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妄想から生まれたオフィス街のアートビルディング

2019.06.06

いま、アートとビジネスの関係に注目が集まっています。オフィスビルが立ち並ぶ東京日本橋のビジネス街にアーティスト・イン・レジデンスを意識したビルがあるのをご存知でしょうか。オーナーが書いた小説という妄想の世界を具現化したというビルの成り立ちについて尋ねてみました。

左:高田郷子さん                             ©Louis Mendo

a.k.a TRAVELING ELEPHANT株式会社代表
梁 剛三さん


アート×Airbnbをニューヨークで展開

-梁さんはもともとミュージシャンを目指されていたんですよね?

梁氏 はい。ミュージシャンになりたくてニューヨークにわたりました。しかし、さすがはニューヨーク。世界中のアーティストが集まっていました。その中で、自分の実力ではここで勝負できないと早々に気づいてしまったんです。

だからといって日本に帰るわけにもいかず、現地でアーティストと交流を持つようになり、音楽イベントを開催したり、イベントのためにお店をリノベーションするお手伝いをしたりと、ミュージシャンとは別の方法でアートとの関りを持ち続けていました。

当時から既に、ニューヨークだとマンハッタンにほど近いブルックリンのWilliamsburgはもう街が出来上がっていました。でもより奥のエリアに新しいスポットができると、人が集まりだし、その街全体に活気がでてきます。アーティスト主導で街ができてくる過程を見ていて、僕もそういうことをしたいなぁと思うようになりました。

- ニューヨークでは具体的にどのような活動をされていたんですか?

梁氏 “空間づくりをしてお金を稼げる”という新しいシェアリングエコノミーとして、Airbnbにとても興味を持ちました。最盛期には日本とアメリカで10件の物件を借りてAirbnbで貸し出していました。

- Airbnbでの部屋づくりでこだわったことはありますか?

梁氏  まずその場所に住んでいそうな人の簡単なストーリーをつくるんです。そのあとに、その主人公が使っていそうな家具を調達したり、主人公に似合うデコレーションにしたりしていくんです。

なので、部屋のアート作品も私の好みで選ぶのではなく、「この小説の主人公であればどんな絵を選ぶだろう」ということを考えて買っていました。

この手法の良かったところは、自分自身の好みから脱却できることでした。

男性の僕が、女性のペルソナを設定することによって可愛いお花や、カラフルなアートなどをインテリアとして抵抗感なく取り入れられました。

-絵はどちらで購入していたのですか?

梁氏 アーティストとの交流があったので、アーティストから直接買うことが多かったです。高価なアート作品ではなく、どちらかというとストリート系の作品が多かったです。日本人駐在員の友達もたくさんできたので、アーティストを紹介するようなこともしていましたよ。

©Hiroaki Sagara

妄想から生まれた日本橋のアーティスト・イン・レジデンス

THE A.I.R BUILDINGをはじめられたきっかけを教えてください

梁氏  Airbnbを日本とアメリカで展開していたのですが、シェアリングエコノミーが認知されてくるにしたがって、法律面もいろいろと騒がれるようになってきていました。日本に帰って、もう少し安定した事業をしたいなと思い始めていました。

たくさんの部屋を借りて、揃った家具を入れる部屋をつくるのではなく、「音楽と一人旅」をコンセプトにして、ターゲットを絞り、その人たちが泊まりたくなる部屋を実現することを考えました。

Airbnbの物件でも相談にのってもらっていた不動産会社の高田郷子さんに相談した際に、日本橋のこの物件を紹介してもらったんです。「ぜひ内覧したい」と真っ先に連絡して、内覧中にその場で即決しました。

どのようにコンセプトを反映したんですか?

梁氏  私はよく「建物の声を聞く」というのですが、この建物にはどういうストーリーが生まれそうか、ということを考えてストーリーを書きます。今回は、その主人公が住んでいそうなホテルにしたいと思いました。ところが、水道やトイレの数など、ホテルにするにはいろいろと課題があることがわかったので、ホテルとして使うことは断念せざるを得ませんでした。

そこで、“アーティストが住むビル”という設定はどうかと用途を変えて考え、今のかたちになりました。高田さんの紹介の腕のよい設計士の方々でしたので、彼らに任せるだけでもカッコいいものが自然とできますが、作ったストーリーを設計士さんに渡し、それをベースに彼らの好きにデザインしてもらいました。

小説という私の頭の中で描いた世界を実現するために、高田さんにも協力してもらい、私たちも地面にテープでキッチンスペースやテーブルなどのスペースを貼って、設計を具体化していきました。

今は、地下はイベントスペース、1階はカフェ、2階が私の小説の主人公が住んでいたという設定の部屋、3階はシェアオフィス、4階が倉庫で、5階がイベントもできる屋上になっています。2階のアーティストの部屋は普段は会議スペースなどで貸し出しています。

2階の会議スペース

「スーツを脱げばアーティスト」はたくさんいる

-ターゲットはどのような方達ですか?

梁氏  THE A.I.R BUILDINGは日本橋のオフィス街にあります。周りはビジネスパーソンが多いのですが、その中にも音楽活動やっていたり、絵を描いていたり、小説を書いたりしながらアートとは関係のないお仕事をしている方もいらっしゃいます。

そんな「スーツを脱げばアーティスト」という方たちが気軽に集まれる場所にしたいと思っています。

例えば1階のカフェには軒先があります。収益を狙えばもっと効率の良いスペースの使い方もあると思うのですが、空間にどこか隙を持たせて、使う人にクリエイティビティを発揮してもらいたい。クリエイティビティを刺激するような場所にしたいと考えています。

ただ、アーティストだけが集まる場所にしてしまうと、ものすごくクローズドな環境になってしまうので、アートに関心があるビジネスパーソンも気軽に入りやすくしたいと思っています。

- 宿泊もできるんですか

ホテルではないので有料ではありませんが、実際に旅行できたアーティストを泊めて地下で演奏してもらったり、アート作品を1階で販売してみたりすることがあります。THE A.I.R BUILDINGのロゴもアーティストに描いてもらったんですよ。

- 今後の展望をきかせてください

梁氏  普通、アーティスト・イン・レジデンスなんて、お金に余裕がある大きな企業や公共団体がやることだと思われていると思います。でも、私はアーティスト主導の街づくりにチャレンジしたいと思っています。

アートを取り入れることでビジネスとしてうまくいくことを証明したい。アーティスト・イン・レジデンスをビジネスとして成り立たせることが、私の名刺代わりになるような、そんな気概で取り組んでいます。

私自身は、神戸出身で東京に身寄りがない中、ニューヨークから帰国してゼロからのコミュニティづくりをしています。もっともっとイベントなどの開催を通じてコミュニティを厚くしていきたいです。

日本橋は現在工事中の日本橋室町三井タワーが完成すると、また新しい人たちが入り込むエリアになると思います。そういった方々にもぜひ足を運んでもらいたいです。

THE A.I.R BUILDING
【場所】東京都中央区日本橋本町3-2-8 THE A.I.R BUILDING
【アクセス】銀座線「三越前駅」A9,A10出口から徒歩3分/総武線「新日本橋駅」6番出口から徒歩1分
【営業時間】月ー金 11:00-23:00  土日祝 11:00-18:00

文 J.N by ArtScouter / 写真 吉田和生 / 取材協力 矢嶋巧

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