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『シュルレアリスムと絵画 ―ダリ、エルンストと日本の「シュール」』に学ぶ発想の転換

展示風景

美術ブロガーの明菜です。ART HOURSでは、「ビジネスパーソンが美術展から何を学べるのか」をテーマに、オフィスから飛び出してアートから学ぶお手伝いをさせていただきます。

さて、今回は『シュルレアリスムと絵画 ―ダリ、エルンストと日本の「シュール」』をご紹介します。本展はシュルレアリスムの始まりから日本に「シュール」という単語が定着するまでの流れ、さらに現代におけるシュールな表現まで幅広く紹介しています。

岡本太郎《赤い兎》(1949年) 富山県美術館

ビジネスパーソンの皆さんは次の3つのポイントを参考に、発想の転換や意外なアイディアの生み出し方をシュルレアリスム作家や関連する作家たちから学んでみてはいかがでしょうか。

①行き詰った発想の転換
②新しいアイディアを得る方法
③長く持続する価値

理性や近代化への批判

シュルレアリスムといえば、サルバドール・ダリやルネ・マグリットらの美術運動をイメージする方が多いと思います。確かに彼らはシュルレアリスムの画家ですが、運動自体は詩人から始まり、美術へも広がって行ったのです。発端となったのは、詩人アンドレ・ブルトンの『シュルレアリスム宣言』です。シュルレアリスムは理性を中心とした考え方を批判し、無意識の領域に新たな現実を求めた運動です。

ブルトンらが「無意識」の領域で新たな現実を探ろうとした背景には、第一次世界大戦への批判がありました。

展示風景

20世紀初頭の近代化とは、「理性に基づいた計算や理論による発展」です。理性に基づいた思考により、高層ビルが建設され、飛行機が発明され、社会は便利になって良い方向へ向かうと信じられていました。一方で、便利さだけでなく戦車や兵器のように人類が自分で自分を滅ぼしかねない技術の開発も行われました。第一次世界大戦がそれまでで未曾有の戦禍となった背景には、理性に基づいた近代化があった、と考えることができるのです。

第一次世界大戦に従軍して戦禍を経験したブルトンは、このような背景に基づき、理性を中心とした近代的な考え方を批判しました。理性とは反対にある「無意識」の領域にヒントを見出し、シュルレアリスムの運動に繋がっていきます。

展示風景

筆者としては、「これまでの考え方への批判」という部分に、日本のビジネスの現状を重ねてしまいました。今日の日本では、サイエンス思考に偏っていた従来型の経営から、アート思考を取り入れたバランスの良い経営が求められています。

KPI等で目標を定めて論理的に舵を取るサイエンス思考では、競合他社と同じ結論になってしまい、独自の価値を提供することができず限られたパイを奪い合うこととなり、最悪の場合には自滅してしまうかもしれません。多くの日本企業はこのようなサイエンス思考に偏っている状態であり、アート思考を取り入れて独自の価値を打ち出していく必要がある、と考えるのは自然でしょう。

イヴ・タンギー《聾者の耳》(1938年) 東京国立近代美術館

シュルレアリスムは今から100年前に始まった運動ですが、理性から無意識へ発想を180°転換した点は、現代のビジネスに求められる転換と似ていると考えられます。アイディアの着想についてもシュルレアリスムから学べる点があるので、次の章で見ていきましょう。

意識のコントロール外に着想を得る

シュルレアリスムを代表する画家の一人に、マックス・エルンストがいます。彼はコラージュやフロッタージュを用いた実験的な作品を多く残しており、本展でも見ることができます。

展示風景

コラージュとは、異なる図鑑や挿絵などからモチーフを切り取り、1枚の紙の上で再構成する手法です。脈絡のないモチーフを組み合わせることで、論理的な思考では起こりえない作品を作ることができます。

フロッタージュは、木の葉など凹凸のあるものの上に紙を載せ、鉛筆などで軽く擦り、紙に模様を浮かび上がらせる手法です。フロッタージュを模様付けに使うのではなく、偶然得られた模様や形から着想を得て作品を仕上げるのがエルンストの手法です。

