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『永遠のソール・ライター』展に学ぶ差別化できる個性

展示風景

美術ブロガーの明菜です。ART HOURSでは、「ビジネスパーソンが美術展から何を学べるのか」をテーマに、オフィスから飛び出してアートから学ぶお手伝いをさせていただきます。

さて、今回は『ニューヨークが生んだ伝説の写真家 永遠のソール・ライター』をご紹介します。本展はBunkamura ザ・ミュージアムで2020年3月8日まで開催されています。2017年にも同会場で回顧展が開催されましたが、今回は世界初公開の作品を含むアップデートされた展示となっています。

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ソール・ライターはカラー写真のパイオニアであり、かつ独特の美意識のため現代人に愛されていると感じました。成功への欲が無かったライターはビジネスパーソンとは正反対かもしれませんが、唯一無二の個性で差別化する方法を学ぶことができるでしょう。次の3つのポイントを参考に、展覧会を読み解いてみてはいかがでしょうか。

①写真家ソール・ライターとは
②カラー写真のパイオニア
③成功を欲しなかったアーティスト

ソール・ライターとは?

ソール・ライター(1923〜2013年)は、1940年代以降のニューヨークで活躍した写真家です。画家を志して故郷のペンシルバニア州ピッツバーグを飛び出しましたが、絵だけでは生計を立てることができず、ファッション写真の仕事を受けることになります。

本展ではファッション写真だけでなく、ライターが私的に撮影した写真も多数展示されています。データ化されたカラー・スライドを大きなスクリーンに投影する試みもあり、ライターの世界に没入することができました。

カラー写真のパイオニア

ライターが商業写真ではなく芸術表現としてカラー写真を用いるようになったのは、1948年頃のことでした。当時、写真芸術に用いるのは白黒が一般的だったため、カラーによる表現は厳しい批判にも晒されたそうです。

カラーによるファッション写真を生活の糧としていたことや、画家を目指していたライターの色彩感覚が、カラーによる写真芸術に向かわせたのかもしれません。近年では「カラー写真のパイオニア」と評価されているライターにも、ファーストペンギンにはつきものの批判があったのですね。

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本展ではライターによるカラー写真と白黒写真の両方を見ることができます。色の違いだけでなく構図にも違いがあり、ライターはカラー写真と白黒写真とで異なる表現を追求していたのではないか、と思わせられました。

筆者としては、カラー写真の方が撮影者の個性が強く出ているように感じました。派手な黄色い自動車が風景に溶け込んでいたり、真っ赤な傘がアクセントになっていたりと、色彩を操るセンスが際立っています。画家を志したライター自身の経験も活きているのかもしれません。

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筆者はライターの作品について、ボケや障害物を利用し、対象の曖昧さをコントロールしているのが特長だと考えます。対象との間に距離がある「奥手」な作品群の背景には、次の章で述べるような彼の性格があったのではないでしょうか。

成功を避けることへの欲望

名声を目的としない芸術家は大勢いますが、ライターは「成功を避けることへの欲望が私のなかのどこかに潜んでいた」とまで発言しています。厳格な父親が認めないであろうことから、目立った成功を収めるのを避けたがった、と読み替えられるでしょう。

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ライターの父親は高名なユダヤ教の聖職者で、息子も聖職者にするため、神学校に通わせました。ライターは学校では優秀な成績だったものの、厳しい規律や倫理観に縛られた生活を窮屈に感じ、絵を描く喜びに惹かれていきます。

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23歳の頃、画家になることを父親に大反対されますが、理解を得られぬまま故郷を飛び出し、ニューヨークへ向かいます。このような過去があるため、ライターは「成功を避けることへの欲望」を抱いていたと考えられます。

写真作品からも、撮影者の奥手さはどことなく伝わってきます。人物を背後や上から撮影したり、障害物ごしに撮影したり、被写体とライターの間に距離がある様子が読み取れます。

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一方で、この距離こそがライターの唯一無二の特徴となっているのではないでしょうか。雨で濡れた窓ガラスの向こう側に見える、ぼんやりとした風景の写真。障害物で画面のほとんどが覆われ、遠く小さく人物が見える写真。見えるものすべてを一瞬にして記録できるカメラについて、ライターほど贅沢な使い方をした人がいたでしょうか。

最初から成功を目指してはいなかった点は、現代のビジネスパーソンとは正反対かもしれません。ですが、価値のある仕事には光が当たると信じさせてくれるアーティストでもあります。ライターの個性ある作品は現在進行形で人気を獲得しており、個性の発露が価値に繋がった事例としても捉えられます。

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晩年のライターは隠居生活を送りますが、個展や写真集の出版によって再びスポットライトを浴びることとなります。日本でも、2017年の回顧展に合わせて出版された写真集『All about Saul Leiter』が2019年10月時点で13刷となりました。回顧展開催までほとんど知られていなかった写真家が、日本の写真集業界では異例のヒットとなったのは、作品に備わる魅力ゆえと言えるでしょう。

【まとめ】『ニューヨークが生んだ伝説の写真家 永遠のソール・ライター』をビジネスパーソンらしく味わう

展覧会を読み解くヒントとして、ライターの成功に無欲なところや、それゆえに差別化された個性についてお伝えしてきました。3つのポイントをまとめておきましょう。

①写真家ソール・ライターとは
②カラー写真のパイオニア
③成功を欲しなかったアーティスト

それにしても、1940年代には写真の芸術表現にカラーを用いたことで批判を受けたのに、現在は「カラー写真のパイオニア」と称されているのは皮肉とも言えます。成功に消極的だった人だからこそ、他人の意見に左右されずに自分の道を貫くことができたのかもしれません。

展覧会情報

『ニューヨークが生んだ伝説の写真家 永遠のソール・ライター』
開催期間:2020/1/9(木)~3/8(日) *1/21(火)・2/18(火)のみ休館
開館時間:10:00-18:00(入館は17:30まで)、毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム
展覧会HP:https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/20_saulleiter/
お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)

文 美術ブロガー 明菜

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