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オフィスに初めてアートを飾る際のポイントとは
-小山登美夫ギャラリー

2019.08.06

小山登美夫ギャラリー 代表取締役
小山 登美夫さん

1996年に小山登美夫ギャラリーを開廊。国内外のアーティストによる展覧会を多数開催するとともに、有力な海外アートフェアにも多数出展。奈良美智氏や村上隆氏をはじめとする著名アーティストを輩出し、アートに関しての書籍の執筆を手掛けるなど、日本における現代アートの基礎を築いてきた。現在六本木のcomplexb665ビルにギャラリーを構える。


海外のオフィスでは壁があればアート作品を飾る

—小山さんのギャラリーでは、オフィス関係のお客様も多いのでしょうか。

小山氏  5、6年前から大手広告代理店のオフィスに展示する作品の提案を担当しています。

そこの会社の場合、年に1人、作家に新作を作ってもらって若手アーティストの作品を展示しています。

それに加えて、レンタルで、ダミアン・ハーストや蜷川実花さんらの作品も提供しています。

社内全体にアートが広がることで、何か変化はありましたか?

小山氏 先ほどの広告代理店の場合は、クリエイティブな会社なだけあって、社内のデザイナーさんたちも面白がっているようです。

でも、それ以上に外部から来られる方の方がより興味を持たれるようですね。

-小山さんから見て、アート作品を飾る習慣について、世界と日本とでは差を感じますか?

小山氏 米国にあるJPモルガン・チェースに行くと当然のように飾ってありますし、日本も外資系の企業では、日本のオフィスには日本人作家の作品を置きたいといって買っていかれる方もいます。

欧米では壁があれば普通に飾っていますよね。作品が置いてあるという状況の方が普通かもしれないですね。

©Kishio Suga

社員ひとりひとりが最大限楽しんで作品をえらぶのが一番

-オフィスに初めてアートを置く際の選ぶポイントを教えてください。

小山氏 ホテルに飾ってある作品のように、商業的や政治的に差し障らないように選んだ抽象的な作品はどの会社にも合うのかもしれませんが、会社の特徴を出せる方が僕はいいと思います。

社長が好きなものや、社風に合っているようなものもいいかもしれないですね。例えば、ZOZOの前澤社長が前衛的なものを飾っていると、さすがだな!って思わせることもあるでしょ。

逆に、大手自動車会社に飾ってある作品は、工業的な要素があるものが置かれています。

そこの会社の場合、本社には若手の作品を買うというプロジェクトもあって、いろんな人たちが推薦して選んだものがオフィスに掛かっているんです。それはやっぱり新しい才能を発掘するっていう会社の考え方があって展示しているのだと思います。

「著名な作品だからいい」というよりも、「何ですかこれ?」というものをあえて選んでみても面白いと思いますよ。「私あれ好き!」「俺は大嫌い!」っていう感想があっても、それはそれで面白さはある気がします。

企業で作品を買うときは、担当を決めて、その方が20、30万の予算を持って選ぶといいかもしれないですね。そのときに、何を選ぶかって結構難しいと思いますが、その場所にかける作品を決められるという状況を最大限楽しんで欲しいです。

選んだ作品が正しいということも、間違っているということもないですからね。必ず何かしらの刺激をみんなに与えてくれると思いますよ。

その人に対する評価になるかもしれないですし、人によっては、その作品自体が好きになってしまうかもしれない。

担当者は、何を言われても「俺がこれを選んだんだよ!」って開き直るしかないですね(笑)。当番制でもいいと思いますよ。

「次選びたい人?」っていう感じで作品選びにもエンターテイメント性を持たせてみてください。オフィスのどこか1箇所で何回かかけかえてみると違いもわかりやすいと思いますよ。

©Kishio Suga

-インテリアとアートの違いを教えてください。

小山氏 家具って作家物でも残るものってあまりありませんよね。

例えばコルビジェもたくさん椅子のデザインをしているのに、どこへ行っても四角い椅子ばっかり置いてあります。ですが、アートの場合は本当に1点ものなので、それだからこそ、展示する作品によってオフィスの色が出せると思います

