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自分達らしさを表現した作品をみんなで選ぶ。その過程で気づいたアートの可能性
−トレイルヘッズ株式会社 山口陽平

©︎西野 達

トレイルヘッズ株式会社代表取締役社長 山口陽平

「働き方」の拡張をおこない、「働く場」が持つ課題を解決するフィールド・デザイン会社。


「働く場」が持つ課題を解決する

―いきなりですが、オフィスに素敵なアート作品が飾られていますね。

山口さん はい。ひとつは70年代にアメリカのヨセミテ公園のトレイルヘッド(登山口)でもあるCAMP4というキャンプ場で撮影された写真の作品です。クライマーたちがこれからエル・キャピタン(世界最大の花崗岩の一枚岩)に登ろうとして、みんなが道具を出して計画しているところですね。トレイルヘッズがプロジェクトを作るシーンに似ているなと思って、創業時に購入しました。

 もうひとつの作品は、『いい音なってるね!』というシーンがすごく良くて、「細かいことは置いておいて、いい音が鳴ってるからそれでいいじゃん」的なゆるい空気感をオフィスに入れたくて。ちょうどオフィス用のオリジナルのスピーカーも作っていた時なので、その時の気持ちと空間構成にマッチしましたね 

最近購入したのは、西野 達さんの「Life’s Little Worries in Berlin」という作品です。最初の2作品は自分ひとりで購入を決めていたんですが、これは会社のメンバーと一緒にウェブ会議でつなげて、それぞれがArtScouterで作品を見ながら、話し合って決めました。初めての体験でしたが、とてもいい時間だったし、作品も気に入っています。

©︎西野 達

―オンラインで、社内で相談して、というのは新しいですね。その話は、のちほど詳しく伺いたいと思います。まず、御社の事業について教えてください。

山口さん 弊社は「働き方」の拡張をおこない、「働く場」が持つ課題を解決するフィールド・デザインをテーマにしています。

これまで、大小の仕事を含めると、400を超える成長企業のオフィス作りを手がけてきました。都心でのオフィスデザインや店舗デザインが中心ですが、キャンピングトレイラーをオフィスに改造したOFFICE CARAVANを運営したり、外遊び好きが集まるコワーキングスペース「MAKITAKI」、東京から約1時間半の距離にある檜原村では仕事もできる会員制キャンプ場「HINOKO」も運営しています。

―ユニークなお仕事ですね。どういう経緯で働き方やオフィスのデザインに関心を持つようになったんですか?

山口さん 学生の時は、友人と一緒に本を出版するプロジェクトに熱中していて、最初に不動産会社の内定をもらってからは、本作りに熱中していました。でもその本作りは仕事につながらず、卒業後はその不動産会社で働き始めました。

―不動産やオフィスに興味があったわけじゃないんですね!?

山口さん そうですね。その会社で不動産を売っていたんですが、自分が好きなグラフィックデザイナーとコラボしたカフェが原宿にあって、それを手掛けたオフィスデザインの会社に衝動的に転職しました。

―オフィスデザインという事業との出会いは偶然だったんですね。

山口さん はい。それでオフィスに関わるようになったら、当時はオフィスデザインが注目され始めたタイミングで、まだまだ無機質な空間が多く、余白がいっぱいあったので、やりがいを感じるようになりました。

同時に、オフィス空間だけでなく働き方というソフトな部分を探求したくなって、会社が運営していたメディアで面白い働き方をしている会社の取材を始めたんです。

それがきっかけで、もっと働き方を探求したくなり、2011年にオフィスデザイン会社の立ち上げに参画した時に、『BEYOND WORKING』というメディアを始めました。編集者やデザイナーと組んで好きなように運営できたので、すごく楽しかったですね。

コロナ禍で変わるオフィスの在り方

―2014年に創業した理由は?

山口さん 3社目に在籍している時に、友人から誘われて、中目黒にあるコワーキングスペース「MIDORI,so」に行ったんです。そこはクリエイティブ系の人が多くて、みんな役職に縛られず、組織に頼るわけでもなく、自由に働いていて、「こんなに楽しそうに仕事してる人っているんだ」って驚いたんですよ。

そこで「オフィスを作っていて、もっとかっこよい空間を作りたい」と話したら、面白そうだから一緒にやろうという感じでつながりができたので、ビヨンドワーキングというテーマで空間デザインチームを作ったんです。

そのチームで渋谷のIT企業のオフィスに土俵を作ったり、お客さんと一緒にDIYでオフィスを作ったり、いわゆるオフィスの概念をとらわれない実験的なことをやったらめちゃくちゃ楽しかったので、これをテーマにした会社を作ろうと決めて起業しました。

―業種を超えた刺激的なコラボの経験が、今のユニークな事業にもつながっているんですね。10年以上オフィスのデザインに関わってきて、どのような変化がありましたか?

山口さん 長い目で見ると、オフィスという機能も空間もどんどんオープンになって、社員と社外の人がミックスされるような作りになっている事例が増えてきていると思います。また、デスクにだけ座って仕事を黙々とやるという働き方は少なくなり、人それぞれの好みやシーンによって多様性が生まれてきています。

―今現在も続くコロナ禍で、「働き方」や「働く場所」が注目を集めていますが、これからどうなると予想していますか?

