエリートですが、彼の視点はいつも「働く男たちの尊厳」に向けられていたのです。

作品の特徴

労働者を主題にした革新性
当時、フランス絵画の主流は神話や歴史、上流階級の肖像画でした。カイユボットはこれに反し、日常の労働の風景、しかもブルジョワのアパルトマンの中で働く裸足の男たちを正面から描きました。

これは、19世紀の芸術としてはかなり斬新で、労働者を美術館にふさわしいモチーフとして取り上げた点に社会的な意義があります。

・写実主義と印象派のハイブリッド
カイユボットは印象派の一員でありながら、彼の技法はきわめて写実的です。《床削り》では、人物の筋肉や床の木目、光の反射まで緻密に描写されています。一方で、光と影の表現、空気感の出し方には印象派らしい感性も見られ、両者の技法が絶妙に融合しています。

・大胆な構図と視点
俯瞰的な視点で斜めに切り取られた部屋の中に3人の男たちが配置され、リズミカルに動いています。床板のラインが画面の奥行きを強調し、絵を見る私たちはまるでその場に立って彼らを見下ろしているかのような感覚になります。

この遠近法と構成力の高さも、カイユボットの秀でた点です。

鑑賞のポイント

光の動きを追う
窓の外から差し込む自然光が、床板に反射して美しく描かれています。視線を光の筋に沿って移動させると、部屋の広がりと時間の流れを感じ取ることができます。

・労働者の身体の動きに注目
男たちは一心に床を削る作業に集中しています。その筋肉の緊張、身体のねじれ、道具を握る手の力強さなどをじっくり見ると、静止画でありながら動きと音が伝わってくるようです。

・モチーフの対比
豪奢な木の床、窓からの自然光、装飾のない裸足の労働者たち。この対比は「労働と富」「肉体と空間」というテーマを浮き彫りにしており、階級社会を象徴的に映し出しています。

インスピレーションと背景

・自らの暮らしから着想
カイユボットは裕福な家に生まれた上流階級の人物で、法律の学位を持ちながらも画家の道に進みました。この《床削り》は、自身のパリのアパルトマンで実際に行われた床の修復作業をもとに描いたとされます。つまり、彼にとっては日常の一場面だったのです。

・労働者を描くことへの意識
カイユボットは、都市の労働者や近代化された都市空間へのまなざしを持っており、彼らの姿に美的価値を見出しました。当時は農村から都市に労働者が流入し、労働環境や社会格差が大きな問題となっていた時代。

《床削り》には、こうした社会的背景をも映し出す静かなリアリズムが息づいています。

• 主題の斬新さ(労働者を主役にしたこと)
• 技術の高さ(写実と印象派の融合)
• 芸術的な構図と光の描写
• 社会的なまなざしと美意識の両立

19世紀絵画の中でも特に高く評価されています。静かで力強く、社会と美術の接点を示した作品として、美術史において極めて重要な位置を占めています。

5、ドガ《舞台のバレエのリハーサル》1874──裏側にある緊張と美

エドガー・ドガ(Edgar Degas) ”Répétition d’un ballet sur la scène《舞台のバレエのリハーサル》” 1874

エドガー・ドガ(Edgar Degas)の《Répétition d’un ballet sur la scène(舞台のバレエのリハーサル)》1874年は、光と構図の妙を感じさせる名作です。

華やかなバレエの舞台裏を描きながら、ドガは少女たちの緊張感や疲労、集中力を正確に捉えました。

人工照明が使われる劇場の光、踊り手の柔らかな動き、そこにある「美の追求」のリアルが、画面全体に漂います。

絵を見ているというよりも、バレエ団の隅でそっとリハーサルを見守っているような臨場感。

作品の特徴

・舞台の裏側を描いたリアリズム
この作品は、華やかな本番の舞台ではなく、リハーサルの様子を切り取っています。ドガはバレリーナたちの「舞台裏の現実」に興味を持ち、ポーズや瞬間的な動きをスケッチのように切り取ることで、生活感と動きのリアルさを際立たせています。

・自然主義的な瞬間の捉え方
バレリーナたちは完璧なポーズを取っているのではなく、待機したり、片脚で休んだり、先生の指示を聞いたりと、何気ない瞬間が描かれています。この「ありのまま」の姿勢が、ドガ独特の視点であり、印象派の仲間たちとは一線を画す写実的感性を表しています。

