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『印象派からその先へ ― 世界に誇る吉野石膏コレクション展』に学ぶ複雑な時代を生き抜く力

カミーユ・ピサロ《モンフーコーの冬の池、雪の効果》1875年 吉野石膏コレクション

美術ブロガーの明菜です。ART HOURSでは、「ビジネスパーソンが美術展から何を学べるのか」をテーマに、オフィスから飛び出してアートから学ぶお手伝いをさせていただきます。

さて、今回は『印象派からその先へ ― 世界に誇る吉野石膏コレクション展』をご紹介します。三菱一号館美術館にて、2020年1月20日まで開催されている展覧会です。

タイトルにある「世界に誇る」のとおり、本展では良質な西洋絵画のコレクションを見ることができました。特にビジネスパーソンの皆さんは、次の3点を意識してご覧になってみてはいかがでしょうか。

①吉野石膏コレクションとは何か
②絵画のヒエラルキー崩壊後の画家たちの個性
③印象派のその先の西洋美術

吉野石膏コレクションとは?

吉野石膏株式会社は1901年に創業され、現在は石膏ボードを中心とした建材の研究開発や製造販売を行っています。絵画コレクションの形成は、社内の創造的環境づくりを目的として始まり、先代の社長、須藤永一郎の代からフランス近代絵画の収集を本格的にスタートさせました。

クロード・モネ《睡蓮》1906 年 吉野石膏コレクション

吉野石膏コレクションは、印象派の先駆けとなったコローやミレー、クールベから、印象派・後期印象派を代表するモネやルノワール、ピサロ、セザンヌ、ゴッホ、さらにキュビズムやエコール・ド・パリの作品を網羅しています。近代の西洋美術で重要な画家の作品を一望でき、国内の優れたフランス近代絵画コレクションと比べて決して数は多くないものの、良質なコレクションとなっています。

さらに、ビジネスパーソンとしてはコレクション形成の目的の一つである「社内の創作的環境づくり」も見逃せません。現代ではオフィスにアートを取り入れる企業も増えていますが、その先駆けという点でも吉野石膏株式会社の先見の明をうかがえます。

印象派とその先輩たちが起こした革命

19世紀前半頃まで、絵画にはジャンルによるヒエラルキーが存在していました。聖書や神話のストーリーを描いた「歴史画」が最高位で、次に肖像画、風俗画、風景画、静物画と続いていきます。どのジャンルでも写実的な描写が好まれ、表面が滑らかで筆の跡が残らない絵画が多く制作されました。

左:ジャン=フランソワ・ミレー《バター作りの女》1870年 吉野石膏コレクション、右:ジャン=バティスト・カミーユ・コロー《浅瀬を渡る山羊飼い、イタリアの思い出》 1872年頃 吉野石膏コレクション

このような「アカデミズム」に対抗する画家が現れたのが、19世紀後半のこと。背景には画家の反骨精神に加え、民主化や社会の多様化による美術アカデミーの権威の衰退もありました。ミレーはそれまで主役として取り上げられなかった農民をテーマに絵を描き、コローはアトリエの中ではなく戸外での習作を行うなど、画家は自らの表現を追求していきました。

ミレーやコローらに続いて登場するのが、モネ、ルノワール、ピサロといった印象派の画家たちです。彼らは絵具をパレットの上で混ぜるのではなく、原色のままキャンバスに載せ、明るい画面を作り上げました。絵具の本来の鮮やかな色彩をキャンバスに表現した、印象派特有のこの技法は「筆触分割」と呼ばれています。

左:カミーユ・ピサロ《モンフーコーの冬の池、雪の効果》1875年 吉野石膏コレクション、右:ピエール=オーギュスト・ルノワール《幼年期(ジャック・ガリマールの肖像)》1891年 吉野石膏コレクション

絵画のヒエラルキーが崩れていき、新たな表現の可能性が生まれたのが、印象派の時代です。複雑で不確実な現代を生きる現代のビジネスパーソンにとっても、印象派の画家の境遇に共感できるところがあるでしょう。「絵画はこうあるべき」といった規範が崩れる中、画家がどのように「自分の表現」を模索したのか、本展で読み解いてみてはいかがでしょうか。

