Article

『MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影』に学ぶ創造性

THE COPY TRAVELERS《THE COPY TRAVELERSの机上の空間》2019 展示風景

美術ブロガーの明菜です。ART HOURSでは、「ビジネスパーソンが美術展から何を学べるのか」をテーマに、オフィスから飛び出してアートから学ぶお手伝いをさせていただきます。

さて、今回は『MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影』をご紹介させていただきます。東京都現代美術館で、2020年2月16日まで開催されています。

鈴木ヒラク《Interexcavation》2019 展示風景

MOTアニュアルとは、日本の若手アーティストの作品を中心に、現代美術の一側面を切り取り、問いかけや議論のはじまりを引き出すグループ展です。15回目となる今回は、コピーやトレースといった手法で既にある世界と交わりながら表現する作家の作品にスポットを当て、「なぜ人は作るのか」という問いに向き合います。

本展は「創造性」をキーワードに、アートから貪欲に学びを得る絶好の機会となるのではないか、と思います。特にビジネスパーソンの皆さんは、次の3点を意識してご覧になってみてはいかがでしょうか。

①情報社会における創造性への問い
②アートが生まれる瞬間のライブ感
③初見のアートを読み解くポイント

社会における創造性の模索

まず、加納俊輔氏、上田良氏、迫鉄平氏によるユニット「THE COPY TRAVELERS」の映像作品《あの日のコピササイズ》を見てみましょう。写真や紙、布や紐を集めてコピー機でコピーを取り、コラージュを作っている映像作品です。メンバー3人が共同で作業しているものの、映像のリズミカルなカットからは、人間の意図が介在していないように見えます。

THE COPY TRAVELERS《あの日のコピササイズ》2019

ルーティンワークのようなコピー取りですが、コピー機によるコラージュには偶然の要素が入り込みます。例えば、縄のような立体物をコピー機に押し付けると、押し付ける手の力加減などにより偶然生まれた影も印刷されます。既存のものを使っているのに、あっという間に世界で1枚しか存在しないプリントができあがるのです。

THE COPY TRAVELERSの素材となる前から世界に存在していたものを使い、「複製」という手法で唯一無二のプリントを制作している点は興味深いです。その上、ルーティンワークの中で自然と生まれる偶然に任せており、人間の創造力が介在していないように見える点も面白くはないでしょうか。

筆者は《あの日のコピササイズ》から、現代社会における創造性への問いを受け取ることができました。新しいものを作るために必要な人間の能力とは何か、また価値あるものを作るために偶然の力を借りるべきなのか、既存の物事の引用とオリジナリティの両立など、自らの仕事に照らして考えてしまいました。

THE COPY TRAVELERS《THE COPY TRAVELERSの机上の空間》2019 展示風景

上記はあくまでも筆者の見解ですが、THE COPY TRAVELERSをはじめとする本展の出展作家の作品と向き合うことで、現代における創造性について考えを深めることは可能です。ビジネスで求められているイノベーションには、アート作品を生むプロセスと通ずるものがあると考えられるからです。

ビジネスパーソンに必要な創造性やイノベーションとは、無から有を生み出すことだけではありません。過去の文脈を踏まえた上で、既にあるものを今までに無い組み合わせにして、新しい価値を作ることもイノベーションです。

アーティストが既存のものから受け取った「エコー」を発展させたアートに触れることで、私たちは「創造性」について考えるきっかけを得られます。日々目の前の業務に取り組むビジネスパーソンの皆さんも、本展で新たな視座を獲得できるかもしれません。

アートが生まれる現場に立ち会える企画

本展には展示だけでなく、ファッション・ショーや、ドローイングと音楽のコラボレーションイベントなどの企画もあります。これらの機会を通じて、鑑賞者はアートが生まれる現場に立ち会うことができるでしょう。

PUGMENT《Purple Plant》2019 展示風景

例えば、ファッション・レーベルPUGMENTが展示室内で開催したファッション・ショーです。ショーを拝見した後、インスタレーション作品の展示がより生々しく迫るようになったことに気づきました。

PUGMENTの展示のコンセプトは「占領されて言葉が失われた国で、街に残る衣服にプリントされた言葉から言語を再生する」というもの。会期中、Tシャツや衣類にプリントする機械を用いたインスタレーション作品を見ることができます。

2019年11月17日に開催されたファッションショー『PUGMENT 2020年春夏コレクション』

会期中に行われたファッション・ショーでは、PUGMENTの2020年春夏コレクションを纏ったモデルが展示室をランウェイに見立てて登場しました。文字がデザインされた衣服を実際に人間が着て動くことで、PUGMENTのコンセプトである「占領下で言葉が失われた国」が自分ごとのように現実味を帯びてきます。アートが「見られる対象」ではなく、「鑑賞者の頭の中に残る問い」になったように感じられました。

このようにアートが生まれる現場に立ち会えば、鑑賞者は新鮮な刺激を得られるでしょう。ぜひ展覧会の関連イベントへ参加し、アートが生まれる瞬間のライブ感を体験していただければ、と思います。

初見のアートを見るときのポイント

本展は若手アーティストが中心ということもあり、参加作家すべてをよく知っている鑑賞者は非常に少ないと考えています。言い換えれば、先入観の無い状態で見られる展覧会です。

三宅砂織《Garden (Potsdam)》2019 展示風景

現代アートの見方の一例については、以下の記事で紹介しました。こちらもあわせてお役立ていただければ幸いです。

さらに、現代アートへの理解を深めたいときには、展覧会におけるキーワードやテーマを取っかかりとするのが良いでしょう。今回のポイントとなるのは、本展のタイトルにもあるキーワード「エコー」です。

身も蓋もないですが、文字通りの「エコー」は音波の反射です。やまびこのように、反射して小さくなっていく音をイメージします。

吉増剛造プロジェクト|KOMAKUS《A View ofMademoiselle Kinka》2019 展示風景

しかし、本展における「エコー」は、アーティストが既存の世界からのインプットに対し、コピーやサンプリングといった手法で「増幅したアウトプット」を出すことを指していると考えられます。

会場で各作品と向き合うときには、エコー、つまりアーティストのインプットとアウトプットの関係に注目してみてはいかがでしょうか。「現代アートは難解だ」とよく言われますが、展覧会のキーワードである「エコー」を取っかかりに丁寧に読み解いていけば、ご自身にとってきっと意味のある発見があるでしょう。

【まとめ】『MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影』をビジネスパーソンらしく味わう

展覧会を読み解くヒントとして、出展作品などについてお伝えしてきました。3つのポイントをまとめておきましょう。

①情報社会における創造性への問い
②アートが生まれる瞬間のライブ感
③初見のアートを読み解くポイント

アートとビジネスにおける創造性は必ずしも完全に一致するわけではありませんが、重なる部分はあるはずです。特に現代アーティストは社会を取り巻く問題を敏感に感じ取り、創意工夫を重ねて作品を作っています。ビジネスパーソンにとって本展は、アーティストの思考から学びを得られる機会となるでしょう。

展覧会情報

『MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影』
会期:2019年11月16 日(土)-2020年2月16日(日)
休館日:月曜日(2020年1月13 日は開館)、2019 年12月28日-2020年1月1日、1 月14 日
開館時間:10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
会場:東京都現代美術館 企画展示室 地下2 F
展覧会公式HP: https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/mot-annual-2019/

文 美術ブロガー 明菜

Related

Page Top