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『東山魁夷の青・奥田元宋の赤―色で読み解く日本画―』に学ぶ驚きの発想と創造性

奥田元宋《奥入瀬(秋)》山種美術館蔵

美術ブロガーの明菜です。ART HOURSでは、「ビジネスパーソンが美術展から何を学べるのか」をテーマに、オフィスから飛び出してアートから学ぶお手伝いをさせていただきます。

さて、今回は日本美術の展覧会『東山魁夷の青・奥田元宋の赤―色で読み解く日本画―』を紹介します。山種美術館で2019年12月22日まで開催されています。

本展は色によって日本画を読み解くことを試みています。ビジネスパーソンの皆さんは、次の3つのポイントをヒントに、日本画のオリジナリティや創造性に刺激を受けてみてはいかがでしょうか。

①日本画の色に焦点を当てた展覧会
②西洋絵画の影響を受けて昇華した日本画
③独自の発想と試行錯誤により生まれた質感

展覧会で何を見られるのか?

本展は日本画の色ごとに焦点を当て、青、緑、赤、黄、白、黒、金、銀といった色ごとに作品を分けて展示しています。その中でも、キービジュアルとなっている東山魁夷の青と、奥田元宋の赤は目を引きつけるでしょう。

左:東山魁夷《白い嶺》、右:東山魁夷《年暮る》共に山種美術館蔵

東山魁夷(1908〜1999年)は「国民的風景画家」とも呼ばれた昭和を代表する画家です。青を多用したため、彼の絵画に使われる青は「東山ブルー」と呼ばれることもあるほどです。魁夷は「青は精神と孤独、憧憬と郷愁の色であり、悲哀と沈静をあらわし、若い心の不安と動揺をつたえる。青は又抑制の色であって、絶えず心の奥に秘められて、達することの出来ない願望の色である。それは頽廃と死への誘惑にも傾く」と語っています。自らが抱える孤独を映す色のため、深い精神世界に近づくことのできる「青」を多用していたのではないでしょうか。

一口に「青」と言っても、魁夷の青は非常に多彩です。特に日本では、緑が鮮やかな山や木々の風景を「青々しい」と形容することもあり、「青」の幅は広く捉えられています。もちろん魁夷の絵にも、氷のように冷たい青から暗い森のような深い緑まで、さまざまな青が用いられています。それぞれの印象の違いをじっくりと楽しんでみてはいかがでしょうか。

奥田元宋《奥入瀬(秋)》山種美術館蔵

奥田元宋(1912〜2003年)は燃えるような赤色をふんだんに使った風景画が印象に残ります。山種美術館が収蔵する《奥入瀬(秋)》だけでなく、銀閣寺の襖絵にも元宋によるものがあります。「心の目」を存分に使って自然風景を描いてきた元宋は、生まれながらにして肌身に備わり、自分の心象を最もよく表す「自分にしか持てない色」として、赤による表現を追求しました。

山種美術館に何度か足を運んだことがある人にとって、《奥入瀬(秋)》はおなじみの作品かもしれません。ところが今回は特別に、元宋が実際に使っていた絵具の顔料が展示されているのです。10種類もある微妙に色味の異なる赤が、絵の中でどのように使われているのか考えながら見ることができるでしょう。

本展は東山魁夷、奥田元宋だけでなく、色の観点からさまざまな日本画家の作品を紹介しています。明治以降、近現代の日本画に用いられた色彩の多様さに触れられる展覧会となっています。

西洋絵画の影響と日本画

「日本画は西洋絵画と比べて地味だ」という印象を持っている方はいないでしょうか?確かに、明治以前の日本美術の絵具は、鉱石や貝殻を始めとする天然素材が主で、表現できる色数も限定されていました。

しかし、明治に入ってから日本は西洋からさまざまな分野で影響を受けます。その1つが絵具で、色彩豊かな合成顔料が西洋からもたらされました。それに加えて人工の岩絵具が新たに開発され、日本の画家が扱える色数は格段に上がったのです。

