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「The Art Club ~アートとビジネスの原点回帰~ Vol.03」
坂本和也(nca | nichido contemporary art所属)×アートコレクター宮津大輔

緊急事態宣言下で働き方が激変したビジネスパーソンの皆さまに、より多くのアーティストとの接点を提供するべく、このたび「The Art Club ~アートとビジネスの原点回帰~」をオンラインで連続開催することと致しました。

Vol.03は、ArtScouter登録ギャラリーであるnca | nichido contemporary art協力の元、アーティストの坂本和也さんと、アートコレクターの宮津大輔さんにご登壇いただきました。

100名以上のビジネスパーソンの方々にご参加いただいたイベントの内容を一部抜粋し、ご紹介致します。


宮津大輔(以下「宮津」と表記):よろしくお願いいたします。これからnca | nichido contemporary artに所属する坂本和也さんとのトークを始めていきたいと思います。それでは、作品を制作順に拝見しながら、坂本さんのアーティストとしてのキャリアや作風の変遷についてお話を伺っていきましょう。

坂本和也(以下「坂本」と表記):皆様はじめまして。坂本和也です。本日はよろしくお願いします。

宮津:こちらは、坂本さんが大学3年生の時に制作した作品ですね。「A chromosome map」と難しそうなタイトルが付けられていますが、制作意図や作品タイトルの意味を教えて頂けますか。

坂本:「A chromosome map」とは、直訳すると染色体地図という意味になります。始めに偶然的な絵の具の現象をキャンバス上に作っておいて、そのマチエール、つまり絵の具の凸凹を再度点描でトレースして制作しました。

これは、当時の自分が置かれている環境や状態を絵に仮託したもので、キャンバスに絵の具をぶちまけた際にできる絵の具の現象は、単に偶然性に支配されているのか、あるいはそこに何らかの規則性がある必然的な現象なのか、あるいはそのどちらでもないのかという事を考えながら制作していました。

キャンバス上で起きていることは、視座を変えれば自分の身の回りから地球規模で起こっている自然現象まで、マクロからミクロまである種共通するものがあるのではないか、ということを漠然と考えていました。

アーティストとして大きな転機となった東日本大震災

宮津:続いて、こちらがその1年後となる2012年の作品ですね。一転して、水草をモチーフにした作品へと随分変わりましたね。

坂本:はい。「Echinodorus」とは水草の名前です。なぜ水草を描いたのか、ご説明します。本作を制作する直前の2011年3月11日に、東日本大震災がありました。圧倒的な大災害を目の前にして、果たして自分が何をすべきか、そして何を描くべきかという問いがずっとありました。

本当に何を描いていいのかわからなくなってしまった時期もありました。悩んだ時は大体ヒントは足元に落ちているだろうなという考えから、当時自宅の部屋で育てていた水槽の中の水草を取り巻く生態系にふと興味がわきました。

水槽の中では、魚の呼吸によってCO2が排出され、それを吸収した水草が光合成によって酸素を作り、その酸素を魚が吸って、その魚の排泄物がバクテリアの餌となり、バクテリアは水を浄化するという、それぞれの生物が相互に重要な関係性を担うことで生態系を維持しています。

一番興味深かったのは、仮に水槽内を一つの生態系として見立てた時、水草や魚という水槽の中の構成員同士の関係性の複雑さが増せば増すほど安定度が高まっていくというところでした。逆にいえば、それぞれの関係性が希薄になり、どこかのバランスが一つでも崩れると、あっという間に水槽の中の生態系は崩壊するんです。

その複雑な関係性を相互に張り巡らせながら安定した生態系が構築されている様子は、まるで自分も含めて人間が生きていることの縮図みたいだと思ったことがきっかけで、水草を描き始めました。

宮津:いわゆる美大・芸大と言われるような美術系の大学に入る学生は、年次が上がると共通の悩みを抱きます。現代は、写真がなかった時代とは違い、あるものを見たままに描くということにジレンマを感じます。では、ミメーシス(模倣、再現)ではないオリジナルな描くべきものとは何か。アーティストとして追求すべき、自らの創造性やオリジナリティという問題に直面するわけです。