・空間と構図の大胆さ
画面右側にバレエ教師を配し、左にバレリーナたちが弧を描くように配置されています。この斜めの構図は、奥行きと緊張感をもたらし、観客の視線を舞台空間に引き込んでいきます。

鑑賞のポイント

・光と影のコントラスト
舞台上のスポットライトが当たる部分と、背景の陰になった部分のコントラストに注目してみてください。ドガは人工照明の下での微妙な明暗を巧みに表現し、臨場感を生み出しています。

・人物の動きに注目
踊る者、休む者、教師に注意を向ける者——それぞれが異なるポーズで描かれており、リハーサルの生きたリズムが画面に宿っています。視線を動かしながら、一人ひとりの動きや表情に注目すると、舞台全体の「動きの流れ」が感じ取れるはずです。

・舞台の「空気」を感じる
背景には劇場の大道具が見え、床には練習の跡や影が残っています。視覚的な情報が舞台の「音」や「温度」までも連想させ、観客をまるでその場にいるかのように包み込みます。

インスピレーションと背景

・オペラ座との深い関わり
ドガはパリ・オペラ座のバックステージに頻繁に出入りし、何百枚ものスケッチを重ねてバレリーナたちの動きを研究しました。彼は肉体の動き、訓練、休憩の瞬間など、舞台の「裏側の真実」に強い関心を持っていました。

・モデルとしての「小さなバレリーナたち」
当時のバレリーナは多くが労働者階級の少女たちであり、ドガはそうした社会階層の現実も捉えています。中には貧しさから踊りを職業にした子どもたちも多く、ドガの描くバレエ作品には、華やかさと同時に少しの哀愁や現実の重みが含まれています。

・革新的な技法:写真と日本美術の影響
ドガは初期写真の構図や、浮世絵のような大胆なトリミングを作品に取り入れており、この作品にもその影響が見られます。画面の一部を切り取るような構図は、まるで瞬間を撮影したかのような印象を与えます。

• バレリーナの日常という革新的テーマ
• 繊細な動きと光の描写
• 舞台裏の空気感と社会的背景

見事に融合させた作品です。ただの「バレエ画」ではなく、人間の身体・都市文化・社会階層に鋭い視線を向けた、芸術としての深みが感じられます。

オルセー美術館を訪れるためのヒント

オルセー美術館の空いている時間

初めて私がオルセー美術館に訪れたのは6月水曜日の12時でした。事前にチケット予約をしていたので、入り口で待つことなく入れましたが、当日券の列には30人ほど人が並んでいました。

ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ、ポール・セザンヌ、クロード・モネなどの有名な作品の前には人だかりができていましたが、人が少なくなった時があり、時間を見たら13時半でした。

13時頃から15時頃まで、比較的空いているように思いました。

オルセー美術館の所要時間

オルセー美術館の全作品に目を通すとなると、最低でも3時間は必要です。私は見たいものをじっくり見て、もう一度見たい作品はまた戻って、その他の作品は足早に見ていきましたが、それでも3時間半ほどかかりました。

チケットは事前予約がおすすめ

オルセー美術館は人気観光スポットのひとつで、入場には長蛇の列ができます。スムーズに入館するためにも、チケットはオンラインでの事前予約がおすすめです。時間指定で並ばずに入場できるうえ、現地で手間も省けて、そして慌てなくてすみます。

▶︎【Getyourguide】オルセー美術館のチケットをチェック!(日本語サイト)

さいごに

初めてオルセー美術館を訪れたとき、下調べをせず、ただ感覚に任せて作品を鑑賞していました。縦に広がる元駅舎を歩くうちに体は次第に疲れていきましたが、自由に巡る時間はとても贅沢でした。

後から有名な作品を見逃していたことを知り、やはりアーティストの背景や鑑賞ポイントを知ることで、より深く楽しめるのだと実感しました。今回は第一日曜日の無料開放日に予約が取れ、見たかった作品を事前に調べてから再訪。より深く作品を鑑賞できました。

オルセー美術館は、ただ美術を鑑賞するだけでなく、歴史ある空間で名画に囲まれたひとときを過ごせます。また美術館の魅力を存分に味わうためにも、事前予約をしてゆっくり過ごしてみてはいかがでしょうか。

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