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『窓展:窓をめぐるアートと建築の旅』に学ぶ身近で得られるビジネスのヒント

ゲルハルト・リヒター《8枚のガラス》2012年 ワコウ・ワークス・オブ・アート

美術ブロガーの明菜です。ART HOURSでは、「ビジネスパーソンが美術展から何を学べるのか」をテーマに、オフィスから飛び出してアートから学ぶお手伝いをさせていただきます。

さて、今回は『窓展:窓をめぐるアートと建築の旅』をご紹介します。東京国立近代美術館で2020年2月2日まで開催されており、同館と一般財団法人 窓研究所が主催する展覧会です。

奈良原一高《〈王国〉より》1956-58年 東京国立近代美術館 © IKKO NARAHARA

アートや建築における「窓」に注目した個性的な内容ですが、鑑賞後にも余韻が残る展覧会でした。ビジネスパーソンの皆さんは次の3つのポイントを参考に、身近なものから気づきを得る力を展覧会から学んでみてはいかがでしょうか。

①身近なものの新たな見方
②窓の意外な役割
③鑑賞後の変化

窓に光を当てた展覧会

まず、美術館で「窓をテーマにした展覧会」を開催すること自体に、普通は驚いてしまいます。窓はあまりにも身近すぎるため、どのような価値や意味があるのか、まったく考えたことが無い人がほとんどでしょう。

ローマン・シグネール《よろい戸》2012年 作家蔵 © Roman Signer

本展はアートや建築における「窓」に焦点を当てています。作品における窓の意味や立場もさまざまで、「窓」が一つの研究分野となることを裏付けるように、あらゆる角度から窓が紹介されるのです。

具体的な作品については次の章から見ていきますが、まずは「身近なところにも新しい発想の源がある」ことを念頭に置いていただければ、と思います。本展を鑑賞すること自体が、ビジネスパーソンにとってアイディアを生み出す思考のヒントになるでしょう。

窓から生まれる多様なコミュニケーション

窓は屋内と屋外をつなげるものである一方、ガラスなどによって空間を分断するものでもあります。このような二面性を持つが故に、窓を扱ったアートには興味深い作品が多いのではないでしょうか。

左:横溝静《Stranger No.5》1998年 個人蔵、右:横溝静《Stranger No.13》2000年 作家蔵

例えば、横溝静《Stranger》シリーズを見てみましょう。本作は見知らぬ人に対し、指定の日時に窓辺に立ってほしいと依頼し、窓の外から撮影することで制作されました。撮影者と被写体がお互いを知らず、言葉も交わさぬまま撮影された写真なのです。

本作は窓の二面性を端的に表していると言えるでしょう。2人を安全に隔てつつ、屋内と屋外で視線は交わっています。窓は2人を知らない者どうしのまま近づける装置となり、近くて遠い不思議な関係が生まれているように読み取れます。

ユゼフ・ロバコフスキ《わたしの窓から》1978-1999年 プロファイル・ファウンデーション

次に、ユゼフ・ロバコフスキ《わたしの窓から》を見てみましょう。本作は1978年から1999年にわたり、作家が住むポーランドの高層アパートの9階から記録された映像で、窓の外に見える広場を映しています。本作は横溝氏の作品とは反対に、建物の内側から外側にカメラを向けています。

1989年までの社会主義の体制下では、検閲も厳しく自由な撮影はできませんでした。ロバコフスキ氏が屋内で窓を隔てて外界を撮影したのは、身を守るためにも合理的と考えられます。ここに、内を外から分断しつつ、外から内へ情報を取り込む非対称な関係を保つ役割として、窓が機能していることを読み取れるでしょう。

ユゼフ・ロバコフスキ《わたしの窓から》1978-1999年 プロファイル・ファウンデーション

紹介した2つの作品からでも、窓を介した異なるコミュニケーションを読み取ることができました。本展ではあらゆる展示作品を通して「窓とは何か?」を考えることができます。当たり前のことを見直し、新たな価値を与える思考力を身につけることは、ビジネス機会の創出にも役立つのではないでしょうか。