その場合、往々にして最初に見た坂本さんの「DNA地図」をテーマとした作品のように、少し気負いがちになります。日々の生活や思考から乖離してしまうわけです。しかしながら、坂本さんの場合はそこからいち早く抜け出ることができました。3.11をきっかけとして、自分の部屋にあった生態系の中に小宇宙を見て、その象徴として水草を描いていくということを発見したわけですよね。

そこで、この「Landscape gardening」という水草の作品を、大学、そして大学院生活の集大成として修了制作として描いたわけですよね。

坂本:はい。

宮津:今日は「アートとビジネスの原点回帰」というタイトルなので、坂本さんのアーティストトークでありながら、アートとビジネスの関係性にも同時に触れていきたいと思います。実は、素晴らしいアーティストの作品は必ず価値が出て歴史に残るかというと、そんなに簡単なことではないんです。そのアーティストが無名の頃から、その良さを見出して、作品を売るギャラリーと、作品を買うコレクターが存在しなければ評価されません。というか、土俵にものらないのです。

ピカソがアフリカ彫刻の影響を受けて制作した「アヴィニヨンの娘たち」という、キュビスムの先駆けとなった有名な作品がニューヨーク近代美術館(MOMA)に収蔵されています。これはGoogle等で画像を検索して頂くとよくわかりますが、一見したところ化け物みたいな絵ですよね(失礼!!)。

今、MOMAの白い壁にかかっているのを見れば、ピカソって凄いなと感じるかもしれません。しかし、描かれた当初は画家仲間や専門家には酷評されているんです。でも、当時この問題作を最初に買った個人コレクターがいたわけです。

ですから、やはり価値が定まっていない時に買う人の存在は非常に重要なんです。それから次に評論家による言説も大切です。作品は批評されることで、はじめて価値付けがなされます。クレメント・グリーンバーグやハロルド・ローゼンバーグといった評論家がアメリカの抽象表現主義を論評したからこそ、第二次大戦後にアートの中心地がパリからニューヨークへと移っていったわけですね。

最後に、美術館の役割も大切です。マーケティング技術を駆使しただけで、現在人気となっているアーティストであっても、その作品が100年後まで生き残ることは、まずないでしょう。人間はそれほど馬鹿ではありません。マーケティングに踊らされるなんて数十年がいいところです。では作品が100年生き残るために欠かせない条件とは何か?それは「きちんとした美術館で、展覧会が開催されているか」「美術館に作品が収蔵されているか」ということになります。

ですから、坂本さんがいくら良いアーティストだったとしても、美術館や評論家、コレクターやギャラリーといった「アートとビジネス」に関わりがあるプレイヤーが集まって、シンジケートのようにして盛り上げていかなければ作品の価値は上がらず、結果として作品が後世に遺っていきません。身も蓋もないようですが、安いものを人は大切にしません。高価なものしか大事にしないわけです。

司会:高くないと、作品が残っていかないというのは面白いですね。

宮津:みなさん、洋服ダンスを開けて考えてみて下さい。断捨離だって言う時に、サイズが合わなくてちょっと時代遅れになっても、ブランドものの高価だった服って捨てにくいじゃないですか。安い服なら捨てちゃうでしょう。アート作品も、原理的にはそれと全く同じなんです。生き残っていくためには、ある程度価格も上がる必要があるんです。

司会:坂本さんの作品「Landscape gardening」は、タグチ・アートコレクションに買い上げられ、今後いわき市立美術館で展示される予定(「Next World―夢みるチカラ タグチ・アートコレクション× いわき市立美術館」:2020/6/4~7/5)です。ここで坂本さんが専属的に契約しているギャラリー・日動コンテンポラリーアート(以下、ncaと表記)について、ご紹介頂けますでしょうか?

