ベルリンで現代アートを体験するなら、ベルリニッシェ・ギャラリー(Berlinische Galerie)は外せません。ダダイスムから新即物主義、東欧アヴァンギャルドまで、20世紀ベルリンが育んだ芸術の息吹を感じられる唯一無二の美術館です。この記事では、実際に訪れた体験をもとに、ご紹介します。
ドイツにゆかりのある作品やアーティストを通して、ダダイスムから印象派、そしてさまざまな芸術運動をたどるうちに、その時代の息づかいが感じられ、ベルリンに初めて来た日のことを思い出しました。
2010年に初めてベルリンを訪れた私は、「自分が本当に生きたい人生は何か?」と問いながら、政治や社会への不信感を抱く迷える子羊でした。そんななか、街角で音楽を奏でながらさまざまな政策に異議を訴える人々の姿、そして国民の力によってベルリンの壁が崩壊した歴史を知り、この国では「声が届く」という実感を覚えたのです。その瞬間、鳥肌が立ち、「ここに住みたい」と、ベルリンという街に惚れたときを、いまも鮮明に覚えています。
無機質な外見のなかに、エネルギーと創造がぎっしりと詰まった有機的な街、ベルリン。あらためてこの街を思い出しながら、存在するとは何かと、自分を見つめ直す時間となりました。
ベルリニッシェ・ギャラリー

ベルリニッシェ・ギャラリー(Berlinische Galerie)は、1870年から現代までのベルリンで生まれた芸術作品を収蔵する、ドイツを代表する現代美術館です。クロイツベルク地区の静かな一角に位置し、戦後の旧東ドイツ時代のプレハブ建築プラッテンバウ(Plattenbau)に囲まれながら、独自の存在感を放っています。
なぜベルリニッシェ・ギャラリーが特別なのか
ベルリンという街は、20世紀の激動の歴史とともに歩んできました。分断と統一、破壊と再生、そうした時代の息づかいが、ここに展示される芸術作品に色濃く反映されています。
ケーテ・クルーゼ回顧展レポート
『Alles gut / It’s All Good Now』展(2025年3月7日~6月16日)
この日は、ケーテ・クルーゼ(Kaethe Kruse)の回顧展『Alles gut / It’s All Good Now』(2025年3月7日〜6月16日)が開催中でした。ベルリンでは初となる大規模展で、約50点におよぶ絵画、オブジェ、映像、写真、サウンド、パフォーマンス作品を通じて、1980年代以降の彼女の多面的な創作活動が総合的に展示されていました。彼女は、1980年代後半からベルリンのアートシーンを代表するアーティストであり、1982〜1987年には前衛的グループ『Die Toedliche Doris』のメンバーでもありました。
最初に入った部屋は暗く、ヘッドホンが吊るされ、スクリーンにはグループ期の記録や映像作品が流れています。ヘッドホンからは音が聞こえてきました。次のセクションでは、色とりどりのレコードの展示や、Die Toedliche Doris時代の楽器を薄茶色の革で包んだインスタレーション『In Leather』が。それらを見ながら、「ベルリンは音楽なくしては語れない街だな」と、感じました。
ケーテ・クルーゼ(Kaethe Kruse/1958年、ドイツ・ビュンデ生まれ)は、1980年代後半からベルリンのアートシーンを代表するアーティスト。
1982〜1987年には前衛的グループ「Die Tödliche Doris」のメンバーとして、音楽・パフォーマンス・映像などを横断する活動を展開。クルーゼの作品は、彼女自身の経験と密接に結びついているだけでなく、日常的な物を素材に、社会問題や個人的経験を反映したインスタレーションを制作しています。
ベルリン芸術大学でハインツ・エミグホルツに師事し、1997年に若手奨学金を受給。近年はベルリンを中心に活躍し、2021年にペーター・ヤコビ芸術デザイン財団賞を受賞。2023年からは国際芸術家委員会(IKG)会長を務めています。
印象派からダダイスムまで網羅
ドイツ印象派の傑作|レオ・レッサー・ユリィ(Leo Lesser Ury)『Berlin Street Scene (Leipziger Straße)』1889年

