ベルリンの巨大な博物館島や歴史的な建造物を一通り巡ったあと、少し趣向を変えて、上質なデザインと静寂に身を浸してみませんか。

シャルロッテンブルク宮殿のすぐ向かいにひっそりと佇む「ブレーハン美術館(Bröhan-Museum)」は、一目見ただけでは見落としてしまいそうな小さなデザイン・工芸美術館です。

ここにあるのは、壁一面に掲げられた名画ばかりではありません。19世紀末から20世紀前半にかけてヨーロッパの暮らしを彩った、アール・ヌーヴォーやアール・デコ、ベルリン分離派の家具、ガラス工芸、銀食器たち。

一人のコレクターの審美眼によって集められた「生活の中の美」は、眺めるためだけのものではなく、私たちが日々暮らす空間へのインスピレーションに満ちています。少しだけアートやインテリアに興味がある方にこそおすすめしたい、大人の隠れ家的な魅力を実用的な散策ルートとともにお届けします。

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1|ガラスケースのない展示「誰かの邸宅」に迷い込んだような空気感

エクトール・ギマール(Hector Guimard)『椅子』(Stuhl)1900年頃

館内に一歩足を踏み入れてまず驚くのは、多くの家具や調度品がガラスケースの中ではなく、当時の「ひとつの部屋」としてコーディネートされて展示されていることです。

美しい木目のテーブル、それに寄り添う椅子、テーブルの上に置かれた一輪挿しや銀のティーセット。まるで数十年前のセンス溢れる住人の部屋に、そのままお邪魔したかのような錯覚を覚えます。

名画を順路通りに観ていく美術館とは異なり、ここにあるのは「空間そのものを呼吸する」ような鑑賞体験です。家具の配置や照明の落とし方、色と素材の組み合わされ方をぼんやり眺めているだけで、「自分の部屋の模様替えをどうしようか」「暮らしの中にどう色を取り入れようか」と、アイデアが自然と湧いてきます。

旅行者にとっては、長旅で高ぶった気を静め、ゆったりとした居心地の良さに浸れる絶好のインターミッションになるはずです。


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|木から芽生えたような有機的デザイン|ギマールとガイヤールの超絶技法

ウジェーヌ・ガイヤール(Eugène Gaillard)《飾り棚(Vitrine)》1899- 1900

アール・ヌーヴォーの展示エリアで圧倒的な存在感を放っているのが、フランスの巨匠エクトール・ギマール(Hector Guimard)やウジェーヌ・ガイヤール(Eugène Gaillard)の家具群です。

なかでもガイヤールが手掛けたキャビネットや椅子を間近で観察すると、その狂気的とも言える職人技に息をのまれます。

継ぎ目がない?植物が「生えてきた」ような立体感

ウジェーヌ・ガイヤール(Eugène Gaillard)《飾り棚(Vitrine)》1899- 1900

家具の表面を走る、しなやかな植物の蔓(つる)やしずくのような装飾。一見すると、出来上がった家具の上に、細かく彫った木製パーツを後から釘や接着剤で貼り付けたように見えます。

しかし、真実はその逆です。

  1. 木目のストライプを計算して接合
    高級木材の木目が一本の美しいラインとして繋がるよう、精密に計算して巨大な一つの木のブロック(塊)を作ります。
  2. 一つの塊から一気に彫り出す
    その塊から、家具の足やフレームという「骨組み」と、立体的な植物の「装飾」を、ひと繋がりのパーツとして削り出していくのです。

粘土でパーツをペタペタ貼り付けたのではなく、ひとつの粘土から指でぐっとパーツを引き出したような構造。

だからこそ、どこまでが家具の支柱で、どこからが飾りなのか、境界線が美しく消え去っています。接合部の影やズレが一切ないため、まるで「家具そのものが意志を持って植物のように成長した」かのような、独特の生命感が宿っているのです。

量産品には絶対に宿らない手作業の痕跡と執念を、ぜひ至近距離で目撃してみてください。


3|ベルリン旅の満足度を高める「シャルロッテンブルク半日散策ルート」

ブレーハン美術館の所要時間は1時間〜1時間半ほど。サイズ感がコンパクトだからこそ、鑑賞後にドッと疲れることがありません。

美術館のあるシャルロッテンブルク地区は、緑豊かで落ち着いた大人のエリア。以下のスポットと組み合わせることで、贅沢な半日コースが完成します。

  • シャルロッテンブルク宮殿と庭園(徒歩0分)
    美術館を出て道路を渡れば、すぐそこにプロイセン王家の美しい宮殿が広がります。館内に入らずとも、広大なバロック様式の庭園をのんびり散歩するだけで開放感たっぷり。旧西ベルリンの上品な雰囲気を肌で味わえます。
  • シャルフ=ゲルステンベルク・コレクション(徒歩1分)
    ブレーハン美術館のすぐ隣や向かいには、ピカソやクレーの貴重なコレクションを誇る「ベルクグルエン美術館」や、シュルレアリスム作品を集めた「シャルフ=ゲルステンベルク・コレクション」が並んでいます。少しアートの梯子(はしご)をしたい人には最適の密度です。
  • エリアのカフェで優雅なティータイム
    アートを鑑賞した後は、宮殿周辺のクラシカルなカフェへ。ドイツ名物の濃厚な「シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテ(黒い森のチェリーケーキ)」や季節のタルトを温かいコーヒーとともに味わいながら、旅のノートを広げる時間は格別です。


さいごに

大作を巡る喧騒を離れ、暮らしとデザインに寄り添う密やかなアートに出逢えるブレーハン美術館。シャルロッテンブルク宮殿の目と鼻の先にあり、周辺の個性的な美術館とあわせてゆったり巡れる大人の穴場エリアです。

ブレーハン美術館(Bröhan-Museum)

開館時間: 11:00〜18:00(火〜日曜/ 月曜休館)
入館料: 9ユーロ(企画展により変動)
公式サイト: ブレーハン美術館公式サイト
※ 料金・時間は変更になる場合があります。最新情報は公式サイトでご確認ください。

所在地: Schloßstraße 1a, 14059 Berlin(シャルロッテンブルク宮殿のすぐ向かい) 
アクセス: Uバーン2番線「Sophie-Charlotte-Platz」駅または「Kaiserdamm」駅から徒歩約10〜15分/ バスM45・109・309番「Schloss Charlottenburg」停留所が最寄り 


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