宮津:ncaは、銀座の一等地にある老舗・日動画廊の現代アート部門です。日動画廊は、戦前からエコール・ド・パリの中心的作家だった藤田嗣治を逆輸入して、日本で大々的に紹介したことで名を馳せました。

当時は、まだ存命中の日本人作家の洋画を手掛けることは相当に革新的なことでした。ですからncaは日動画廊の革新的な遺伝子を受け継ぎ、今まさに生きている現代の先端的アーティストを中心に取り扱っており、坂本さんもそのうちの一人といえるのではないでしょうか。

宮津:2014年に大学院を修了した坂本さんが、コマーシャルギャラリーでデビューしたのは、ncaで2015年に開催されたグループ展でした。ncaディレクターの岩瀬幸子さんと私の共同キュレーションで、若手の面白いアーティストを取り上げた企画でした。その中に、坂本さんも入っていたわけです。

大学院を出たての若手アーティストが、ncaのような一流ギャラリーの展覧会に参加できるのは、凄くラッキーなことですが、この時の気持ちはどうでしたか?

坂本:コマーシャルギャラリーの主催する展覧会で作品を発表するのはこれが初めてだったので、正直何もわからない状態でしたし、プレッシャーもありました。驚いたのは、展覧会初日にいらしたあるお客さんが、僕の作品を「ここに展示してあるもの全部」と言って買ってくださったことです。衝撃的でした。

宮津:本日はncaディレクターの岩瀬幸子さんにも参加頂いています。岩瀬さんは坂本さんがデビューした当時、どのあたりに面白さや可能性を感じたのでしょうか?

nca岩瀬幸子(以下「岩瀬」と表記):一見、抽象的な表現に見えるのですが、良く見ると様々な種類の水草が複雑に絡み合っていて、視点を変えるたびに目を惹く対象が変化し、ムービングイメージのようにみえる面白さがあります。また、画面全体から日本独特の生命観や、アーティスト自身の背景と芯の強さが伝わり、可能性を感じました。

司会:続いては、ncaでの2016年の個展を経て、いよいよ公立美術館での初の個展開催となった2017年の展覧会ですね。

宮津:鳥取県にある米子市美術館での個展「坂本和也 -Landscape gardening-」ですね。坂本さんは鳥取県出身ですが、同展は鳥取県出身の若手アーティストを3年に1回個展形式で展示するという主旨の展覧会でした。若干30歳にして、地元・生まれ故郷の公立美術館での展覧会は、ある意味で凱旋帰郷じゃないですか。その時の気持ちを、是非聞かせて下さい。

坂本:自分が生まれ育った町に、作家としてもう一度帰ってくることができたというのは凄く嬉しかったです。展示スペースもとても広く、大作から小品まで合計57点を展示しました。

岩瀬:美術館での展示実績、また同展で制作された展覧会カタログの効果もあり、国内だけではなく、海外からの問い合わせも以前より増えるようになりました。

グローバルな市場へと成熟する中華圏のアートシーンの現状

宮津:通常、若いうちに公立美術館で展覧会、ましてや個展を開催することは非常に難しいのですが、難なくクリアした坂本さんは、さらに台北日動畫廊(日動画廊の台北支店)において同地で、若手日本人アーティスト初となる個展を開催することになります。

宮津:そんな坂本さんの台湾での活躍をご紹介する前に、世界のアート市場における中華圏の重要性を整理しておきましょう。まず、世界のアートオークション市場を金額ベースで見ると、約30~35%くらいが中国、同程度でアメリカ、あとは英国とその他です。

中国は日本を抜いて現在世界第2位の経済大国ですから、アート市場における存在感も格別です。これに加え、華僑や華人、”Overseas Chinese”と言われる海外で成功した中国系の人々も旺盛な購買意欲を持っています。彼らは、自国の古美術だけでなく欧米で評価されている現代アートにも積極的な投資やコレクションを行っています。