アートは基本的には、自然ないし自然から来ている素材を、自然の一部である人間が作っています。

今この壁に掛かっている菅木志雄さんの作品も、いろんな木を組み合わせてできています。全ての作品は鉛筆や筆跡の力があって、時間もある。

そういったものが入っているというのが、インテリアとアートとの違いだと思います。作る行為が見えてくることがアートには大切なことです。

©Kishio Suga

情報が溢れる社会だからこそ、僕らは時代のイズムを作っていかなければいけない

-小山さんがアートを好きになられたきっかけを教えてください。

小山氏 もともとゴッホが好きだったんです。小学生の頃から絵を描くことが好きで、親父にお絵描き教室にも連れていってもらいましたよ。

中学高校では、落語研究会入ったのですが、その落語研究会の3年上の先輩が2人とも美術好きで、ジャスパー・ジョーンズを見せてくれたんです。

ゴッホのような作品ばかりを見ていた僕にとっては何がなんだかわからない作家で、わからないっていうのが面白くなってしまって、作品を調べに京橋図書館へ行ったり、西武美術館や原美術館へ色々なアート作品を見に行ったりしました。そこからは、文化的なものはあらゆるものを見ていました。

-小山さんのギャラリーの所属作家さんはジャンルが幅広いように感じます。

小山氏 それはとってもいいことだと思っています。映画で言えば、ジャッキー・チェンも見れば、ジャン=リュック・ゴダールも見る。それをやっていかないと面白くないと思っています。

僕自身、基本的には「これがアートだ!」という概念は全く考えたことがなくて、「これアートなの?」という疑問を持たせるような作品を見せるのが一番面白いと思っています。

こちらが考えられる範囲は狭いので、「これがアートだ!」なんて決め付けてしまうのはつまらないですよね。

趣味でしか考えないのも良くないし、出てきたものを面白いとちょっとでも思ったら、それはなんなんだろう?と思って展示をしているのですが、それがアートではないように思った人たちもいっぱいいたりして、怒られることもありますよ(笑)。

村上隆さんや奈良美智さんも元々はそうでしたね。ある意味では、恥を知りながら毎回やっています。それが基本です。

©Kishio Suga

-今、日本の美術業界が抱えている問題はありますか?

小山氏 まず日本の美術業界において問題なのは、選ぶ人たちがいないということなんです。

美術の世界では、ホイットニー美術館に置かれたという実績やビエンナーレの出展、大手のギャラリーの取り扱いによって作家に対する価値が上がるんです。美術史にも必ず残りますしね。

日本にも優秀なキュレーターやディーラーの方はいますが、日本はそういう方たちが前へ出て行き辛い環境であることは確かです。

-ギャラリストとして今後、どんなことを目指していきたいですか?

小山氏  アメリカの Gagosian (ガゴシアン)、Pace (ペース)、 David Zwirner (デヴィッド・ツヴィルナー)。スイスの Hauser & Wirth (ハウザー&ワース)、フランスの Perrotin (ペロタン) などの規模が大きなギャラリーは、香港・ニューヨーク・ロンドン・パリの全部に支店を出して、著名な作家さんたちや高額な作品を取り扱っています。

中には子供の教育に力を入れているところもありますが、僕らは彼らとは違うので、僕らにしかできないことを地道にやっていくしかないですね。

日本は極東で、マーケットは海外に比べて小さいのですが、美術作品は面白いものがあると個人的には思っています。

今の時代には、SNSもあって国も地域も境界がないですよね。みんなが個々に発信することもできるのは良いことだと思う一方で、小さなコミュニティのようなものがなくなってしまい、その時代性を象徴するような流儀はなくなってしまうんです。

例えば、モノ派の作家たちは今70代になりましたが、その方たちが20代の頃はまったく売れない貧乏な時代を生き抜いてやっと今売れているんです。4、50年を経て昔のコミュニティが復活して、興味を持たれているんです。

でも今若い世代の作家たちが、4、50年後にそれができるのかっていったら、難しいと思います。情報が溢れる時代だからこそ、コミュニティは逆にできにくくなるのではないでしょうか。

だからこそ、僕らギャラリストが有機的に結びつけていくことでイズムを作っていかなければいけない。

世界を見て世界へマーケットを広げることも大切だとは思いますが、そのためには自分たちの身近なところから始めなければいけません。

アート作品というのは、作家の元に作品があるだけではまだ価値を見出せていませんが、同じ作品をコレクターさんが10万円で買ってくれれば、少なくとも10万円の社会的な価値が発生するということになります。

そういうところから一歩一歩やっていくことで、それが10年後には1千万円になるかもしれないし、1億円になるかもしれないし、どんな価値が生まれるかわからないんです。

現代美術のマーケットは1950年代からできていて、たった70年くらいしか歴史がないですからね。まだまだこれからです。

小山登美夫ギャラリー
場所 │東京都港区六本木6-5-24 complex665 2F
開廊時間│11:00−19:00
休廊日│日月祝
http://tomiokoyamagallery.com/

文 小杉由布子 / 写真 吉田和生

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