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十和田市現代美術館のコレクションから学ぶ現代アートの見方

スゥ・ドーホー《コーズ・アンド・エフェクト》

美術ブロガーの明菜です。ART HOURSでは、「ビジネスパーソンが美術展から何を学べるのか」をテーマに、オフィスから飛び出してアートから学ぶお手伝いをさせていただきます。

さて、今回は十和田市現代美術館のコレクションについて紹介していきます。十和田市現代美術館は2008年に開館した比較的新しい美術館で、国内外のアーティストによる現代アート作品を鑑賞することができます。現代アートはどう鑑賞すれば良いか分からず苦手意識を持っている人も多いのですが、そのような方にもぜひ訪れていただきたい美術館です。鑑賞方法の一例も、この記事で解説していきます。

この記事では、ビジネスパーソンに特に注目していただきたい点を3つご紹介します。現代アートに親しむきっかけにしていただければと思います。

①十和田市現代美術館の概要
②言葉を超えた現代アートを素直に、そして知識を活用して楽しむ
③通り全体を美術館に見立てる「アートとまちづくり」

十和田市現代美術館とそのコレクション

十和田市現代美術館は、「アートを通した新しい体験を提供する開かれた施設」として2008年に開館しました。草間彌生、奈良美智、ロン・ミュエクなど国内外の現代アーティスト33組による38点の作品がこの美術館のために制作され、常設されています。

ロン・ミュエク《スタンディング・ウーマン》

コレクションの展示は美術館の内側のみならず、敷地内や官庁街通りのさまざまな場所に展示されています。その多くが規模の大きなインスタレーションや立体作品で、ロン・ミュエク《スタンディング・ウーマン》は特に人気のある作品です。高さ約4メートルもある巨大な女性に圧倒されますが、皮膚や洋服などのディテールから女性の生活を推測することができ、夢中になって見続けてしまいます。

現代アートはどう見れば良いのか?

ところで、「現代アートは難しい」と思ったことはありませんか?あるいは、「現代アートを見るのは好きだけれど、どう捉えたら良いのか分からない」と感じたことはないでしょうか?

絵画や彫刻といった古くから存在する美術品の形式から離れた作品ほど、どう捉えたら良いのか分からなくなってしまう人は大勢います。ここで、十和田市現代美術館のコレクションを例に、筆者が実践している現代アートの1つの見方を紹介しましょう。

①見たこともない表現方法を素直に楽しむ
②自分の知識を使ってアート作品が投げかける問いを考える
③もしずっと頭に残り続ける作品があるのなら、その場または帰宅してから作家や背景について調べる

スゥ・ドーホー《コーズ・アンド・エフェクト》

例として、スゥ・ドーホー《コーズ・アンド・エフェクト》を一緒に見ていきましょう。

1. 見たこともない表現方法を素直に楽しむ

本作は高さ9メートルの大きな展示室の天井から床までを使った巨大なインスタレーションです。赤、オレンジ、透明とグラデーションで色が変化していきます。

生き物の血液を思わせる赤と、空虚を思わせる透明。これらの繋がりは生と死を直感させ、人間や動物の命の始まりと終わりを意識させます。

近づいてみると、小さな人間のフィギュアが肩車で連結されていることが分かりました。作品を構成するのは、赤、オレンジ、透明といった色がついた人間のフィギュアだったのです。死者から生者へと命をつなぎ、1つの社会が生まれていることを表すかのような作品ではないでしょうか。

スゥ・ドーホー《コーズ・アンド・エフェクト》

2. 自分の知識を使ってアート作品が投げかける問いを考える

脈々と受け継がれてきたDNAだけでなく、歴史や文化の大きな流れも感じ取ることができます。さらに想像を膨らませれば、人種や国籍が不明のフィギュアによって「人類史」が紡がれているようにも見え、現代の各国間の溝や対立へも目を向けることができるでしょう。