こうした中華系の顧客向けに、欧米の一流画廊を中心に、上海、香港に支店を出すギャラリーが増えてきました。最近では台北への進出も盛んです。実は、日動画廊さんは、他に先駆けていち早く2015年秋から台北に支店を出しています。

岩瀬さん、なぜ日動画廊が上海、香港ではなく台北に開廊されたのか理由をご説明頂けますか。

岩瀬:1番の理由は弊社の顧客に長年お付き合いのある台湾のお客様が多いことです。出店に際し多くの助言とサポートをいただきました。中国は、税制上の問題点や政情への不安があり、香港は土地や物価が圧倒的に高く、維持費とのバランスを考えると私たちの事業計画に合いませんでした。その点、台北ではお客様の協力で好適な立地と広さのスペースを見つけることができたため、アジア進出の足掛かりとして、台湾から始めることにしました。

宮津:台北も現在では、欧米の大手ギャラリー進出が目立ってきていますね。近年、大規模なアートフェア「台北當代」(TAIPEI DANGDAI)も創設され、現代アートの新たな集積地として非常に注目されています。ここで、もう少しアート市場における価値形成の仕組みについて、解説したいと思います。

宮津:単純に言えば、市場価値とは、お金を基準とした定量的な評価であり、流通する地域×作品が制作された時代の掛け合わせで決まります。まず右側から、古美術は文字通り古い作品。「近代美術」は概ね産業革命~第一次世界大戦くらいまでの作品、「現代美術」は第二次世界大戦後~現代までの作品とお考え下さい。

左側の「ローカル」というのはある地域ですね。地方の美術館等で展示されている「郷士の作家」などが該当します。「ドメスティック」とは、国内市場を意味しています。たとえば、日本国内ではかなりの高価格で取引されている、誰もが知るような日本画の大家でも、海外では全く価値が認められていないケースもたくさんあります。そして、最後の「グローバル」に該当する作品とは、世界のどこにいっても高い評価を獲得しており、売買が可能なる作品を指します。

司会:坂本さんは、この図式に当てはめると、今どの当たりの立ち位置にいらっしゃるのでしょうか?

宮津:将来的に「現代美術」×「グローバル」というカテゴリーに属する可能性に指がかかっている状態ですね。まず国内の公立美術館で個展が開催されて、きちんと評価された若手アーティストとして認知されています。その後が、台北日動畫廊での個展です。この展覧会が成功すれば、坂本さんは晴れてドメスティックなプレイヤーから、アジアのプレイヤーになれるわけです。

台湾でつかんだグローバルなアーティストへの第一歩

宮津:さて、日動画廊さんが台北進出を果たしたのとほぼ同時期に、坂本さんもまた台湾に渡ります。文化庁の助成を受けた在外研修プログラムに参加し、1年間台湾で滞在制作を行いました。このあたりの経緯をお話頂けますか。

坂本:実は、僕が描いていた水草の原産地が偶然台湾だったんです。そこで、台湾の生態系に興味が湧きました。2015年に初めて行って、その2年後に文化庁の在外研修プログラムに応募したら通ったので、2017年から2018年まで1年間台北で制作活動をしました。

宮津:実際に台北に住んでみて、どのように感じましたか。

坂本:日本と違う点はたくさんありました。台北は最先端とスローなものが同時に存在している街なんです。半導体生産では世界一ですし、IT産業も高度に発達しています。表通りではフェラーリやポルシェなど高級車も頻繁に走っています。

でも、一歩街の路地裏に入ると全く近代化されていない、雑多でスローな生活もあるのが興味深い点でした。実際、僕がいつもスタジオの近くで食べていた屋台食堂は、レジもシンクもなくて、衛生面は大丈夫なのかなと思えるようなお店でした。

そして、アートの世界でも伝統的なものと最先端なものが同時に存在していました。台湾には、故宮博物院をはじめ、中国の歴史的な伝統工芸がたくさんあります。その一方で、僕が現地で知り合ったアーティストは最先端の技術を応用した3Dの映像作品を作っていたりと、とても最先端な物に敏感でした。