フランスの印象派の絵は数多く見てきましたが、ドイツの印象派(実際にはポーランド出身)にはまた異なる魅力があります。街灯のガスランプや店の灯りが、雨に濡れた道に反射して白く輝き、女性の装いから冬の時期と想像でき、吐く息が白く立ち上る様子まで思い描けます。
この作品から、クロード・モネ(Claude Monet)の『ヨーロッパ橋、サン=ラザール駅』(Le Pont de l’Europe, Gare Saint-Lazare)を思い出しました。蒸気機関車の煙や光の描写と、この作品のランプの灯りや白息が重なり、街のざわめきや馬車の音まで聞こえてきそうな、臨場感あふれる空気が漂っています。
現代インスタレーション|マリーヒェン・ダンツ(Mariechen Danz)『edge out』GASAG Art Prize 2024年
マリーヒェン・ダンツ(Mariechen Danz)『Edge Out』は、音・光・オブジェクトが融合したインスタレーション作品。空間全体を使った構成で、光と影が刻々と変化し、見る位置や角度によってまったく異なる表情を見せます。
各オブジェクトにはそれぞれテーマが込められており、近づいて観察すると素材の質感や音の反響がより鮮明に感じられます。吹き抜け構造を生かした展示で、2階から見下ろすと全体のリズムや構成が一望でき、まるで空間そのものが呼吸しているかのような感覚に包まれます。
収蔵作品について|3つの芸術運動
ベルリニッシェ・ギャラリーのコレクションは、ベルリンで生まれた芸術作品を中心に構成されています。特に、ベルリン・ダダや新即物主義(ノイエザッハリヒカイト)、東欧アヴァンギャルドなど、20世紀の革新的な芸術運動に焦点を当てています。これらの作品は、ベルリンが持つ独自の歴史と文化を反映しており、訪れる者に深い感銘を与えます。
- ベルリン・ダダ
第一次世界大戦後の混乱と不安定な時代背景のなかで生まれたダダ運動は、それまでの芸術の枠組みを打破し、自由で前衛的な表現を追求しました。
代表作家: ハンナ・ヘッヒ、ラウル・ハウスマンなど - 新即物主義(ノイエザッハリヒカイト)
1920年代のドイツで展開された新即物主義は、社会の現実を冷徹に描写することを特徴とします。そのときの生活や労働者の姿をリアルに表現した作品が展示されており、当時の社会状況を知る手がかりとなります。 - 東欧アヴァンギャルド
東欧諸国で展開されたアヴァンギャルド運動は、政治的抑圧や社会的変革の中で生まれました。ベルリニッシェ・ギャラリーでは、これらの地域の独自の視点から生まれた作品を通じて、異なる文化や歴史を感じることができます。
さいごに
戦後に建てられた旧東ドイツ(DDR)時代のプレハブ建築プラッテンバウ(Plattenbau)に囲まれ、静かに佇むベルリニッシェ・ギャラリー。ベルリンという街だからこそ、芸術家たちの創作活動に大きな影響を与え、独自の表現が生まれます。ダダイスム、新即物主義(ノイエザッハリヒカイト)、東欧アヴァンギャルドなどに関心のある方には、ぜひ訪れてほしいギャラリーです。その場でしか味わえない、音と光とともに満たされた空間で、ベルリンが育んだ芸術の数々を感じてみてください。
ベルリニッシェ・ギャラリー(Berlinisches Museum)
開館時間: 10:00~18:00(火曜日休館)
入館料: 10ユーロ(毎月第1水曜日6ユーロ)
公式サイト: ベルリニッシェ・ギャラリー(Berlinisches Museum)公式サイト
▶︎ ベルリンの街に残る第三帝国と冷戦の痕跡を、ガイドと歩きながら学べるウォーキングツアーもおすすめです。短時間で要点を押さえられ、街の理解が一気に深まります。
混雑具合: 空いている
所要時間: 2時〜3時間
住所: Alte Jakobstraße 124–128, 10969 Berlin, Germany
アクセス: U-Bahn U8「Moritzplatz」駅から徒歩約5分
合わせてチェック!
旅行前にホテル予約!
日本語対応で安心、料金や空室状況もすぐ確認できます。