なお、ポーランドで共産主義が消滅し市場経済体制が成立した1989年以降も、ロバコフスキ氏は一貫して窓から外界を撮影します。体制が変わるときの激動やその後の変化に対して、その中に混ざるのではなく9階の窓から記録し続けました。ロバコフスキ氏が外界のリアリティをどう受け止めていたのかを推察することができ、興味深い点です。

鑑賞後、窓の見方が変わる

本展を鑑賞した後、見慣れた窓に対する見方が変わったように感じます。さまざまな角度から窓を扱った作品を通して刺激を受け、何年も住んでいる何の変哲もない自宅の窓に対しても、意味を見出してしまいます。

左:アンリ・マティス《待つ》1921-22年 愛知県美術館、右:アンリ・マティス《窓辺の女》1920年 みぞえ画廊

例えば、近代美術の巨匠アンリ・マティスは、窓に画面の多くを割いた絵画を制作しています。登場人物は窓の外を見ており、屋内の物語と屋外の物語が別々に進行しつつ、時折干渉する期待を抱いてしまいます。

左:ヴォルフガング・ティルマンス《tree filling window》2002年 ワコウ・ワークス・オブ・アート、右:ヴォルフガング・ティルマンス《windowbox (47-37)》2000年 ワコウ・ワークス・オブ・アート

ヴォルフガング・ティルマンス氏の作品では、窓によって風景が切り取られています。《tree filling window》では窓の外に木がある事実だけでなく、木が窓枠を押し広げようとしているようにも見えました。

窓は建物に付属しているものですが、窓だけを切り取れば額縁のようにも見えてきます。本来の風通しなどの役割とは別に、「景色を区切る長方形の概念」としても窓を理解することができるでしょう。

JODI《My%Desktop OSX 10.4.7》2006年 作家蔵

アーティスト・ユニットJODIの映像作品では、コンピュータ上に次々にフォルダやファイルが増え、ウィンドウが開いていきます。私たちもパソコンを使っているとき、フォルダを開いたときの四角形の領域を「ウィンドウ」と自然に呼んでいます。これは窓の物理的な役割ではなく、概念だけが抽出されて引用された例と見ることができるでしょう。

窓は、照明が発達していなかった時代、屋内に光を取り入れるためにも、生活に欠かせないものでした。それだけでなく、本展を通して窓がさまざまな概念や役割を獲得してきたことが分かるでしょう。

岸田劉生《麗子肖像(麗子五歳之像)》1918年 東京国立近代美術館

窓を主軸に置いた大規模な展覧会は、他にはそうそう無いでしょう。本展は当たり前に存在する身近なものに光を当て、鑑賞後の生活にまで影響を与える展覧会です。

ビジネスパーソンにとっても、身近なものから着想を得て発展させ、新たな製品やサービスに活かす考え方は役に立ちます。表層的な楽しさだけでなく、消費者の日常を少し変えるような驚きの作り方も、本展で学ぶことができるのではないでしょうか。

【まとめ】『窓展:窓をめぐるアートと建築の旅』をビジネスパーソンらしく味わう

展覧会を読み解くヒントとして、身近なものから気づきを得る力についてお伝えしてきました。3つのポイントをまとめておきましょう。

①身近なものの新たな見方
②窓の意外な役割
③鑑賞後の変化

窓は生活において合理な理由で必要なだけでなく、私たちの文化にも深く関わっている、と考えを巡らせることができました。存在することが当たり前の「窓」について、ここまで深く考えたことはありません。

身近なものの見方を捉え直す視点は、窓以外にも用いることができるはずです。ビジネスパーソンにとっても、新たなアイディアを生み出す発想力についてヒントを得られる展覧会でしょう。

展覧会情報

『窓展:窓をめぐるアートと建築の旅』
会場:東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー
会期:2019年11月1日(金)~2020年2月2日(日)
開館時間:10:00-17:00 (金曜・土曜は10:00-20:00)
 *入館は閉館30分前まで
休館日:月曜日(1月13日は開館)、年末年始(12月28日[土]-2020年1月1日[水・祝])、1月14日[火]
美術館HP: https://www.momat.go.jp/

文 美術ブロガー 明菜

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