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アートを活用して マーケティングを強化し
顧客に「付加価値」を提供する

2020.01.01

左から、
株式会社SMBC信託銀行 個人マーケティング部長 小林和成
株式会社 SMBC 信託銀行 商品企画部 企画グループ アート企画推進 岩崎かおり
株式会社 SMBC 信託銀行 事業開発部 兼 商品企画部 スピリアート トム

アート好きが集まり「クラブ」を結成

-SMBC 信託銀行では、「アートをマーケティングに活用する」という珍しい取り組みをされていますが、アートに着目したのはなぜでしょうか?

小林 どこの業界でもそうだと思いますが、最近は新しい商品、サービス、キャンペーンを打出しても、同時期に同じようなものが他社から出てきます。「差別化」と叫んでも、その実現はますます難しくなっていると感じていました。

当行のお客様には、グローバルで活躍されているビジネスマンの方々や、富裕層の方がたくさんいらっしゃいます。こうしたお客様の求めるものを、あえて金融サービスの枠に囚われずに考えた時に、実は「金融資産が増えればいい」ということではなく、「もっとご自身の感性を高め、豊かで充実感に溢れた人生を実現したい」というお気持ちの方が、根底により強くあるのでは、との考えに行きつきました。

そういう方々に対して、アートは相性が良かったと。

小林 はい。これまでも、当行はそういったお客様に芸術・文化的なイベントを通じておもてなしをさせていただく機会があり、アートとお客様の親和性の高さは感じていました。元々、当行は、日本で唯一「美術品信託」という商品を提供しており、行内にも現役美大生の芸術作品を展示するなど若手芸術家を応援する取組みも続けておりました。

丁度、新たなマーケティングとして、他社とは異なる視点から、お客様に「得かどうか」だけでなく、「好きかどうか」で選んでいただけるような差別化されたブランド構築ができないかと考えていました。そのときに、「お客様に喜んでいただける、お客様にとって有意義な体験を提供できる」という観点でアートの力は活用できると感じたのです。

それで実際に企画を進めようと思ったときに、行内のすぐ近くに、それを形にできるメンバーたちがいることがわかった…というわけです。

- 具体的には?

小林 行内の有志クラブで「アートクラブ」というものがあるのですが、まさに彼らが同じタイミングで、アートの持つ価値や、人生や人の心を豊かにする効用といったことについて行内で啓発活動を始めていたのです。

岩崎「アートクラブ」は、私やトムを含め6人の発起人で2018年1月に始めました。もともと私は両親の影響で小さい頃から海外のアートシーンに触れてきており、現在もコレクターとして色々な作品を購入しています。

ずっと感じていたのが、日本と海外の格差です。日本はすごく豊かな国なのに、なぜアートにお金を使わないんだろう。文化的にも、日本人にとってアートの感覚が身近なものではないことが、不思議で仕方がなかったのです。

なおかつ、当行のお客様は富裕層の方々が多いので、アートをうまく活用すれば、何か新しい付加価値が提供できるのではないかと思うようになりました。しかも、海外だと当たり前なのに、国内の金融機関は海外ほどアートを効果的に活用できていない。ならば当行がやろうと。

- ということは、新しいアートを使ったサービスを立ち上げるのがアートクラブの目的だったということですか?

岩崎 最初はそこまで具体的なものはなく、ただアートについて仲間と話したいというのが一番でした。そこからビジネスにつなげていこうと思ったときに、まずは仲間をもっと作ろうと考えました。口コミでアートに関心がある人を集め始めたら、思った以上に行内にたくさんいたというわけです。現在は40名ほどの規模となっています。

行内のアートリテラシーを向上させ、施策作りにつなげる

- アートクラブの活動内容はどのようなものですか?

