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「The Art Club ~アートとビジネスの原点回帰~ Vol.04」
川内理香子(WAITINGROOM所属)×山内宏泰

「The Art Club ~アートとビジネスの原点回帰~」は、緊急事態宣言下で働き方が激変したビジネスパーソンの皆さまに、より多くのアーティストとの接点を提供するべくArtScouter事務局により開催されました。

GW前後に3回連続で集中開催されたラストを飾るVol.4では、ArtScouter登録ギャラリーであるWAITINGROOM様ご協力のもと、アーティストの川内理香子さん(ArtScouter登録アーティスト)、山内宏泰さんにインタビュアーとしてご登壇いただきました。

120名以上のビジネスパーソンの方々にご参加いただいたイベントの内容を一部抜粋し、ご紹介致します。


山内宏泰(以下、「山内」と表記):ライターの山内宏泰と申します。本日は、アートギャラリー・WAITINGROOM所属アーティストの川内理香子さんと、代表の芦川朋子さんにお話をお伺いしていきます。芦川さんには、川内さんの作品紹介を軸として、「アートとビジネスの原点回帰」というテーマでも様々な事例をご紹介いただきます。よろしくお願いします。

川内理香子&芦川朋子(以下、それぞれ「川内」、「芦川」と表記):よろしくお願いします。

山内:まずは近況をお伺いします。このようなコロナ禍の状況下ではありますが、川内さんの近況の制作活動について教えて頂けますか。

川内:アトリエには行けていないので、油絵の制作はストップしています。でも、その分作品のテーマをゆっくり探る時間に当てることができています。私はあまりONとOFFの使い分けをするタイプではなくて、常に何か探している感じなんですね。例えば自宅で何気なくネットサーフィンなどをしている時でも、そこから何かインスピレーションを突然得られる時もあったりします。

山内:この2ヶ月間のコロナ騒動で、何か影響を受けて制作した作品はあるんですか。

川内:これがコロナだ、みたいな着想を得て作った作品はないのですが、以前からウイルスについては非常に関心がありました。ウイルスって単体では生きられないから、常に身体と共存しているものじゃないですか。実際、エボラ出血熱をテーマにして描いた「プレッツェル」という作品を制作したことがあります。

川内さんのアーティストとしての原点を探る

山内:では、ここからはデビュー当時を振り返りながら、川内さんのプロフィールやキャリア、作品に込めた思いなどを伺っていきましょう。川内さんのデビューは早く、大学3年生の時でしたね。

川内:はい。2015年に「shiseido art egg」という資生堂さんの公募展で入選してSHISEIDO GALLERYでの展示が展覧会デビューとなります。

芦川:化粧品の大手企業としても非常に有名な資生堂は、1919年に日本最古のギャラリーを開廊しているように、芸術活動支援に熱心な企業の一つです。そこで同社が若手作家の開拓支援を行う中で生まれたのが若手の登竜門と言われている「shiseido art egg」という公募展ですね。何千人もの応募の中から、わずか年間3名が選ばれる狭き門ですが、川内さんはその3名に選出され、またその中から1名に授与されるshiseido art egg賞を史上最年少で受賞しました。

山内:川内さんがアーティストになろうと決意したのはいつ頃からだったのでしょうか?

川内:物心ついたころから自分は画家になるものだと勝手に思い込んでいたので、アーティストになろう、といったように特別に決意したことはないんです。普通にしていたらこうなってしまったという感じで。

7歳の時に、新聞で加山又造が描いた龍安寺天井画の龍の絵を見て凄く感動したのを未だに覚えているんです。それから3日間、ぶっ続けで描き続けて龍の絵を夢中で模写しました。それが原体験ですね。

山内:何がそんなに川内さんに響いたのでしょうか?

川内:龍の絵もそうですが、日本画の簡潔な線描で描かれた書跡を見ていると、それが虎や、木の幹など具体的な形に見える時もあれば、ただの線にしか見えない瞬間もあって、昔から面白いなと思っていました。きっと、日本画の持つこうした二面性に対して、小さい時に私の心が反応したのではないかと思います。

「食べること」への興味から身体感覚をテーマとした作品へ

山内:続いて、制作全般や作品のコンセプトなども教えていただけますか?

川内:私の作品制作では、「身体」が大事なキーワードになっています。幼少時から、食べることによる身体の変化に敏感でした。食べることによって、体が少し重くなったり、それまで地続きだった世界がちょっと変わってしまうような感覚を覚えたりと、食べることに身体の生々しさを感じ過ぎてしまうんです。

だから食べるのが億劫になってしまうこともあったのですが、逆に食べないでいると、今度はお腹が空いてくるので、また食べる方に意識が向いてくる。でも、結局食べることへの興味は元を辿れば身体感覚への興味だということに制作を通して気づきました。

