世界遺産・博物館島に建つ、まるで宮殿のような美術館。そこには、オーギュスト・ロダン(Auguste Rodin)の『Le Penseur』(考える人)をはじめ、マネ、シンケルなど19世紀ヨーロッパ美術の傑作が並びます。この記事では、実際に訪れた体験をもとに、旧国立美術館の魅力をご紹介します。


旧国立美術館(Alte Nationalgalerie)

旧国立美術館(Alte Nationalgalerie)は、ベルリンの博物館島にある19世紀美術専門の美術館です。1876年に開館し、ロマン主義から印象派まで、19世紀ヨーロッパ美術の流れを一望できるコレクションを誇ります。

古代ギリシャ神殿を思わせる壮麗な建物は、それ自体が芸術作品。1999年には博物館島の他の建造物とともに、ユネスコ世界遺産に登録されました。


実際に訪れてみて|宮殿のような空間に圧倒される

階段を上り、重厚な扉をくぐった瞬間、息を呑みました。

石造りの壁、天井まで伸びる柱、随所に施された装飾。これは美術館というより、まさに宮殿。豪華絢爛な建築空間そのものが、一つの芸術作品でした。


最上階から下りていく鑑賞ルート

最上階から順に降りていくルートで周りました。最初の部屋は宗教画の空間。壁一面に飾られた作品の数々が、まるで教会の聖堂にいるような雰囲気を醸し出しています。

光が上から降りてきて、静けさの中に祈りのような空気が流れていました。同じ階にはロマン主義の作品も展示されており、特にシンケルの風景画には足が止まりました。


必見の名作たち

ール・フリードリヒ・シンケル(Karl Friedrich Schinkel)『Cathédrale gothique au bord de l’eau』(水辺のゴシック聖堂)1813

カール・フリードリヒ・シンケル(Karl Friedrich Schinkel)Cathédrale gothique au bord de l’eau』(水辺のゴシック聖堂)1813|旧国立美術館(Alte Nationalgalerie)

プロイセンを代表する建築家カール・フリードリヒ・シンケル(Karl Friedrich Schinkel)による幻想的な風景画『Cathédrale gothique au bord de l’eau』(水辺のゴシック聖堂)は、静かな水辺にゴシック大聖堂が静かに佇み、夕暮れの神秘的な光に包まれています。

細かくまっすぐ伸びた尖塔、空の繊細な色の変化。詩的で趣のある雰囲気を作り出す筆致は、まるで写真のように正確です。建築家ならではの観察眼が、細部まで描き込まれた技術となってキャンバスに表れています。

この作品の見どころは、建築家ならではの正確で精密な建築の描写と、ロマン主義という感情豊かな芸術思想による感情表現が一つになっていることです。シンケルは実在しない理想的な大聖堂を創造し、中世への強い憧憬と宗教的な崇高さを目に見える形にしました。


作品の背景

この作品が描かれた1813年は、ナポレオン戦争の最中であり、当時のドイツでは愛国心と民族意識が高まっており、ゴシック建築はドイツ独自の文化遺産として再評価されていました。

興味深いのは、シンケルは建築家としては新古典主義の建築を手がける一方、絵画では中世ゴシックへの強い憧れを表現しました。

シンケルの主な建築作品

  • 聖ニコラス教会(ベルリン最古の教会)
  • 旧博物館
  • 博物館島の都市計画構想にも大きな影響


エドゥアード・マネ(Édouard Manet)『Dans la serre』(温室にて)1878-1879

エドゥアード・マネ(Édouard Manet)『Dans la serre』(温室にて)1878-1879|旧国立美術館(Alte Nationalgalerie)

エドゥアール・マネの『Dans la serre』(温室にて)は、19世紀パリの上流社会における夫婦関係の微妙な心理を描いた作品。親密であるはずの二人の間にある複雑な距離感が、構図から伝わってきます。

女性は正面を向いてベンチに座り、一点を見つめています。一方、男性は横に座らず、後ろから語りかけるような姿勢。この配置が生み出す緊張感は、当時のブルジョワ社会における夫婦の力学を物語っています。女性の凛とした表情からは近代的な自立心が感じられ、当時の女性の社会的地位の変化を反映しているようです。