岩崎 当初から、ゆくゆくはアートをビジネスにつなげていきたいという思いがあったので、行内におけるアートのリテラシーを上げていくことが必要だと考えました。そうすれば、何か施策をするにしても、みんなで一緒にできると思ったからです。

具体的には、第1回目の活動ではトムに「近現代アートへの誘い」というテーマで、アートの見方や歴史について初心者にもわかりやすくレクチャーしてもらいました。2回目はアートの評価会社の方をお招きし、アートの値段がどのようにつくのかを話してもらったんです。

-かなり本格的ですね。

岩崎 内容はしっかり考えていますね。そして3回目には作家さんを呼びました。作家さんとの接点も現代アートの魅力の1つなので、実際にコミュニケーションを取ってもらい、作品について質問したり、考え方や歴史について話すような体験をしてもらいました。

その後も、アートビジネスをしている方をお呼びしたりしながら、今のアートがどうなっているのかを知る場として機能させていったのです。結果として、全体的にビルドアップしたのかなと感じています。

-トムさんは、日本の現代美術に関心があったのですか?

トム 私は日本の大学で文化人類学を学んだ後、都内の画廊に4年間勤めました。日本の現代アートのレベルは非常に高いので、それを世界中に伝えていく活動をしたいと思ったからです。その4年間にはたくさんの出会いや発見がありました。

その後は金融業界に入り、今に至りますが、ずっとアートが好きだったのでまさか行内に岩崎のようなすごいコレクターがいるとは思わず、本当に驚きましたね。

小林 驚いたのはこちらも同じでした。こんな近いところに、こんなにたくさんアート好きのスタッフがいるとは知りませんでした。しかも、クラブのメンバーの階層も部署も色々で、役員もいれば、現場スタッフも、本社のスタッフも多様な人々が参加していました。

私もクラブに顔を出させていただき、美術館や書籍では学べないような、アートの世界についての知識や講演を聴く機会に触れることができ、これはお客様の心に何か響くものを提供するマーケティング施策として相性が良いと確信しました。

丁度、ビジネスマンにアートをはじめとしたリベラルアーツの大切さを主題にしたビジネス書の人気が出てきており、世の中トレンド的にもビジネスマンの関心の矛先がアートにも向き始めていると感じていた時期でした。それで、顧客向けに提供している情報誌にも、この分野の著名人の方々のインタビュー記事も掲載するなど、少しずつアートに関連した要素を取り入れていきました。

貴重なコミュニケーションツールとなっている「アートブランチ」

-その1つの結晶となったのが、「アートブランチ」でしょうか。

岩崎 そうですね。日本橋支店の店舗内をギャラリーのように活用し、「アートブランチ」と称して現代アーティストの作品を展示しています。銀行店舗という多くの方が利用する場所で、普段なかなか触れることがないグローバルに活躍する日本人アーティストの作品に触れてもらいたいと考えて、プロジェクトメンバーが中心となって企画しました。まさにブランディングのための施策で、アートをきっかけにお客様ともっと近しくなりたいと考えたのです。

展示しているアーティストも、桑田卓郎さん、小松孝英さん、小松美羽さん、舘鼻則孝さん、奈良祐希さん、名和晃平さんといった世界的に有名な方々ばかりです。

🄫Miwa Komatsu
写真提供:株式会社SMBC信託銀行
🄫Kohei Nawa, Takahide Komatsu 
写真提供:株式会社 SMBC 信託銀行
🄫Noritaka Tatehana
写真提供:株式会社 SMBC 信託銀行

小林 お客様の中には、アートの見識をお持ちの方も多いので、「とてもいい作品が並んでいる」と評価いただいております。美術館のように何度も足を運んでいただく方もいれば、お知り合いをお誘いの上、ご一緒に見に来られる方もいらっしゃいます。銀行という店舗の中で、至近距離で作品を見られるのは貴重な体験とお喜びいただいています。

岩崎 基本的に作家の皆さんはギャラリーが違うので、そうした方々の作品が一堂に展示されているのは珍しいことなんです。アートに詳しい方はそういうところにも注目してくださいますし、だからこそ応援していただくケースも多いですね。

トム 現代アートというものは、今の日本だとどうしても敷居が高く、「何がいいのかわからない」という声も一般的にありますよね。でも、こういう場所で実物を見ることで凄さを知り、興味を持ったという反応もいただいています。まさに、他ではできない体験をしていただいているようです。