3. その場または帰宅してから作家や背景について調べる

調べてみると、スゥ氏は1962年に韓国で生まれ、ソウル大学を卒業後にアメリカの学校に渡った作家であることが分かりました。ニューヨークやロンドンを拠点に、作品発表や制作のために世界各地を移動している作家です。「スーツケースに収めて運べる家」というコンセプトに基づいたアート作品も制作しています。スゥ氏は自分をマイノリティとして自覚する機会が多く、文化のせめぎ合いを敏感に感じ取って制作に繋げていると読み取れるでしょう。

もちろん、ここで述べた解釈は一例です。他にも無数の捉え方ができ、1つの作品に数多の解釈を付与できるところが現代アートの面白さであり、魅力と言えます。

栗林隆《ザンプランド》

現代アートだけに限定されませんが、言葉で表現できない問いを表現するのがアートである、とは考えられないでしょうか。言葉を超えた表現手段としてアートを考察することは、ビジネスパーソンの創造力をも高める効果があるはずです。

私たちのコミュニケーションは言葉を介したものが圧倒的に多いので、言葉とは全く異なる表現に触れて刺激を受けることは、柔軟な思考を保つことにも寄与します。十和田市現代美術館のように現代アートのコレクションが充実している美術館を訪れる際には、「言葉を超えた表現手段」というポイントも意識してみてはいかがでしょうか。

アートとまちづくり

十和田市現代美術館が面している「官庁街通り」には、さまざまなアート作品が設置されています。通り全体を1つの美術館に見立てており、美術館の内外でアートを鑑賞することができます。

椿昇《アッタ》

官庁街通りは、省庁再編による国の事務所の統廃合や、合同庁舎整備に伴う出先機関の転居などにより、多くの空き地が見られるようになりました。この通りをより美しく魅力的なものにし、未来へ向けたまちづくりの一環として「Arts Towada」計画が進められ、十和田市現代美術館はその中核を担う施設として誕生したのです。

美術館の展示空間も、「閉じた空間」ではなく屋外に「開かれた空間」です。西沢立衛氏が設計した十和田市現代美術館では、1つの展示室で1つの作品を鑑賞することができ、自然光が多く取り入れられています。

アナ・ラウラ・アラエズ《光の橋》

例えば、アナ・ラウラ・アラエズ《光の橋》は屋内にありながら、作品が官庁街通りの桜並木に接続するかのように見えます。これは「偶然、窓の外に桜の木が見える」のではなく、「桜の木を作品の正面に捉えられるように」とのコンセプトの下で美術館が設計されているためです。

さらに、屋外に設置されているアートは、天気や時間によって見え方が異なるのも面白いです。例えば草間彌生《愛はとこしえ十和田でうたう》は、晴れの日と雨の日とでは全く異なる表情を見せるでしょう。晴天の元で両手を広げる少女と、雨が涙となって滴る少女とでは、全く異なる印象を抱くはずです。通り全体を美術館に見立てる構想は世界的にも稀な試みなので、青森県を訪れたら必ず見ておきたい場所です。

草間彌生《愛はとこしえ十和田でうたう》

【まとめ】十和田市現代美術館をビジネスパーソンらしく味わう

十和田市現代美術館のコレクションをヒントに、現代アートの見方やまちづくり事業についてお伝えしてきました。3つのポイントをまとめておきましょう。

①十和田市現代美術館の概要
②言葉を超えた現代アートを素直に、そして知識を活用して楽しむ
③通り全体を美術館に見立てる「アートとまちづくり」

一般的な建築と異なり、建物の内外がシームレスに繋がっているかのような展示室においてアート作品を鑑賞できる、面白い体験をすることができました。美術館とのコミッションワークによって制作されたコレクションは、いずれも十和田市に目を向けさせる取っかかりがあります。現代アートの鑑賞法に迷う方のために一例を紹介したので、ぜひ参考にしつつ自分なりの見方を探っていただければ、と思います。

美術館情報

十和田市現代美術館
〒034-0082
青森県十和田市西二番町10-9
美術館公式ホームページ:http://towadaartcenter.com/

文 美術ブロガー 明菜

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