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「問い」と「越境」を生む空間に、アートが命を吹き込む
-SHIBUYA QWS 野村 幸雄

©Masahito Koshinaka

渋谷スクランブルスクエア株式会社
営業一部(渋谷キューズdiv.)担当部長
野村 幸雄さん


SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)とは
多様な人々が交差・交流し、社会価値につながる価値を生み出す会員制の施設として、2019年11月1日に渋谷スクランブルスクエア15階に誕生しました。
15階のフロア全体を占める約2,600㎡の空間は、スクランブル交差点を眼下にのぞみ、200名規模のイベントが開催できる「SCRAMBLE HALL(スクランブルホール)」、さまざまな活動が行われ、人々が行き交う空間「CROSS PARK(クロスパーク)」、交流や対話を促進する上質空間「SALON(サロン)」、新しい価値創造に取り組む場「PROJECT BASE(プロジェクトベース)」などの多様な要素で構成され、共創と支援を促進します。

渋谷、クリエイティブ都市への転換

−SHIBUYA QWS(渋谷キューズ、以下「QWS」)誕生の背景を教えてください。

野村さん 就任前の2013年3月に東急、JR、メトロの3社で取得申請していた都市再生特別措置法に基づくいわゆる特区が認可されました。その特区申請内容の一つにこの15階が含まれていて、「産学連携とクリエイティブコンテンツ産業を振興する施設を作ること」により容積率の緩和が認められました。

2014年の4月に異動してきて、SHIBUYA SCRAMBLE SQUARE全体のプロジェクトマネージャーとして就任し、この15階を担当することになりました。

私は入社以来、財務部門で金利交渉などをしてきました。この異動は晴天の霹靂で右も左も全くわからない状態だったので、都市のクリエイティビティやイノベーションとは何かについて一から勉強する必要がありました。

とりあえず社内で詳しい人に聞いてみれば、「リチャード・フロリダの『クリエイティブ資本論』を読んで1週間以内にレポートを書け」と言われました。(笑)

これが今のQWSのコンセプトが生まれる大きな源泉となったのです。

その本によると、クリエイティブ都市の機能として、Tolerance(トレーランス・寛容性)、Talent(タレント・才能)、Technology(テクノロジー・技術)の、3つのTが必要だそうです。

渋谷はどうかな?と考えた時、トレーランスに関しては、ハロウィン、ギャル文化、サブカルチャー…など過去累々と「新しいもの」が生み出され、試される場所であり、それを受け入れてきた寛容な町であると感じました。

そうした寛容性があるからこそ、渋谷には性別、年齢、国籍問わず多種多様な才能を持った人材がたくさん集まっています。

テクノロジー(技術)に関しては、2000年から渋谷の街がIT偏重になっているような気がしていて、そこに「ものづくり」の観点が必要だと感じていました。そこで、つくる役割をどこと一緒に生み出せるかを考えた時に産学連携に気付きました。

渋谷の周辺には、大学がたくさんあります。東大の駒場キャンパス、早稲田の理工学部、東工大、慶應の理工学部もある。これらの大学と連携して何かを生み出していくことで、渋谷にシリコンバレーやロンドンと同じような土壌ができるではないかと期待しました。

イノベーションにつながる「タネ」を生み出す、日本でも稀有な施設QWS

−なぜQWSのコンセプトを「問い」としたのでしょうか。

野村さん クリエイティビティの発揮や、イノベーションの創出をしようとしている人は日本にたくさんいます。しかし、困っている人も多いように見えます。その理由は、イノベーションが目的化されているからだと思います。

日本で語られるイノベーションとは「誰かの課題解決をし、社会に貢献すること」ですが、そもそも「問題」や「課題」と、それに対する自分の「想い」がないと始まらないのではないかと感じ始めました。

いろんな人に話を聞いているうちに、問題や課題、自身の想いを見つけるためには、「問う」ことが大事だと気づいたのです。

−「問い」を生み出す場所として、渋谷、ないしは日本でQWSはどのような役割を担っているのでしょうか。

野村さん イノベーションにつながる「タネ」を生み出し、インキュベートする役割を担うと考えています。

ご存知のように、インキュベーション施設やシェアオフィスは年々増えています。オープンイノベーション、CVC、アクセラレータプログラムなどアーリーステージからミドルステージを支援する施設や企業が増え充実している中で、手前の「シード(アイディアのタネ)を見つけ、形にする」部分を支援する体制は整っていないのです。

特にシードは、ビジネスになるかどうかもわからない、お金と時間をつぎ込んだからといって成功するとは限らないので難しい。だからこそ、この施設でチャレンジする方を支援したいと思いました。

多様な人々が集まる渋谷だからこそ、ビジネスだけではなく、文化や芸術、遊びでも幅広い分野において、社会をよりよくするタネや活動を見つけ、支援をしていく場所としてQWSを作りました。そういった面では、日本でも新しく、稀有な施設だと思います。

−開業後のご実感を教えてください。

野村さん 開業した実感もなくバタバタやっておりますが(笑)、施設の目標通り、本当に多様な方々が利用してくれていると感じました。

この間は、イベントホールでは幼稚園の年長から小学校高学年向けのプログラミング教室、エントランスでは高校生のSDGs文脈の社会課題解決のワークショップ、共用スペースでは平均年齢74歳の10人組のプロジェクトチームが議論していて…同じ空間、同じタイミングで、こうして多様な人が集まって活動している。それを見て、既にQWSが多様性のある活動の場として機能し始めていることを実感しました。