押さえておきたい「印象派以外」の西洋美術

西洋美術におけるアカデミックな規範が崩れたことにより、さまざまな様式の絵画が誕生していきます。本展でも「印象派のその先」である数々のモダン・アートを見ることができるので、次の3つの絵画運動を簡単に紹介していきましょう。

①フォーヴィスム(野獣派)
②キュビスム
③エコール・ド・パリ

①フォーヴィスム(野獣派)

フォーヴィスムは20世紀初頭に起こった絵画運動で、原色を多様した激しい色彩が特徴です。

アンリ・マティス《緑と白のストライプのブラウスを着た読書する若い女》1924年 吉野石膏コレクション

フォーヴィスムを代表する画家にはマティス、ヴラマンク、マルケ、ルオーなどがおり、本展でも色彩に特徴のある作品を見ることができます。印象派による色彩の解放から、より激しい色彩を求めるフォーヴィスムへの流れを感じられることでしょう。

②キュビスム

キュビスムは20世紀初頭に起こった絵画運動で、対象を幾何学的図形に還元して描くのが特徴です。キュビズムの画家では、ピカソ、ブラックを覚えておきましょう。

キュビスムが起こるきっかけとなったのは、印象派の画家セザンヌの主張で、「自然の中のすべての事象は、幾何学的形式ーー円柱、球、円錐で構成されている」というものです。印象派がもたらしたのは色彩の革命だけでなく、形態の解放においても重要な役割を果たしたと言えるでしょう。

③エコール・ド・パリ

印象派に続いてフォーヴィスムやキュビスムなどの絵画運動が起こり、絵画における色彩や形態は大きく変化していきます。その一方で、写実や具象の表現は消えたわけではありません。

モーリス・ユトリロ《モンマルトルのミュレ通り》1911年頃 吉野石膏コレクション

具象的でありながら個性的な作品を残した画家も多く、代表的なのがシャガール、モディリアーニ、ユトリロでしょう。彼らは「エコール・ド・パリ(パリ派)」と呼ばれていますが、共通する様式を持っているわけではありません。エコール・ド・パリの画家たちは出身国もさまざまで、シャガールはロシア、モディリアーニはイタリア、ユトリロはフランスの出身です。日本人のレオナール・フジタ(藤田嗣治)もその一員です。

彼らはパリのモンマルトルやモンパルナスに住み、ゆるやかにまとまってボヘミアン的な生活をしていました。伝統と前衛が絡み合い、強烈な個性を打ち出すエコール・ド・パリの画家の表現を、本展でも存分に楽しむことができます。

【まとめ】『印象派からその先へ ― 世界に誇る吉野石膏コレクション展』をビジネスパーソンらしく味わう

展覧会を読み解くヒントとして、印象派前後の西洋美術の歴史についてお伝えしてきました。3つのポイントをおさらいしましょう。

①吉野石膏コレクションとは何か
②絵画のヒエラルキー崩壊後の画家たちの個性
③印象派のその先の西洋美術

印象派を紹介する展覧会は日本でも数多く開かれていますが、「その前後」まで含めて紹介しているのが本展の特徴と言えます。アカデミズムの規範から離れ、より自由に絵を描けるようになったとき、印象派の画家はどのように個性を出していったのでしょうか。複雑な社会を生きる現代のビジネスパーソンにとっても、個性を打ち出して生き抜いた画家に学ぶことは多いでしょう。

展覧会情報

『印象派からその先へ ― 世界に誇る吉野石膏コレクション展』
会期:2019年10月30日(水)~2020年1月20日(月)
会場:三菱一号館美術館
開館時間:10:00〜18:00 ※入館は閉館の30分前まで(1月3日を除く金曜、第2水曜、会期最終週平日は21:00まで)
休館日:月曜日(但し、祝日・振替休日の場合、1月20日、トークフリーデーの11月25日と12月30日は開館)
展覧会HP: https://mimt.jp/ygc/

文 美術ブロガー 明菜

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