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傷ついた人々を癒すような絵を描きたい
アーティスト 宍戸竜二

2020年2月12日に開催されたThe Art Clubでは、ArtScouterの登録アーティストである柿沼瑞輝さんと宍戸竜二さんが順に登壇し、司会のTakさんと一緒にスライドで作品を参照しながら、制作にかける意気込みなどを語っていただきました。

Takさん 宍戸さんの作品は、今日、来場された皆さんもどこかで目にしているのではないかと思います。というのも、本の装釘やポスターでもたくさん活躍されているからです。そして最近は、直に描く絵画を多く手掛けているとお聞きしました。

宍戸さん 元々、イラストレーターでしたので、デジタルで制作していたんですけど、あるギャラリーでアートフェアに出すようなお誘いを頂いた時、デジタルからペインティングに挑戦しようと思いました。

Takさん 東京のランドマークとなっているビルの1階でもライブペインティングをされていましたね。これはビルオーナー側から具体的な依頼があって描いたのでしょうか?

宍戸さん ビルの中はコールセンターになっていて、音声でお客様の心情をくみ取るような難しい仕事だと聞きました。オーナーから依頼を頂いてからコールセンターで働くスタッフの方々と面談をしてその場で働いている思いをヒアリングしました。

社員の皆さんの気持ちをサポートするような、癒しや一体感につながる作品になれば良いなあと思って描きました。

Takさん 人の描かれていない風景が特に印象に残ります。明るく透明感のある雰囲気も良いですね。

宍戸さん 僕は絵を描く時に人の無意識を強く意識しています。

20年くらい前、イラストレーターとして描きはじめた時、全然上手くいきませんでした。その時、ちょうど村上隆さんGEISAIがスタートして、僕も絵を何も知らないのに夢中で出展しました。

そして村上さんとの懇親会があって、思い切って絵を見せたんですけど、「なんだこれは!?」のような反応でした…。ただ村上さんは「今まで自分が生きていて苦しかったことや楽しかったことを表現するのが絵なんだよ。」って教えて下さったのです。

それを聞いたら価値観ががらっと変わりましたね。これまでの傷ついた経験や苦しいことなど、心の内面に向き合うようになりました。当時の、主に小さかった頃の自分自身に対してどのような絵を描いたら癒されていくのか。そこを価値観に絵を描くようになりました。

Takさん 確かにコールセンターにある絵も傷ついた人を癒すような作品です。

宍戸さん イラストレーターとして仕事をしていた時、クライアントさんの要望に応えることに必死になり過ぎて、一体、何を描きたいのかが分からなくなったことがありました。壁にぶつかってしまい、仕事も殆どなくなってしまいました。

「何故こんなに苦しいことばかり続くのだろう。」と自問自答したのですが、堂々巡りで答えは出ません…。結局、ある時期から諦めるようにしたのです。自分の気質は変わらない。悲しみや苦しみを受け止める運命なのだと。だから傷ついた人が優しく受け止めてくれるような絵を描くことが、僕の役目だと思うようになりました。

Takさん 宍戸さんの作品を見ていると仏教的な世界観に繋がるような安らぎを感じます。「癒し」という言葉がぴったりだなと思いました。ぱっと見て絵の中に吸い込まれていくような感覚に近いですね。色味も少なく安らかな感じがします。

宍戸さん なるべく情報を削いで、必要なモチーフだけで描くようにしています。また実風景に基づいていますが、僕の中では心象風景でもあるのです。

「どういう風にしたら自分が癒されるか。」という想いを込めていますので、作品を通して誰かの傷ついた気持ちにもきっと繋がるのではないかなとも思っています。

実際、今回の作品はライブペインティングを行ったのですが、まだ最初の青色を塗っただけのタイミングで通りかかったスタッフの方にも「癒されるなあ」と仰っていただきました。手応えとして嬉しかったです。

Takさん どのくらいで完成されたのでしょうか。今後はペインティングのお仕事が中心になるのでしょうか。

宍戸さん 事前に色を作ったりして準備に時間がかかりますが、描いた期間は約2週間でした。またペインティングとイラストの垣根については考えていません。商業イラストの仕事にも楽しみがありますので、両方ともうまくやっていければ良いと思います。

Takさん 今年9月には外苑前ギャラリーハウスマヤにて個展「ハピネス」も開催されます。

宍戸さん ペインティングとプリントの作品を出展し、文章を発表したいと考えています。実は昔から小説を書くのが好きだったのですが、何年か前から絵が描けなかった時に、例えば木漏れ日がどうこうとか、絵を文章で表現出来ることを知りました。

今回のコールセンターでの作品でも短編小説を作るつもりです。またアトリエですが、塗装の仕事の経験もありまして、壁の色も自分で塗り、床もリノベーションで作りました。

Takさん 小説も書かれるのですか!絵も描かれて、DIYもされて、無敵ですね。

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<宍戸竜二 アーティスト情報>
1972年生まれ。神奈川県小田原市在住。2002年頃よりフリーランスとして広告や雑誌、TVなどのメディアにイラストを提供。2020年2月末まで東京のランドマークとなるビル1階にてウォールペインティングを展示中。(入館許可が必要。)主な仕事に「アサヒ飲料、125周年三ツ矢サイダー新聞広告15段」や「東日本銀行 年間ポスター」など。2011年にはイラストレーション誌の誌上コンペ「日仏コラボチョイス」次選に選出される。2020年9月21日から外苑前ギャラリーハウスマヤにて個展「ハピネス」開催予定。

<Takさんプロフィール>
美術ブログ『青い日記帳』主宰。goo『いまトピ』などのメディアに多数寄稿。カルチャーセンターや美術館でのトークショーや講演を積極的に行い、日々、展覧会レビューなど幅広くアート情報を発信している。著書に『いちばんやさしい美術鑑賞』(ちくま新書)や『美術展の手帖』(小学館)など。『失われたアートの謎を解く』(ちくま新書)を監修。


文  鈴木雅也 / 写真  吉田和生

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