山内:自分にとって一番身近で切実なものが、創作のコンセプトになっているのですね。

川内:そうですね。私の場合、普段見たり考えたりしたものが作品に生かされることが多いですね。

芦川:デビュー時以来、川内さんの作品の変遷を見ていくと、鉛筆の線一本で制作したドローイングから始まり、油彩のペインティングになり、次に針金、そしてネオン管の作品へと線を様々な素材で色々な形に変容させて表現しているのが一つの特徴です。素材や技法は違っていても、基本は同じ感覚で一貫して「身体性」について表現されていますよね。

川内:そうですね。絵画を描いている時、自分の方へ、手前へと物質感を伴って盛り上がってくるような空間性を感じることが多くて、自分の絵画は凄く彫刻に近いなと思っていました。そこで、ドローイングで感じていた感覚を、実際の3次元の空間に起こしてみたのが、針金やネオン管の作品なんです。

手前に盛り上がってくるような空間を感じて、目で見て、触れる。すると自分の身体がその空間に触れているような感覚になるんです。

山内:川内さんにとって、絵を描くというのは、身体と思考の関係性を深く探る試みでもあるのですね。

川内:そうですね。絵を描くと、空間によって、自分の身体を感覚することができますし、そこには自分のイメージや思考が投影されているので、直接自分の思考に触れられる感覚、あるいは思考に取り込まれているような感覚も得られるんです。

小さい時から、いつも身体と思考の関係はどうなっているのだろうか、と思ってました。普段の生活では思考と身体のバランスの中で行ったり来たりみたいな感じで生きていますが、絵を描くと、思考と身体のどちらにも振り切れて、しかも身体と思考をどちらも全力で感じられるようになるんです。

山内:芦川さんは、川内さんの作品のどのような点に惹かれたのでしょうか?

芦川:私と川内さんの出会いは、先ほどお話ししたshiseido art eggの展覧会場でした。SHISEIDO GALLERYは天井高が5mもあるので、大型インスタレーション作品で勝負する作家が多いのですが、そんな中、紙と鉛筆によるドローイングという非常にシンプルな作品で勝負をするという度胸の良さがあるなと思ったんです。そして、このシンプルなドローイングは今後何かしらの形で拡張していく可能性を感じました。

実は私も学生時代は制作する側にいて、肉体そのものを使うパフォーマンスアートや、身体性を追求する表現に非常に興味がありました。だから一目で作品が好きになり、会場に在廊していた川内さんに声をかけて、いきなり「作品を買いたいのだけど」と切り出しましたね。

その後すぐに、自宅のマンションを訪問して、いろいろ作品を見せてもらって、その場で作品を数点購入させて頂いてという形でした。

作家性が広がる転機となった個展「Tiger Tiger, burning bright」について

芦川:川内さんの原点である「食」や「身体性」について取り上げてきましたが、その後2018年にWAITINGROOMで開催した個展「Tiger Tiger, burning bright」は川内さんにとっても転機になりました。ここでは新たなコンセプトとして「神話」が取り上げられています。

川内:食の本を何か読みたいと思って探していた時に、たまたま文化人類学者のレヴィ=ストロースが書いた『生のものと、火を通したもの』という本を見つけて読んだことがきっかけでした。

食に関することが書かれているのかなと思って読んでみたら、そこには神話の世界が広がっていて。レヴィ=ストロースは、一見して支離滅裂に思える神話には、様々な暗喩が含まれていると分析しています。ストーリーの中に登場する動物や植物など、あらゆる具体物に隠された意味を紐解くと、話に整合性が見えてくるのですね。

中でも興味深かったのが、全ての神話の中心に置かれるのは「食」であり、原始的な狩猟採集生活を行っている民族の中には、食べること=体に異物を取り込むことであると考えている人々がいるということでした。

私も、自分の外にあるものを一度自分に取り込んで、長い時間をかけて自分の中で消化して排泄して、そうやって自分の体が形作られていって・・・というサイクルの中で、食に対して異物感みたいな感覚をずっと持っているのですが、長い間それは私だけの特異な感覚だと思っていたんです。

でも、実は人々の間に広く伝わってきた神話の中ではそれは当たり前のこととされていたことを発見して、凄くシンパシーを感じるところがありましたね。

それで、神話の中でレヴィ=ストロースが消化や排泄などの「食」に関するものを暗喩すると分析しているナマケモノやワニといった動物にも関心が向き、強く描きたいと思うようになりました。だから、元々の興味であった「食」や「身体性」というコンセプトは変わらないけれど、画面上に具体化されるものが少し変わって出てきたのがこの個展なんです。

山内:川内さんの中で、次は何が出てくるのだろうというのは、何か予感などがあるものなのですか?

