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若い顧客も増加中!オークションの楽しみ方
−SBIアートオークション 加賀美 令

2020.03.09

SBIアートオークション株式会社 マネージャー  加賀美 令 さん


SBIアートオークションはSBIグループの美術品販売代行会社が運営する国内有数の美術品オークション会社です。現代アートに特化したオークションを年に4、5回開催し、数千万円する著名作家の作品から数万円で落札できる若手のものまで、出品の幅広さに定評があります。近年、作品収集にオークションを利用するアートファンが増えていますが、「敷居が高そう」「システムが分からない」とためらっている人も多いのでは?オークションの楽しみ方や利用方法を、SBIアートオークション・マネージャーの加賀美令さんにお聞きしました。

©︎Julian Opie

アートオークションの仕組みから参加方法について

―アート市場に関して「プライマリー」「セカンダリー」の言葉をよく聞きます。どのような違いがありますか。

加賀美さん プライマリー市場は作家の作品が最初に世に出て販売される場で、主にギャラリーを指します。セカンダリーはお客様が購入した作品を再販売する際に受け皿となる市場のことです。インターネットでの販売や購入したギャラリーの仲介による第三者への譲渡のほか、オークションも選択肢の一つになります。

―オークションの仕組みを教えてください。

加賀美さん まずコレクターやギャラリー、ディーラーが売りたい作品をオークション会社が集めてきます。集まった全作品の写真や制作年・サイズなどの情報を掲載したカタログを編集・制作し、カタログ請求、または参加登録して頂いたお客様に無料でお送りしています。

オークション前にはすべての出品作品を展示する下見会を開催しますが、こちらは入場無料でご覧頂けます。下見会は気に入った作品を探すほか、ご自身の目でカタログでは分かりづらい微妙な色彩やコンディションを確認できる場でもありますね。

オークション当日はオークショニアと呼ばれる競売人が場を取り仕切り、価格をせり上げていきます。落札が決まるとオークショニアがハンマーを「パン!」とたたくのは映画通りです(笑)。オークション会社の収入は手数料で成り立っていまして、買う方と出品する方の両方から頂戴しています。

―その中で、加賀美さんはどのような仕事をされているのですか。

加賀美さん いわゆる営業で、オークションに出す作品を集めてくる役割です。コレクターやディーラーを訪ね、出品の手はずをします。カタログは専門チームが制作しますが、その内容チェックやオークション後の入金確認と作品発送の手配も担当しています。

―先ほど手数料の話が出ましたが、おいくらでしょうか。

加賀美さん 弊社の場合、落札された方から落札価格の一律15パーセントを頂戴しています。出品は最大15パーセントで出品作品のエスティメート(落札予想価格)の総額によってレートが決まります。オークションの目玉になりそうな高額作品は優遇することがあります(注:いずれも税別)。海外のオークションは日本より落札手数料率が高く、大体25パーセントくらいです。

―エスティメートはどのように決めるのですか。

加賀美さん 他のオークション結果や最新の市場情報を元に相場や作品の希少性などを総合的に判断し、決めさせて頂いております。同じ作家でも1年間でエスティメートが変動することは珍しくないですね。また、エスティメートとは別に「リザーブ」と呼ばれる最低売却価格もあり、こちらは出品者と事前に相談して決めています。リザーブ価格は公表しておらず、入札が最高額でも、その金額に達しなければ不落札になります。

―現在の年間総取引額はどれくらいでしょう

加賀美さん 2019年は5回オークションを開催し、計28億円でした。出品作品のエスティメート下限値の総計が1回につき3~5億円なので、昨年はかなり好調だったと言えますね。

―出品者はどのような方が多いですか。

加賀美さん コレクターとディーラー、つまり業者さんですね。

―どのようなタイミングで作品を手放されるのですか。

加賀美さん コレクターの方は新しい作品の購入資金にするケースが多いようです。他に、相続税や財産分与、借金の支払いに充てたり、コレクションを引き継いだ相続人が手放したりするケースもあります。

