Article

アートの持つ「発散させる力」がビジネスをもっと面白くする
-株式会社ロフトワーク 諏訪光洋

2020.03.04

©Takashi Murakami

株式会社ロフトワーク
代表取締役社長 諏訪光洋氏

1971年米国サンディエゴ生まれ。慶応大学総合政策学部を卒業後、「InterFM」立ち上げに参画し、同局最初のクリエイティブディレクターに就任する。1997年に渡米し、School of Visual Arts Digital Arts専攻を経てニューヨークでデザイナーとして活動。2000年に林千晶氏とロフトワークを共同創業し、代表取締役社長に。クリエイティブの新しい形の流通を目指しクリエイターコミュニティ「loftwork.com」をスタート。現在はものづくりカフェである「FabCafe」を台北,バルセロナ等世界10箇所に展開するなどロフトワークは世界的なクリエイティブエージェンシーに発展している。


©Takashi Murakami

アーティストが集まると文化が生まれ、価値が発生する

-School of Visual Arts Digital Artsで学び、経営者でありながらデザイナーとしても数々のプロジェクトを手がけていらっしゃる諏訪さんですが、アートに興味を持ったきっかけは?

諏訪氏 ロフトワークをスタートさせる前の1997年から2000年をニューヨークで過ごしたのですが、ニューヨークという街はギャラリーがたくさんあって、その多くは誰でもふらっと入れます。入るとエスタブリッシュメントがいれば学生もいる。当然、絵を買っている人もいます。数万ドルのプライスタグがついている作品が20以上並んでいるけど 、「ほとんど、売れている?!」と衝撃を受けたりもしました。絵がリアルに流通していることを実感しました。

ギャラリーは多くの場合ある期間1人の作家のエキシビジョン(Show)を行いつつその作品を売ります。エキシビジョンのオープン前日にはオープニングパーティーが開かれますが、誰でも入れるものもあります。通りかかれば参加できたりもしますし、そこは米国的なオープンでフレンドリーな雰囲気があります。もちろんそうでないものもありますが(笑)

そのパーティでアーティスト本人と会話をしたり、ギャラリストに話を聞いたりしながら、どうやってアーティストは名をあげるのか、そして自分に合う作品や作家と知り合う機会も生まれます。アートがどう流通しているのかもわかってきます。

それよりも重要なことは、ギャラリーという場所、そしてコンテンポラリーアートがクリエイティブクラスの社交場になっています。パーティには無料でワインが振る舞われて、アーティストはもちろん、デザイナーやデザイン事務所の経営者、若いビジネスの成功者、クリエイターや文化人、LGBTも関係なく集まる。ワインをちょっと飲んで、アートとNYで今旬なムーブメントやプロジェクトについて話したりする。コンテンポラリーアートとアーティストがつくる魅力や力を直接実感しました。

-その後、ロフトワークを設立させるわけですね。

諏訪氏 ロフトワークの立ち上げには私の中でもう1つの原体験があります。

ちょうど97年から2000年頃、ニューヨークがブルックリンDUMBOエリアに人為的にSOHOを発生させる再開発を行っていました。荒廃した地区にクリエイターを集中的に呼び込み住まわせ、創作場所の集中する場所とする計画です。私も借りるにあたりポートフォリオを提出したところ300㎡のボロボロのロフトを安く借りることができました。

私の隣には1mくらいの宇宙船を陶器でつくるアーティストが住んでいてわけがわからないのですが、とにかくいろんなタイプのアーティストが集まっていて、かなりクレイジーな時間を過ごしました。

アーティストやデザイナーが毎週のように自主的なファッションショーやコンセプチュアルなパーティーが開かれる。すると治安もあまり良くなく当時は寂しい場所にも関わらず、噂をききつけてマンハッタンから たくさんの人が集まるようになったんです。カルチャーが生まれ、DUMBOに住みたいと言う人が出てきて、どんどん再開発が進んでいきました。「アーティストが集まると文化が生まれ、大きな価値が発生する」ということを目の当たりにしたのです。

クリエイターのコミュニティを作り、クリエイティブを流通させようと考えてロフトワークを立ち上げたのは、アートとの出会い、そしてDUMBOの原体験と繋がっている話です。

©作者不明

「予定調和」を打破するアートの力

-アーティストが集まれば文化ができるという話がありましたが、諏訪さんがビジネスを行ううえでアートに期待していることは何でしょうか?

諏訪氏 サイエンスとエンジニアリング、アートとデザインという4事象を考えてみてください。アートやサイエンスは課題を見つけるもので、デザインとエンジニアリングはその課題を解決するための手法です。

サイエンティストが宇宙や次元の課題をつくり考えるように 、アーティストも社会や世界、あるいは人自身の課題を見つけ、ビジュアライゼーションする力があると考えています。それこそLGBTの問題を最初に顕在化させたのがアーティストたちであったようにです。

アート、そしてアーティストの価値とは、課題そのものを見つける視点を持っていることだと思っています。だから社内にアーティストが放牧されていたら、きっと課題をたくさん見つけてくれるはずなんですよね(笑)

-オフィスにアートを置くというのは、その感覚に近いということですか?