さらに、地理的に北回帰線上に位置しているので、熱帯、亜熱帯、温帯という複雑な気候があるのですが、非常に湿潤で、放っておいても植物が育つような環境なんです。都会でありながら、植物が身近などこにでもあるような状態でした。

台湾は、色々なものやことが共生しているな、と感じたので、ここから着想を得て先端なものと伝統、街と植物、日本人と原住民という対比から、台湾での個展は「共生」=「Symbiosis」というタイトルで開催しました。

坂本:展覧会名にもなっている「Symbiosis」という作品は、台湾の街に雑多に生えている植物と、台湾人の持つエネルギーや都市が増殖していく様子がオーバーラップして見えたことから、それを絵画で表現したものです。

岩瀬:展覧会は好評で、地方からも多くのお客様にお越しいただきました。同展のコンセプトが台湾の人々に合ったのだと思います。以前に坂本さんの作品を買っていただいたお客様にも新しくコレクションを追加していただきました。

宮津:坂本さんはドメスティックなプレイヤーからアジアのプレイヤーへと仲間入りを果たしたわけですが、台北での個展で非常に重要だった点が、日本人以外のお客様に売れたということです。どこで展覧会を開催したところで、購入者が日本人ばかりでは、アジアもグローバルも名ばかりで実態が伴っていないといえます。

グローバルなアーティストを目指して

宮津:ところで、今後の予定について教えて下さい。

坂本:現在のコロナ禍が収まれば、2021年の9月に「アーティスト・イン・レジデンス」という形で、6週間スペインのバルセロナに行って制作を行います。その後、現地で制作した作品を発表する予定があります。

宮津:「アーティスト・イン・レジデンス」というのは、アーティストがその国や地域以外の場所からやってきて、数週間なり数ヶ月なり、そこに一定期間滞在することです。滞在中はその国や地域の歴史、文化を学んで、そこで吸収したものをベースに作品制作を行い、レジデンス期間終了後に成果発表のための展覧会を開催するのが通例ですね。

たとえば、坂本さんは台北に1年間滞在した時に、日本と台北の違いや台湾の文化・経済に触発されて、それまでの水草ではなく陸生植物を描いて台北日動畫廊での個展につなげました。もし来年、スペインのバルセロナで滞在制作した時に、現地で坂本さんの展覧会をやりたいとヨーロッパのギャラリーからオファーがあれば、坂本さんはいよいよアジアのプレイヤーから、今度はヨーロッパのプレイヤーに片足を突っ込む形になるわけです。

こうし、年月そして経験を重ねるにしたがって、限られた一部のアーティストはドメスティックな存在から、徐々にアジアからヨーロッパそして、北米、遂には世界中へ活動範囲を広げながら、価値も上昇していくことになるわけです。

宮津:それでは、最後に坂本さんがncaで2020年3月~4月にかけて開催した最新の個展「Spring ephemeral」についての話しを伺って、締めくくりましょう。

岩瀬:最後の一週間はコロナの影響で時間短縮営業だったり、週末は休廊したりと制約がある中でも、何とか無事に終えることができました。

宮津:本展のタイトル「Spring ephemeral」にある「ephemeral」というのは、壊れやすいとか儚いという意味ですが、展覧会名に込められた意図や展示内容について坂本さんからご説明頂けますか。

坂本:展覧会名でもある「Spring ephemeral」とは、春先の短い期間に人知れず咲いて、他の花が咲き始める頃には枯れて、1年間のほとんどを地中で生息する花の総称です。こうした植物は、日の目を見るのは凄く短くて、スポットライトも当たらないような存在ではあるのですが、他の植物との競争を避けるためにライフサイクルに時間差をつけることで生存しているんですね。

実際に地上で咲く時間は短くて、花としては非常にか弱い存在ですが、生存する方法を知っているというところに興味がありました。社会的なこと、政治的なことで言えば、今現在、生活していく上で、僕の身近には貧困・紛争などはありません。しかし、世界には明日の暮らしも想像できないほど悲惨な現状があるというのは事実です。