最近は美術市場が成長して作品単価も上がっていますので、投機対象として購入し、値上がりを待って手放す方もいます。特に香港などアジア市場は回転が速く、19年に新作として発表された作品が同年のオークションに出ていることがあります。海外からの出品もあり、全体の10パーセント程度でしょうか。

―オークションに参加する方法を教えてください。

加賀美さん 一番オーソドックスなのは会場に来ていただき、顧客番号が入ったパドルをせり上がる価格に応じて上げて入札する方法です。地方や海外在住の方など、オークション当日会場に来場できない方は、スタッフが代理を務めますので電話での参加も可能です。

ウェブで中継されるオークションを見ながらスマホで入札する「ライブビット」、オークション前に書面で申し込んだ上限額の範囲内でスタッフが入札を代行する「書面入札」の方法もあります。いずれも事前登録が必要です。

―顧客はどのような方が多いですか。

加賀美さん コレクターと美術商・ディーラーが中心です。統計は取っていませんが、年齢は少し若くなっている傾向があります。メインは40、50歳代ですが20代もいらっしゃいますし、特に30代が増えている印象があります。30代で既にかなりのコレクション歴がある方もいます。

海外の方の落札も多く、全体の40パーセントくらい。地域でいえば最多が台湾、次いで香港、米国です。

オークションには「宝探し」的な楽しさがある

―とはいえ、参加はちょっと勇気がいりますね

加賀美さん オークション自体が日本ではまだあまり馴染みがないと思いますが、弊社は敷居が低いので、若い方にもどんどん参加して頂きたいです。

海外の有名オークションハウスでは、高額作品を扱う「イブニングセール」の時は招待状がないと入場できませんし、預貯金の残高証明書も必要です。日本のオークションですと顧客登録は必要ですが、どなたでも入場できますし、競りの見学だけでも大丈夫ですよ。

下見会も500点位の作品をご覧頂けるので、美術好きな方には面白い場だと思います。ギャラリーの展示と違い、あらゆる世代の作家の作品が一堂に集まっているので、「宝探し」的な楽しさもあります。

―500点もあると競りが大変ですね。

加賀美さん 8時間以上かかることがあります。でもずっと会場に張り付く必要はなく、目当ての作品が出る時間を見計らって来場して頂ければ。最近はオンライン入札も増えていますが、確実に入手されたいのならやはり来て頂くのが一番です。何人が入札に参加しているかといった状況も分かりますし。オークションの面白さは時折、「どこから出たのだろう?」と思うような、歴史に埋もれていたり、珍しかったりする作品が出現することですね。

―例えば、どのような作品がありましたか?

加賀美さん 最近ですと、村上隆さんの「レイチェル」という90年代の作品が出たことがあります。ブレードランナーに登場するアンドロイドのレイチェルの瞳の色をモチーフにして人種差別をテーマとした作品で、エスティメート300~500万円で632万5000円(落札手数料込)で落札されました。

福田美蘭さんや菊畑茂久馬さんなど、美術館や教科書でしか作品を見たことがなかった作家の作品が出品されたこともありました。あまり市場に出回らない作品が見つかるのもオークションの魅力の一つです。

実は美術史と市場の評価は必ずしも一致しません。つまり、評価が高い作家の作品が高額とは限らないんです。たとえばピエール・ユイグはトップレベルの現代美術家ですが、作品はほとんど市場で取り引きされていません。

このように、必ずしも評価の高い作家がオークションで高値になるということではありません。また、逆説的ですが、オークションで高値が付いたことで、作家の評価も上がるという現象もあります。近年、特に海外ではオークションが過熱気味なので、高値が付いた画家の個展を美術館が開催する「マーケット主導」の現象も起きています。

―美術館が市場を後追いしているわけですね。

加賀美さん 昔は今より批評の影響力が大きかったと思います。ニューヨークでは今でも特定の批評家が取り上げると展覧会が完売することがあるようですが、日本ではあまり考えられないですね。

日本では作家が賞を受賞したり、美術館で個展が開催されたりしても価格にそれほど反映されません。具体(美術協会)がブームだった時は、海外のオークションで作品に高値が付き、米国の美術館で展覧会が開催されたことで、遅ればせながら日本でも回顧展が行われました。でも、具体の作家の一番良いとされる60年代から70年代初頭の作品は枯渇してしまって、もうあまり市場に出てきません。