諏訪氏 その視点を大切にしたいとは思っています。そして、アートは発散させる力が強い。先ほどアートが見つけた課題をデザインによって畳んでいくという話をしましたが、仕事としてプロジェクトを着地させようとすると、どうしてもコンパクトに予定調和的にまとめる方がリスクが小さく合理的です 。でもそこに「もっともっと発散していい」「収集つかなくなってもいいんじゃないか」と投げかけるのが、アートの存在意義だと思います。

だから、プロジェクトを進める時にはこれからもっとアーティストを参加させる余地をつくるべきだと私は考えていますし、実際にプロジェクトの中に入ってもらうことも増えています 。彼らはアンコントローラブルですが「新結合(イノベーション)」をつくる大いなる触媒になりえます。

それがロフトワークらしさにも繋がっていると。

諏訪氏 僕らにとって混沌のプロセスを経ていることは非常に重要ですし、アーティストだけではなく多様な能力者が集まって考えるところに僕らのアウトプットの特性があると考えています。

アートコレクションを通じて見えてくるその人の個性

アートを持つということに対して、何を期待すべきだとお考えですか?

諏訪氏 今って、物質的に豊かになりましたよね。昔の成功者は高い外車に乗ったり、豪華な時計を買うことが1つのステータスでしたが、今の時代はそういう価値観はもうかっこよくないでしょう?ではアートはどうかというと、お金があってもすぐ簡単には買えません。作品や作家をある程度知らないと自分でも買えないし、ギャラリーは作家に対し作品がきちんと誰に渡っていくのかを管理する機能も持っている。

いい作品を買おうとすれば、自分の好きな作家や作風をみつけ、その上で合うギャラリーとの付き合いをしたり 、その作品がどういう文脈で、誰の影響で作られたのかを知っていくプロセスが必要です。それを楽しむ。

ですからいいコレクションは簡単には作れません。でも、それを1つずつきちんとやっていくと、クリエイティブクラスターの中での文化的なポジションができます 。つまり、お金と興味があれば文化人の仲間入りをできちゃうっていう意味ではアートっていうものが果たしてきている役割のある意味隠れた大きなファンクションだったりします。

先ほど言ったニューヨークでは素晴らしく機能していたし、欧州でもそうです。日本でも日本画や京都におけるお寺さん周辺にもこの世界は残っているし、戦国大名とお茶の関係なんかは同じで、城ひとつ分の価値の茶碗が流通していたなんていうのは同じことだと思います。

高い車や時計や不動産や仮想通貨を買っても今は誰も反応しないでしょ(笑)?

-お金だけでなく、そこに「文化」というものを見出していくということですね。

諏訪氏 株ではないので、「一番値上がりするものをください」という買い方はできませんからね。審美眼ではありませんが、自分はこれが好きだというものがあって、ギャラリーの人と付き合うようになって「いい作品が入ったよ」とインビテーションが来るようになれば、さらに作品を見るようになって養われるものがあるわけです。そうしているうちにコレクションができ、そこから自然とその人の個性が見えてきたり、かっこよさが出てくるのかなと思ったりしています。

とはいっても、そんなに敷居が高いものでもないんですよ。美術館のパーティーなんかでアート好きが集まっても、話すのは好きなアーティストのことや次に行く展覧会のことなど、たわいのないことばかり。同業者で集まった時に「最近あの人すごいね」と話したり、自転車好きが集まった時に「最近あのギアを買ってね…」なんて盛り上がるのと基本的に一緒です。

©Takashi Murakami

アートをきちんと「商品」として見てほしい

まだアートを買ったことがないという人に、「最初の1枚」を買うためのアドバイスをお願いします。

諏訪氏 これは私自身がやっている遊びなのですが、芸術祭や美術館で作品を見て歩きながら、「どれか1つもらえるとしたら、自分ならどれを?」を考えるんです。もしくは「100万円で自由に買っていいよ」でもいいんです。そういう視点で作品を見ていると、自分が欲しい作品をリアリティを持って考えます。ゲーム感覚ですけどね。

あとギャラリーに入ってプライスタグを見せてもらったらいいと思います。作品だけを見るのではなく、その作品がいくらで売られているのかも一緒に見れば、「購入」がリアルに感じられるし、「え?意外と安い?欲しいかも!」と思う機会はかならずあります。

日本人はまだまだアートを買うことに対して不謹慎だと考える人が多いようですが、そもそも誰かが作品を買わなければアーティストは生活ができないわけですから、きちんと「商品」として見ることは社会にとっても必要だと思います。

とはいっても、最初の1枚を買う時はいろいろ逡巡するでしょう。「誰かに言うとバカにされる作品だったり?」「本当はこんなに価値がないんじゃないか?」なんて不安になるかもしれない。それについてはトライアンドエラー。

中学生くらいの頃に自分のお小遣いで最初の洋服をドキドキしながら買いませんでしたか?で、後から「なんでこれに5000円も出したんだろう」なんて思ったりすることもあったかもしれない。でもそうやって買っていかないと自分に合う服ってみつけられないじゃないですか。

アートを買うのもそれと同じだと思うんです。最初の1枚を買ってみないことにははじまらない。勇気を出して買ってみて、そして飾ってみましょう。きっと楽しいですよ。

©︎ Rafaël Rozendaal

文   志村 江 / 写真   吉田 和生

Related

Page Top