その一方で春先に人知れず咲く小さな花々のほんの短い一生もまた真実なのだなと思います。こんな事を考えながらスプリングエフェメラルを描きました。。ただ、今回の展覧会そのものが人知れず始まり、人知れず終わってしまい文字通り「Spring ephemeral」になってしまったのは想定外でした。

宮津:上手いこといいますね。では、個別に作品を見てみましょう。

宮津:皆さんもびっくりされたかもしれませんが、ピンク、オレンジ、紫が大胆に使われています。これらは、今まで坂本さんの作品ではほとんど見たことがない色ですよね。これまでの作品はほとんどがブルーやグリーン系の色彩でした。これにはどういった心境の変化があったのでしょうか?

坂本:色は変わったけれど、やっていることは実はあまり変わっていません。このアブストラクト(抽象的)な絵に関しては、色も変わったので一見これまでとは全く別の作品に見えますが、これも「Spring ephemeral」として描きました。

作品のコンセプトは変わらないのですが、制作プロセス、つまりイメージを物質化するまでの時間が違うんですね。実は水草を描き始めた当初から、こうした即興的なタイプの絵も描いているんです。

宮津:これも同じ展覧会に出品されていた作品ですが、こちらはかなり具象っぽい表現ですね。

坂本:同じ絵の具を使いながらも、即興的にイメージを形にしたものが前の2つの作品でしたが、こちらは時間をかけて1枚の絵を描いたものです。両方とも僕にとっては等しく大事な作品です。

冒頭でお話をしたように、僕のスタジオを水槽に例えるならば、このスタジオの生態系を安定化させる重要な構成員の一つ、重要な役割を抽象的なタイプの絵が担っているんです。

宮津:なるほど、この展覧会の作品売上やお客様からの評判はいかがでしたか?

岩瀬:幸いなことに、ぎりぎり、まだコロナの大きな影響は受けなかったように思います。大々的にオープニングを開催することはできませんでしたが、お客様に時間差でお越しいただくことが出来ました。売上は全体の70%売れました。この時期に気持ちが明るくなると展示も好評でした。

宮津:坂本さんのこれまでとは異なる新しい色彩へのチャレンジに対するお客様からの反応はどうでしたか?

岩瀬:新しいお客様も含めて、展示の第一印象で明るいピンクの色彩がまず目に入る方が多かったようで、ピンク系の作品が好評で先に売れていきました。そのあとから青系の作品が売れるという状況でした。

宮津:さて、ここまで約1時間ほど坂本和也さんのキャリアをたどりながら、作品コンセプトや表現とその変遷をご紹介してきました。そして、アート・ギャラリーがどのようなビジネスで、どのようにアーティストと共存共栄しているのかかについてもお話しさせていただきました。

坂本さんは大学院を修了して、コマーシャルギャラリーでのデビューから個展やグループ展といった実績を積み、公立美術館での個展、アジアでの個展を経て、インターナショナルなアートフェアでも作品は高い評価を得ています。そして、いよいよ来年はヨーロッパにも進出予定です。

こうして少しずつ若手アーティストがステップアップしていく過程を、アーティストトークでありながら、経済的あるいは社会システムの視点を意識しながら、今日のテーマである「アートとビジネスの原点回帰」についてお話をしてまいりました。皆様、長時間にわたり、ご清聴いただきまして、誠にありがとうございました。

坂本:ありがとうございました。


ArtScouterは今後もビジネスパーソンがアーティストと触れ合える機会として「The Art Club ~アートとビジネスの原点回帰」を開催致します。その他のイベント情報も合わせて、TwitterFacebookにて発信しておりますので是非ご確認ください。

ArtScouterで、より多くの坂本さんの作品をみたい、または価格を確認したい場合はこちらまでお問い合わせください。

文  かるび

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