山口さん 正直なところ、まだ見えてきていないのですが……。ただ、短期的なアクションだとオフィスを縮小したり、解約したりという動きが増加しています。もう少し長い目でみて、オフィスに本当に必要な機能はなにかを考えて、そこだけを残して縮小したりリニューアルしたいという要望も増えています。

僕は人が集まって交わることがオフィスに必要な機能だと思いますが、コロナ禍ではなによりも安全性が求められるので、オフィス内の人の距離を広く取ろうとか、オンライン会議専用の部屋を作るなど安全面からのパーソナルスペースを重視する動きも出ています。 

一方で、リモートワークを一斉にスタートしたことで自由な働き方に目覚めた人もいて、それでパフォーマンスが上がるなら働く場所にこだわる必要はないのではと感じた方も多いのではないでしょうか?

経営陣が安全性の担保、自由な働き方、オフィスの必要性のバランスをどうとっていくのかがこれからのオフィスづくりの重要なテーマかと思います。

社員みんなでアート作品を選んだことで得た気づき

―山口さんも経営者ですが、コロナ禍でなにか心理的な変化はありましたか?

山口さん もちろんです。急激に状況が変化して、考えることがいろいろありました。その時にたまたま、AIで空間に最適なアートを選出するArtScouterというサービスで作品を見る機会があって、「あれ、なんかすごくほしいのがある」と思ったんです。

実は1月頃には一度ArtScouterを見ているのですがその時には個人的にアートを買おうという気持ちの盛り上がりはあまりありませんでした。ですが、コロナ禍で全メンバーがリモートワークをしていたので、「こんなタイミングだから、みんなでディスカッションしながらトレイルヘッズのオフィスに飾りたいと思うアートを決めれたら面白いんじゃないかな」と思いました。

―ちょっとした思いつきだったんですね。実際にその方法で作品を選んでみて、どう感じましたか?

山口さん みんなで作品を選びましたが、時間はそれほどかけませんでした。今までも、パッと見てこれ欲しいと思って買ったことが多いから、時間は必要ないかなと思っていたので。

でも、みんなに「オフィスにアートを置くとしたら、なにを選ぶ?」と意見を聞いたところ、思った以上に有意義なコミュニケーションになりました。

ひとつは、それまでアートという文脈でメンバーと話をすることがなかったので、アートを通してそれぞれの好みがわかったこと。

もうひとつ、トレイルヘッズだからこういう作品がいいんじゃないかというストーリーを、それぞれのメンバーの言葉で聞けたのが良かったですね。仕事上でうちのテイストってこういう感じだよねという話はするけど、アートを通してそれを聞くのは初めてだったのですごく新鮮でした。

―これまでにないコミュニケーションや気づきが得られたんですね。

山口さん そうですね。例えば音楽だと、好みの違いによってはいいコミュニケーションにならない可能性もあると思いますが、アートは正解も間違いもないのがいいですよね。それに、ArtScouterを使うとたくさんの作品が表示されて、ネームバリューとか有名、無名を問わず、フラットな状態で直感的に選ぶことができるが良かったです。

最終的には多数決の一票差で今オフィスにある作品を購入しましたが、僕ひとりだったらこれを選んでなかったと思います。

固定概念にとらわれずに新しい発想をすることが僕らの仕事では常に問われるので、新しいプロダクトや事業のアイデアを考える時に使うアイデアボードの近くに作品をかけて、さりげなくインスピレーションを受ける感じが良いと思います。

―コロナ禍でオフィスに求められる機能が変化するなかで、社内でアート選び、それを置くことのメリットはなんだと思いますか?

山口さん 自宅作業や個々が気持ちよく働けるワーケーションのような場はどんどん増えると思いますが、その流れのなかでオフィスが果たす役割の1つとして、会社としてのメッセージをどう伝えるのかが問われるでしょう。

みんなが集まることがオフィスの大事な要素ですが、コロナ禍でなかなか集まれなかったり、距離が縮められない状況がしばらく続くなかで、もしオフィスにみんなで選んだ作品があったら、共通して得られるメッセージがあると思うんです。

みんなでこの作品が表現している概念に共感したという体験や想いをシェアできるのも、ほかにないメリットだと思います。

―アートそのものの価値だけでなく、会社の理念や姿勢を象徴するシンボルとしての価値にもなるんですね。

山口さん そう思います。社内だけじゃなくて、クライアントと一緒にオフィスに置くアートを選ぶのも面白いですよね。

アートは、その会社のビジョン、ミッションや、オフィスとはどうあるべきかを聞くのとはまったく違う側面から、クライアントの考えてること、好きなことを聞ける可能性があると感じました。

トレイルヘッズ株式会社
東京都渋谷区富ヶ谷1丁目31-10 101
URL:https://trailheads.jp/

 

文 川内イオ / 写真 吉田和生

 

 

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