岩崎 あと、これは別の施策になるのですが、当行の投資信託の商品パンフレットの表紙に、アートブランチで展示している奈良祐希さんの作品の写真を使ったんです。一般的に商品パンフレットに本格的な現代アート作品を使うことはあまりないんですね。

だからこそ、すごく目を引いたそうで、お客様とのコミュニケーションのきっかけになったようです。「これは何ですか?」という問い合わせが多かったのですが、その説明から会話が広がったり、商品の説明につなげやすかったりと、営業にとってもいろいろなメリットがあったようです。

トム 改めて、アートの持つ力のようなものを感じる、いい機会となりましたね。

アートを活用した施策を進めるポイントとは

-今のお話も含め、アートを使った施策に対する行内の反応はいかがです?

小林 いろんな施策を現場に伝えた時に、そこにアートに深い理解を持ち合わせているアートクラブのメンバーがいると、プロジェクトを動かしていくにあたっては本当に助かっています。

また、これまでアートに触れる機会が少なかった営業の現場スタッフにも、ぜひこのアートブランチを機に、アートを楽しみながら、営業活動に活かしてもらいたいと思っています。そのため、アートブランチ開始前から、プロジェクトのメンバーが支店に足を運んで展示作品について勉強会を行ったり、作品に関する簡単なスクリプトを用意するなど、アートに馴染みがなかったスタッフでもお客様に説明がしやすくなるようフォローアップを行っています。

トム 実は、アートクラブの第1回目の時から、ほぼ毎月1回、「アートインフォ」というコミュニケーションツールを作っています。オススメの展覧会の情報や、アートに関する旬な話題をピックアップした資料で、私が編集しています。

メンバー自身がアートについて理解を深めるきっかけにしてもらうほかに、当行のプライベートバンカーが1つのツールとしてお客様にお渡ししたり、営業がお客様に作品について説明する時にこの資料の情報を役立ててもらったりと、いろいろと活用してもらっています。

小林 当然、営業は営業としてやらないといけないこともたくさんあります。現場の協力あってのプロジェクトなだけに、いかに彼らをサポートし、うまく営業にも活用してもらえる方法を考えていけるか。これは今後いろいろなプロジェクトを企画していくうえで重要な点だと思っています。

-行内でのアートのリテラシーを上げるということを1つの目的とされていましたが、そのあたりはいかがでしょうか?

岩崎 それは少しずつですが進んでいるように感じています。アートクラブへの参加やアートブランチの展開を通じて、興味や関心を広げている人が増えているのは間違いなく、今後もその流れは継続させていきたいと思っています。

小林 当行は、元々複数の銀行が統合して現在に至っています。ダイバーシティの一環で行内の交流促進を奨励しており、アートクラブもその流れの中でできたコミュニティです。そういう意味ではアートを通じた交流がすごく進んでいて、理想的な場になっていると感じますね。

トム アートを切り口にした様々な交流を通して、コミュニケーションを生み出すアートの力を感じています。

小林 「アートブランチ」自体も、商品チーム、アートクラブのメンバー、そしてマーケティングのメンバーの3つの軸がうまく組み合わさって実現した施策です。こうした多様なメンバーによる取組みが、もっと増えていくと面白いだろうなと思っています。

-今後、「アートブランチ」のようなプロジェクトは継続させていくお考えでしょうか?

トム 何かを発信していくというよりは、まずは認知を促すことはしていきたいと思っています。今回「アートブランチ」で展示しているアーティストの方々は、グローバルでは有名なのに、日本ではあまり認知されていません。これは非常に残念なことです。

岩崎 日本人でもアート界でこれだけ活躍している人がいるんだということを、もっと伝えていきたいですし、そうした情報を通じて、お客様に付加価値を感じていただいたり、コミュニケーションを深めていければいいなと思っています。

株式会社SMBC信託銀行 日本橋支店のアートブランチを実現に導いたチーム

文 志村江 / 写真 桑原克典

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