小林古径《三宝柑》山種美術館蔵

西洋から影響を受けた日本画の代表格と言えるのが、小林古径(1883〜1957年)の《三宝柑》ではないでしょうか。彼は西洋の絵具のみならず、西洋絵画を学んで色彩理論や絵画技法も自身の作品に取り入れています。《三宝柑》に見られる黄色と紫色の対比は「補色調和」を応用しており、2つの色が引き立て合っています。

川端龍子(1885〜1966年)も、日本画の伝統的な絵具だけでなく、西洋絵画的な色彩豊かな絵具を用いています。一方で、絵画の道を志す若者が人工絵具などに慣れてしまった後に、伝統的な日本画を学び直そうとすれば苦労が伴うことも指摘しています。

川端龍子《黒潮》山種美術館蔵

小林古径や川端龍子など近代の日本画家は、西洋絵画の絵具や技法を取り入れ、応用することで日本画を発展させました。西洋から流入したものをそのまま真似するのではなく、既存の日本画と合わせて昇華させたのです。現代のビジネスパーソンにも、既存のものを刷新する点では同様の創造性が必要とされており、日本画家との共通点を探ることができます。

質感の違いにも注目

本展では青や赤といった鮮やかな色彩に目を惹かれますが、黒や銀の渋い色にも注目したいところです。無彩色の表現には画家のこだわりが詰まっており、見応えがあります。

奥村土牛《舞妓》山種美術館蔵

例えば、奥村土牛(1889〜1990年)の《舞妓》を見てみましょう。本作は黒が画面の多くを占める絵画で、髪も着物も黒色です。

しかし、実際に《舞妓》に対面してみると、髪と着物は質感が描き分けられていることが分かります。着物は滑らかですが、髪はゴワゴワした質感でささやかな凹凸を見て取ることができるのです。髪の部分の顔料を炙っているらしく、奥村が毛髪ならではの質感を出そうと試行錯誤したことが読み取れます。

田渕俊夫《輪中の村》山種美術館蔵

今度は、田渕俊夫(1941年〜)の《輪中の村》を見てみましょう。銀のセクションで展示される本作の、どんよりした曇り空に使われているのは、なんと「アルミ箔」なのです。

日本画において、銀色を表現するときによく使われてきたのは「銀箔」です。しかし、銀箔は時間とともに黒ずんでしまうデメリットがあります。劣化しにくい銀色なら「プラチナ箔」を使うこともできますが、非常に高価なため、気軽に使えるものではありません。

そこで、田渕氏は実験的に経年変化しにくいアルミ箔を使いました。すると、アルミ箔の銀色だけでなく、箔そのものの強度が銀箔などより高かったため、独特なシワの表現もできることを発見したのです。《輪中の村》の空に雲の切れ目が描かれているように見れるのは、田渕氏が見つけたアルミ箔の効果ゆえです。

展示風景

いつの時代の画家も、自らの理想を実現するために、独自の方法で試行錯誤を繰り返してきました。後世に残る作品には、新しい画材・素材を使った試行錯誤が隠れているものです。現代のビジネスパーソンにも必要とされているトライアンドエラーを繰り返すチャレンジ精神を、近現代の日本画家が持っていると考えると、興味深くはないでしょうか。

【まとめ】『東山魁夷の青・奥田元宋の赤―色で読み解く日本画―』をビジネスパーソンらしく味わう

展覧会を読み解くヒントとして、近現代の日本画の色彩についてお伝えしてきました。3つのポイントをまとめておきましょう。

①日本画の色に焦点を当てた展覧会
②西洋絵画の影響を受けて昇華した日本画
③独自の発想と試行錯誤により生まれた質感

本展は色の類似性で作品を分けて展示していましたが、似たような色の作品でもテーマが全く異なることが分かるなど、作品どうしの違いにもフォーカスしています。同系色の絵画を比較することで分かる「違い」を考察し、画家の独自の発想や試行錯誤のチャレンジ精神を読み取ってみてはいかがでしょうか。

展覧会情報

『東山魁夷の青・奥田元宋の赤―色で読み解く日本画―』
会場: 山種美術館
会期: 2019年11月2日(土)~12月22日(日)
開館時間:午前10時〜午後5時 (入館は午後4時30分まで)
休館日:月曜日[12/23~1/2は展示替と年末年始休館]

文 美術ブロガー 明菜

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