―白髪一雄の作品は価格が高騰しているそうですが。

加賀美さん 白髪一雄さん、田中敦子さん、吉原治良さんといった具体の中心作家の作品は確かに値上がりしていますが、それでも最高10億円いくかどうか。同時代に活躍した外国人美術家、例えばジャスパー・ジョーンズの作品は数十億円しますから、もっと高値が付いてもおかしくないと思うのですが。

―最近、人気もしくは注目している作家はいますか。

加賀美さん 不動の人気は草間彌生さん。奈良美智さんは非常に人気がありますが、オリジナル作品は市場にあまり出てきません。特にカンバス作品はコレクターが手放しません。名和晃平さん、五木田智央さんも人気が高いですね。最近はストリートアート系の注目度が高まり、海外作家はカウズやバンクシー、日本人作家はKYNEさんや花井祐介さんは人気が出ています。

物故作家も注目しています。具体美術協会の作家をはじめ、ハイレッドセンターの高松次郎さんや中西夏之さんは素晴らしい画家だと思いますので継続的に取り扱って行きたいと考えています。他には、荒川修作さんや山口長男さんも、日本だけではなく海外でも好きな方がいらっしゃいますね。

―オークション初心者にお勧めの作家や作品を教えてください。

加賀美さん エスティメートが数十万円以下、でもギャラリーでの発表歴がそれなりにある若手作家は手を伸ばしやすいと思います。

あとは写真ですね。100万円の予算では草間作品だと版画すら難しいのですが、写真ならかなり良い作家の作品が手に入ります。実は写真への関心がもう少し盛り上がってくれるといいなと思っているんです。東松照明さんや植田正治さんの貴重なビンテージプリントが出品されても、落札するのは海外のコレクターが多いので。

―作家がギャラリーに所属するのはどのような意味があるのでしょうか。

加賀美さん 客観的な価値付けになるという意味で、一定のステータスになると思います。オークションの立場からすると、所属ギャラリーが決まっていれば、問い合わせをして来歴を確認することもできますので心強いです。アート・バーゼルのような国際フェアに出展する有力ギャラリーが付いていれば、今後成長が見込める作家だろうなと思いますし。

©︎Julian Opie

豊かさ象徴するアート作品 企業を含め多くの人が楽しめるよう制度整備を

―企業がアート作品を所有するメリットはありますか。

加賀美さん 購入した作品をオフィスに展示している会社経営者の方は多いですね。社員の方の目の癒やしや感性への刺激になりますし、難解な作品は社員と一緒に意味を考えるといったふうに、皆さん自然な形で現代アートの普及に貢献していらっしゃいますね。税制面で言えば、美術品を備品として購入すると100万円まで減価償却ができるようになりました。

(ZOZO創業者の)前澤友作さんのように著名で年齢も若い方がアートを盛んに購入されるのは非常に影響力があったと感じます。アートが身近になって、若いお客様が増えている実感はありますね。

―アート市場の拡大にはどのようなプラットフォームが必要でしょうか。

加賀美さん まだアートが生活の中に溶け込んでいない感があります。米国やヨーロッパでは自宅を建てると、家具を買うのと同じ感覚で絵画作品を購入しますが、日本ではそこまでマインドが育っていないようです。

「絵は見るものであって、買うものではない」と思い込まれている方が多いのかもしれません。たしかに美術品は間違いなく資産ですが、それと同時に、見る人に心の潤いを与えてくれたり、日々の喧騒の中で少し立ち止まって考える時間を与えてくれたりと、人々の暮らしを精神的にも豊かにしてくれるものです。

例えば、会社が作品を購入した時の減価償却の枠を広げたり、作品売却時の所得税が軽減されたりすれば、購入される方は確実に増えると思います。このように、より多くの方が日常的にアートに触れ合い、楽しめるシーンが増えるよう、税制上の優遇措置なども含めて、さまざまな環境や制度が整備されていってほしいと思います。

文  永田 晶子 / 写真  吉田 和生

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