パリの喧騒から少し離れた場所に、ひっそりと佇む芸術の隠れ家ブルデル美術館(Musée Bourdelle)。パリの有名な美術館の華やかさとは少し違い、ブルデル美術館は静かで、ゆったりとした時間が流れる場所です。
かつてオーギュスト・ロダン(Auguste Rodin )の弟子でありながら、自らの道を切り拓いた彫刻家アントワーヌ・ブルデル(Antoine Bourdelle)。彼のアトリエ兼住居だったこの場所には、完成されたブロンズ像だけでなく、制作途中の石膏像やデッサン、道具、彫刻室までもが当時のまま残されており、まるでブルデルの創作の息づかいがそのまま残っているかのようです。
私が訪れた暑い日、中庭に入ると建物に囲まれた空間にふん わりと風が吹き、思わずここで少し休もうと足を止めました。夕方になると、学生や仕事帰りの人たちが庭に集まり、笑い声を交わしながらおしゃべりしている様子が見えます。
館内に入ると、ブルデルの彫刻ひとつひとつを、じっと見つめるとさまざまな感情を呼び起こします。暗く重い印象の作品もあれば、力強く生き生きとしたものもあり、見ているだけで心が揺さぶられました。
この記事では、そんなブルデル美術館の魅力や見どころ、作品の背景をご紹介します。もし芸術の力で少し心を整えたいなと思っているなら、ここはきっと忘れられない場所になるはずです。
アントワーヌ・ブルデル(Antoine Bourdelle)年表
1861年10月30日 フランス・モントーバンに生まれる。父親は木工職人で、幼少期から木彫に親しむ
1874年 13歳で学校を退学し、父親の工房で働きながら彫刻を学び始める
1888年 初めてのベートーヴェン像を制作
1890年 『ベートーヴェンの首飾り』を制作
1891年-1893年 コメディ・フランセーズの俳優の胸像を制作
1893年 オーギュスト・ロダンのアトリエに参加
1900年 パリ万国博覧会で『ポモナ』を発表
1905年-1912年 『ペネロペ』の制作
1910年 『弓を引くヘラクレス』を発表
1911年-1914年 『瀕死のケンタウロス』を制作
1914年 第一次世界大戦勃発により、戦争記念碑の制作に着手
1915年 『戦争の勝利』を制作
1920年代 日本を含む海外で個展を開催
1929年10月1日 パリで死去
ブルデル美術館を訪れて

入り口を抜けると、まず現れるのは開放的な中庭。その中央には、大地に根を張るようにどっしりと佇む彫刻群が並び、空に向かって手を伸ばすような姿が印象的でした。重々しいブロンズ像であるにもかかわらず、どこかしら詩的で、静かで、心を包み込むような優しさが漂っています。
そして建物の中へ入ると、そこにはブルデルのかつてのアトリエが当時のまま保存されていました。天井の高い窓からはやわらかな自然光が入り、木の床にはアトリエとして使われていた頃の痕跡が残っていて、まるでブルデルが今もそこに立って彫刻しているかのような錯覚を覚えます。
ブルデルはロダンの影響を受けながらも、より建築的で内省的な表現を追求した芸術家です。彼の作品には、表面の動き以上に内面の力強さが宿っているように感じます。
ブルデル美術館の収蔵作品

ここには完成よりも過程の美しさが残っている
ブルデルの彫刻作品の『Fontaine inachevée vers 1899』(未完成の噴水) が庭に置かれていました。自然の風化によるものと思われますが、全体的に溶けているような姿をしており、線を辿ると顔が浮かび上がってきます。その表情はただれているようにも見え、思わず少し怖さを覚えました。素材からは力強さが伝わる一方で、どこか暗くダークな印象もあり、鑑賞後には複雑な感情が残りました。
館内には、完成されたブロンズ像だけでなく、石膏像や試作段階の彫刻も多く展示されています。完成品よりも途中の作品に心が動かされることも少なくありません。制作途中の作品には、躊躇や試行錯誤の跡、創造の過程が生々しく刻まれており、それが観る者に想像力を与えてくれます。
訪問のヒント
混雑を避けるベストな時間帯
ブルデル美術館は、パリの有名美術館に比べて比較的空いています。特に午前中から14時頃は来館者が少なく、静かな空間で作品とじっくり向き合えます。
所要時間の目安
館内はコンパクトで、主要作品を見て回るなら1~2時間が目安です。アトリエや庭園でゆっくり過ごしたい方は、時間に余裕を持って訪れることをおすすめします。
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さいごに
ブルデル美術館は、単なる展示空間ではなく、まさに体験の場所です。彫刻というと静的な芸術のように思われがちですが、ここではむしろ、彫刻の持つ動きや精神性が空間全体を通して伝わってきます。
創作の途中、迷いや試行錯誤の痕跡が残る作品の数々を見ていると、自分も未完成のままで、歩いていいんだと思わせてくれます。
有名観光地に比べて来館者も少なく、静かにゆっくりと作品と向き合えるのも、この美術館の大きな魅力。目で観るのではなく、心で感じる体験を求める人にも、訪れてほしい場所です。
ブルデル美術館(Musée Bourdelle)
開館時間: 10:00~18:00(最終入館 17:30)
休館日: 月曜日、祝日
入場料: 常設展は無料/特別展は有料(内容による)
公式サイト: ブルデル美術館公式サイト
混雑具合: 比較的空いている(午前中から14時頃)
所要時間: 1〜2時間
住所: 18 Rue Antoine Bourdelle, 75015 Paris, France
アクセス: メトロ6号線「Montparnasse-Bienvenüe」駅から徒歩約5分
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