色彩と筆致

背景の緑豊かな植物と、女性の衣装の繊細な筆致も見どころ。マネはガラス越しの光を巧みに捉え、温室という閉ざされた空間にモダンで都会的な雰囲気を醸し出しています。


オーギュスト・ロダン(Auguste Rodin)『Le Penseur』(考える人)1881-83

近代彫刻の父と称されるオーギュスト・ロダン(Auguste Rodin)の最も有名な作品の一つ『Le Penseur』(考える人)。パリのロダン美術館オルセー美術館でも見かける作品ですが、旧国立美術館の『考える人』は、ロダン本人が製作に関わった初期のブロンズ鋳造版とされています。

この彫刻は、深い思索に沈む裸体の男性を表現しており、右肘を左膝に置き、拳に顎を乗せた姿勢が印象的です。

鑑賞のポイントは、筋肉の緊張と弛緩が生み出す生命感です。ロダンは単なる思考する姿ではなく、全身で考える人間の姿を表現しました。背中の筋肉、腕の力強さ、そして瞑想的な表情が一体となり、肉体と精神の融合を体現しています。


「考える人」は何体あるの?

よく聞かれる疑問が、「パリにもベルリンにも『考える人』があるけど、どれが本物?」というもの。答えは、どれも本物です。ロダンの彫刻は主にブロンズ鋳造で作られており、オリジナルの原型から複数の鋳造が行われました。ロダンは生前に20体以上の鋳造を承認しており、現在世界各地の美術館で見ることができます。

  • オリジナル原型: 1880年代にロダンが粘土で制作
  • ロダン監修の鋳造: 生前に承認されたもの
  • 死後の鋳造: ロダンの死後、フランス政府の管理下で制作されたもの

旧国立美術館の作品は、初期のブロンズ鋳造版であり、ロダン本人が関わった貴重なバージョンです。


その他の注目作品

美術館には他にも魅力的な作品が多数展示されています。

  • カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ
    ドイツロマン主義を代表する画家。旧国立美術館のフリードリヒコレクションは、世界でも最も重要なものの一つです。
  • セザンヌ、モネ、ルノワール
    印象派の巨匠たちの作品も充実。特にセザンヌの風景画と静物画が見どころです。
  • ユーモラスな作品
    犬の鼻の上にソーセージを置いた作品など、真面目な芸術作品だけでなく、こうした遊び心のある作品に触れられるのも、この美術館の魅力です。

いくつか写真を Instagram@aqc_hummingbirdにも載せています。よければ覗いてみてください。

旧国立美術館(Alte Nationalgalerie)の歴史

旧国立美術館(Alte Nationalgalerie)外観

誕生のきっかけ

旧国立美術館の創設は、銀行家ヨハン・ハインリヒ・ヴァーゲナー(Johann Heinrich Wagener)の美術コレクション262点の寄贈がきっかけでした。1861年に設立が決定され、1876年に開館。

建築家フリードリヒ・アウグスト・シュテューラー(Friedrich August Stüler)が設計した建物は、後期古典主義様式と初期新ルネサンス様式が融合した美しいデザインです。


戦争と復興

第二次世界大戦で大きな被害を受けましたが、綿密な修復作業を経て往時の輝きを取り戻しました。1998年から2001年にかけて大規模な改修が行われ、最上階にはロマン主義作品を展示する新しい展示室が設けられました。



さいごに

旧国立美術館は、ロマン主義から印象派へと移り変わる美術史の流れを見ることができ、また建物も一体となって、19世紀ヨーロッパの精神世界を見せてくれる空間でした。

ベルリンを訪れる際には、博物館島巡りの一環として、ぜひこの美術館に足を運んでみてください。ロマン主義から印象派へと移り変わる美術史の流れを、実際の傑作を通じて体感できる貴重な機会となるでしょう。

旧国立美術館(Alte Nationalgalerie)

開館: 10:00〜18:00(月曜休館)
入館料: 14ユーロ
公式サイト: 旧国立美術館(Alte Nationalgalerie)公式サイト
ベルリン博物館島4館に優先入場できる1日チケットはこちら▶︎ 博物館島チケット(Museumsinsel-Ticket)

混雑状況: やや混んでいる
所要時間: 2〜3時間
住所: Bodestraße 1–3, 10178 Berlin, Germany
アクセス: Sバーン:Hackescher Markt駅から徒歩10分、トラム:Am Kupfergraben駅からすぐ、バス:複数路線が博物館島付近に停車


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