川内:私の場合は、手を動かしながら出てくることが多いです。出来上がった作品を時間が経ってから見返してみて、あの時自分はこのように考えていたのだな、とわかることもよくあります。

作品を制作していると、自分の無意識的な部分が、作品に表出されているのではないかと思うんです。その無意識も自分にとって身体と同様、重要なキーワードだと思っています。というのも身体も無意識なのではないかと思うからです。

身体と思考みたいな対比ができるとしたら、身体は無意識、思考は意識の領域だと考えられると思います。身体も、無意識も意識を超えて主張してくるような感覚があるので、そういった観点から、身体と無意識は同義語と言えるのではないかと思っています。

川内作品がビジネスパーソンに支持される意外な理由とは

(ArtScouter掲載作品)

山内:川内さんの作品は、身体や無意識といった、一見ビジネスの世界とは縁遠く見えるようなテーマを扱っていながら、SHISEIDO GALLERYをはじめ、マネックス証券やヴィジョナル社(ビズリーチ社)など、ビジネス系のコレクターや企業から高く評価されていますよね。これはなぜなのでしょうか?

芦川:意識や身体といった誰もが持っているもの、感じられるものをちょっと特殊な感覚や視点で切り取っているのが川内さんの作品ですよね。本当は自分に非常に近い存在のものを、全く違う視点でアウトプットしている点が、クリエイティブな発想力が求められているビジネスパーソンから高く評価されている点だと思います。

山内:せっかくなので、川内さんの作品にゆかりのある企業や団体をいくつか紹介していただけますか?

芦川:まず、マネックス証券さんです。同社では毎年「ART IN THE OFFICE」というアートプログラムを実施しています。ここで選出された1名(1組)のアーティストが、実際に同社のプレスルーム(会議室)で滞在制作を行い、一定期間社内のギャラリーでの展示機会を得られるという仕組みです。

川内さんは、2014年の第7回目に受賞しています。この時、川内さんはお寿司の作品を35枚ほど展示しましたよね。

川内:お寿司って、ご飯の上にお刺身が乗っただけの凄くシンプルな料理ですよね。でも同じフォーマットの中に色や、切り方、飾り方、味わいなど非常に多様性が感じられるのが、ちょうど会社の中で働くビジネスパーソンの多様性にたとえられるのかなと思って制作しました。

芦川:この時、川内さんの作品からインスピレーションを受けた何名かの社員さんからは作品購入希望もありました。アート作品が社員さんの感性を磨くという意味でも、この「ART IN THE OFFICE」は有効に機能しているのではないかと思います。

芦川:続いては、元ZOZOファウンダーの前澤友作さんが設立した「現代芸術振興財団」が開催する学生を対象としたアートコンペ「CAF賞」です。

CAF賞は2014年から開催されている高校、大学、大学院、専門学校の各学生を対象とした、若手アーティスト育成を目的とするアートアワードで、川内さんはその第1回目で東京国立近代美術館の主任研究員の保坂健二朗さんから「保坂健二朗賞」を受賞しました。現代芸術振興財団は、他にもアーティスト向けの助成金支給など様々な文化芸術振興に関わる様々な取り組みを行っています。

最後に寺田倉庫さんをご紹介します。従来から、天王洲アイルをベースに倉庫ビジネスを手掛ける有力な企業でしたが、近年は非常にアートに力を入れています。その中で、川内さんの作品も収蔵していただいています。

現在同社では天王洲を文化の発信地へと盛り上げていくため、アートを軸として画材ラボや複数のギャラリーが入居するギャラリーコンプレックス、アーティストスタジオの運営など、幅広い施策が展開されています。また、日本からアジア、アジアから世界へと羽ばたいていく期待の若手アーティストの支援を目的に創設された「Asian Art Award supported by Warehouse TERRADA」という現代アートのアワードにも特別協賛されていますね。

最後に、こちらに今回の「The Art Club」を主催されているArtScouterさんで取り扱って頂いている作品もご紹介しておきますね。

今後の活動への抱負や作品発表について

山内:最後に、今後の目標や活動予定について教えて下さい。

川内:これからも、普通に元気で絵を描いていけたらというのが一番の願いではあります。その中で、多くの方の反応は知りたいですし、色々なものを見て、海外を含め色々な場所で制作・展示をやってみたいという思いはありますね。

芦川:2020年はドイツでの展示や助成金を頂いてパリかニューヨークへリサーチに行くという案件もありましたが、コロナ禍の影響で軒並み延期になりましたので、来年以降実現できたらと考えています。国内では、7月29日から8月10日まで日本橋三越の三越コンテンポラリーギャラリーで個展を開催、8月11日から23日まではGINZA SIX内の銀座蔦屋書店アトリウムでグループ展に参加します。そして、年末にはWAITINGROOMでも初のドローイングの画集発表を記念した個展を企画しています。

山内:なるほど。海外での展示は、結構コロナの影響を受けてしまっているのですね。来年実現できることを願って、もう少しだけ我慢ですね。国内の今後の展覧会はとても楽しみです。川内さん、芦川さん、本日はありがとうございました。

川内&芦川:ありがとうございました。


ArtScouterは今後もビジネスパーソンがアーティストと触れ合える機会として「The Art Club ~アートとビジネスの原点回帰」を開催致します。その他のイベント情報も合わせて、TwitterFacebookにて発信しておりますので是非ご確認ください。

ArtScouterで、より多くの川内さんの作品をみたい、または価格を確認したい場合はこちらまでお問い合わせください。

文  かるび

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