また、いろんなコミュニティのハブにもなりたいと考えています。渋谷には多様な人々やコミュニティがあって、今はそのコミュニティの中で完結しがちですが、コミュニティの枠を超えて、コミュニティ同士が合わされば、新しい「問い」がうまれるかもしれない。

今後は、そうした繋がりや出会いをQWSが作り、連鎖的にもっといろんなバックボーンを持った方の自分の専門分野やコミュニティを越境できるような施策を仕掛けていきたいと思います。

©Masahito Koshinaka

「問い」と「多様性」の象徴としてのアート

−アート導入の背景と、アートに期待していたことについて教えてください。

野村さん デザイン思考に加えて、アート思考が注目され始めた背景として、効率性が優先される時代から、ゆっくりと時間かけながら「自分が何をしたいのか」を深く内省し、取り巻く社会の歴史や背景を知った上で「どうしたらもっと社会をよりよくできるのか」を突き詰める社会へと変化していることが挙げられます。

アートはまさに「問い」を象徴する活動だと思っています。アーティストは自身の日常または社会に対しての疑問を、アート作品として世の中へ発信していますよね。また、彼らは、アート史において自分がどのような存在であり、何が新しいのかをもって価値づけされるので、過去の歴史や背景を十分に知っておく必要があります。

そうしてできたアート作品を、私たちが見たり、触れたりすることによって「問い」を生み出すヒントや気づきが得られるのではないかと考えました。

「アートには答えがない」という点にも魅力を感じています。

例えば2017年に、アーティストと参加者20名を交えて、アート作品の対話鑑賞プログラムをトライアルで実施したんです。そしたら、一つの作品に対して、人それぞれで受け止め方が違うことに気づかされました。他の人の解釈を聞いて、「そんな考え方があるんだ」「なるほどそうやって感じるのか」と新たな気づきにも繋がりました。アートを通じて、クリエイティビティの土壌が養えることを実感したんです。

QWSは性別や国籍、職業、年齢など様々なバックボーンを持つ方々が集まり、フラットに活動をする場所です。そうして多様性を実現していく場所に、その象徴でもあるアートがなくては、と考えていました。

QWS施設内にアートを導入したいけど、コンセプトとあったアート作品をどのように探したらよいか考えていたところ、知人からArtScouterを紹介してもらい、相談してみました。

アートはクリエイティビティの土壌を養い、空間に命を吹き込んでくれる

−実際にアートを導入してみていかがでしょう。

野村さん とても良いです。特に空間にあった作品を入れてもらえて嬉しいですね。今回導入したのがSALONという特別な会員限定の空間で、まさにフランスのサロンのイメージで、上質かつシックをコンセプトに作っています。

黒い壁とエンジ色の木材が使われているエントランスには、赤と白の作品を選んでもらいましたが、とてもシックですよね。

白を基調としたシンプルな空間には、紫と黒の作品を入れてもらいました。一見重くなりそうなのに瑞々しさがあり、コンセプトにもあっていると思います。

アート作品導入前と導入後を見て、無機質だった空間が、一瞬で華やぎ、生き生きとしたのを実感しました。アート作品が空間に命を吹き込んでくれて、アート作品が導入されたことで初めてSALONという空間が完成したと思います。

また、利用される方は「何これ?」と興味持ってくださったり、「いいね」とおっしゃっていただけることも多いです。アーティストの越中正人さんを調べてくださる方もいらっしゃいます。

©Masahito Koshinaka

-今後、アートに関する展望はありますか?

野村さん はい、まずは定期的に展示作品を変えて、「問い」の新陳代謝を促していきたいです。

あとは、今回開催いただいたような*アーティストを交えたプログラムやプロジェクトもやりたいですね。

*2019年11月11日(月)に、ArtScouter特別セッションとしてSALON展示作家の越中正人さんをQWSにお招きし、アーティストトークを開催しました。

例えば、以前もトライアルで実施したのですが、アート作品の対話鑑賞を行なう時にアーティストの方も混じってもらえたら、楽しいですよね。参加者からは感想や意見を、アーティストからは作品の背景や意図を伝える。こうして、リアルな場で相互的なインタラクティブがあれば、アーティストの方にとっても気づきになって、創作活動のタネが生まれるかもしれないですよね。

QWSのモデルとなったロンドンのホスピタルクラブのように、展示作品の購入もできますので、関心を持ってもらって、購入してもらうことで、アーティストの支援に繋がればよいなと思います。

SALONを利用される会員には、QWSで「タネ」を生み出そうと日々活動している方々へのアドバイザリーや支援をお願いしています。ビジネスもアートも、それ以外の分野においても、こうした相互的な支援活動の循環がQWS全体に、渋谷全体に、最終的には日本社会に浸透していけばいいなと思います。

アート作品の展示風景: showcase#007

©Masahito Koshinaka

SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)
場所 │ 東京都渋谷区渋谷二丁目24番12号 渋谷スクランブルスクエア(東棟)15階
開廊時間│ 平日:8:00~23:00(最終受付22:30)
      土日祝:9:00~22:00(最終受付21:30)  
URL │ https://shibuya-qws.com/

文 N.K by ArtScouter事務局 / 写真 吉田和生

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