展示風景(エルンストの作品を拡大したもので、白目の部分は木の葉のフロッタージュによる)

そういえば、アイディアに行き詰ったときに重宝する「オズボーンのチェックリスト」は、どこかシュルレアリスム絵画の手法と似ているところはありませんか。オズボーンのチェックリストとは、例えば既存の自社商品について「逆にしたら」「拡大したら」「縮小したら」と発想を飛躍させるときに使う9項目の観点をまとめたものです。荒唐無稽な組み合わせが生まれることは少なくありませんが、論理的な思考では絶対に思いつかないようなアイディアを得られることも多いです。

先述したように、エルンストはコラージュやフロッタージュによって、自身の意識でコントロールできる範囲の外から着想を得ました。オズボーンのチェックリストがシュルレアリスムと全く同じとまでは言えませんが、自分の意識の外側から着想を得る点は、非常に似ていると考えられないでしょうか。筆者は、シュルレアリスムの考え方はビジネスにおける新しいアイディアを得る際にも取り入れられると考えます。

日本における「シュール」の定着

日常生活でも「シュール」という言葉を使うことはよくあります。アート分野のみならずコメディへの感想でよく使われ、「現実離れした面白さ」を指すことが多いように感じます。

瑛九《生活》(1950年) 個人蔵

日本語の「シュール」はシュルレアリスムに由来していますが、ブルトンらの思想とはかけ離れた意味が定着しています。本展では、フランスから日本へどのようにシュルレアリスムが伝わり、定着したのかを探ることができるでしょう。

見方を変えれば、日本は「シュール」という独自の表現を獲得したと考えられます。日本独自の表現への展開として、本展では現代美術家の束芋(たばいも)氏が紹介されています。

束芋《dolefullhouse》(2007年) © 2019 Tabaimo

彼女は第52回ヴェネツィア・ビエンナーレにも出品している作家で、日本を代表するアーティストです。シュルレアリスムの作家と言い切れるわけではありませんが、鑑賞者の多くは「シュールだ」といった感想を抱くのではないでしょうか。束芋氏の作品を見ていると、日本のシュールは芸術の一つの分野として成立するのではないか、と考えてしまいます。

シュール以外にも、海外から輸入された文化が国内で独自の発展をすることは珍しくありません。シュールはシュルレアリスムが意図した理論とは乖離して定着していますが、新たな芸術様式として見ることもでき、かつ「シュールな美術」に価値を見出すこともできます。

Special Exhibit: Tabaimo 展示風景 © 2019 Tabaimo

日本にシュルレアリスムの概念が紹介されたのは1920年代のことですが、約100年後の現在では「シュール」が日常生活での言葉に使われるほど浸透しています。長く持続する価値を読み取ることができるので、一過性でない価値を探すビジネスパーソンにとっても、参考になる部分があるのではないでしょうか。

【まとめ】『シュルレアリスムと絵画』をビジネスパーソンらしく味わう

展覧会を読み解くヒントとして、発想の転換や意外なアイディアの生み出し方についてお伝えしてきました。3つのポイントをまとめておきましょう。

①行き詰った発想の転換
②新しいアイディアを得る方法
③長く持続する価値

本展では、シュルレアリスムが近代化への批判から起こったことや、長い時間をかけて「シュール」が日本の芸術の一分野になろうとしていることを学ぶことができました。シュルレアリスムといえば「夢に着想を得た奇想天外なもの」といった先入観があり、ビジネスとは程遠い印象を持っていたのですが、本当は類似点が多いのではないかと考えます。

ビジネスパーソンの皆さんも、発想の転換やアイディアの生み出し方などについて、本展に共感するところがあるのではないでしょうか。ぜひ会場に足を運び、シュルレアリスムから刺激を受け取っていただければと思います。

展覧会情報

『シュルレアリスムと絵画 ―ダリ、エルンストと日本の「シュール」』
会期:2019年12月15日(日)~ 2020年4月5日(日)※会期中無休
時間: 9:00 ~ 17:00(最終入館は16:30)
会場:ポーラ美術館(箱根)
展覧会HP: https://www.polamuseum.or.jp/sp/surrealism/

文 美術ブロガー 明菜

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