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『森村泰昌:エゴオブスクラ東京2020―さまよえるニッポンの私』に学ぶ日本の空虚

展示風景

美術ブロガーの明菜です。ART HOURSでは、「ビジネスパーソンが美術展から何を学べるのか」をテーマに、オフィスから飛び出してアートから学ぶお手伝いをさせていただきます。

さて、今回は『森村泰昌:エゴオブスクラ東京2020―さまよえるニッポンの私』をご紹介します。本展は原美術館で2020年4月12日まで開催されています。森村泰昌(もりむら やすまさ)氏は、名画などの登場人物に扮したセルフポートレートで知られるアーティストです

《駒場のマリリン(習作)》1995年

ビジネスパーソンの皆さんは次の3つのポイントを参考に、日本が抱える空虚さを展覧会から学んでみてはいかがでしょうか。

①森村泰昌とはどんなアーティストか
②日本にある空虚さ
③物語性のある展覧会

森村泰昌という現代美術家

森村氏は1951年大阪府生まれの、日本の現代美術家です。既に少し触れたように、森村氏は名画の登場人物に扮したセルフポートレート作品で知られています。衣装やメイクを施し、小道具も駆使して名画の人物と成り代わります。

1985年にゴッホの《包帯をしてパイプをくわえた自画像》(1889年)に扮したセルフポートレイト写真《肖像・ゴッホ》を発表し、デビューを果たしました。

《劇場 2020》2020年

最新作である、マネの《フォリー・ベルジェールのバー》を基にした作品も展示されていました。本作は『コートールド美術館展 魅惑の印象派』でご覧になった方も多いでしょう(2019年に東京都美術館で開催、2020年1月3日〜3月15日まで愛知県美術館にて開催中)。

絵画や写真の人物に扮すると言っても、単なる遊戯ではありません。西洋美術の中に日本人が入ることで、森村氏は西洋中心の美術史をかく乱しようと企てました。

《”オランピア”の部屋 1988-2018》1988-2018年

それは同時に、衣服を着替えることで別人になれることを示しているのではないでしょうか。森村氏は「空虚」という言葉を使って、日本の政治や文化における課題を表現しています。

自由に着替えられる「思想」

映像作品「エゴオブスクラ」で、森村氏は「真理や価値や思想というものは、私の身体の外側にあって、それはまるで『衣服』のように、いくらでも自由に着替えることができるのだ」と述べています。

「空虚な日本には、どんな衣装でも着せることができ、どんな衣装でも似合う」とも言っています。戦後の日本がアメリカの価値観を受け入れてきたことを、マッカーサーと昭和天皇の2人が写る写真を結婚写真として捉え、森村氏自身が成り代わって作品化しました。

《思わぬ来客 2010-2018》2010-2018年

森村氏は政治や文化における空虚を指摘していますが、日本のビジネスにも同じことは言えると感じました。日本企業は自らのビジョンを考えるのが苦手と言われています。企業におけるビジョンとは、社会のあるべき姿を考え、その姿を実現するために自社はどんな役割を果たすのかを表現するものです。

戦後から2010年頃までの日本では、大量にモノを生産し大量消費を促進させるビジネスモデルが通例で、利便性や値段、速さなど目の前にあるわかりやすい課題を解決することで、企業は社会的な使命を果たすことができました。しかし現代は市場の成熟が進み、モノも溢れ、便利であるのが当たり前になったため、従来と同じビジネスモデルでの差別化が難しくなっています。また、社会・経済情勢が複雑化した影響で、ロジックやデータだけでは取り組むべき課題を見つけづらくなってきています。

だからこそ近年ではアート思考の文脈で、課題を見つけるために「問う」ことや「創造性を掘り起こす」ことが重要だと声高に言われています。そのような課題や問題は、個人が内側から発する感情や想いがなければ見つけられません。

《モデルヌ・オランピア 2018》2018年

ビジョンを自ら見つけれない日本企業あるいは日本のビジネスマンは、森村氏が指摘する空虚と共通点があるように感じました。ビジネスパーソンの皆さんも、本展は自分の仕事における考え方や姿勢を振り返る機会になるのではないでしょうか。

物語性のある展示

私が原美術館の展示が個性的だと思う理由の一つに、「物語性」があります。特に個展では、順路に従って鑑賞すると一連の物語を感じることができ、最後の展示室を見るともう一度最初から見たくなってしまうことが多いです。

本展も同様に、1つの物語として鑑賞することができます。しかも、映像作品の「エゴオブスクラ」を見ることで、展示内容を隅々まで理解することができるのです。

展示風景

初見では、展示の意図がわからない作品もあったのですが、「エゴオブスクラ」を見ると理由が分かりました。映像と実物の展示が頭の中で繋がり理解が進むので映像はご覧になることをおすすめします。上映時間は50分ほどなので、予定を組んで訪れていただければと思います。

本展もそうですが、原美術館の展示は館全体を使ったインスタレーションとして鑑賞することができ、他の美術館とは一線を画しています。難しいと言われがちな現代美術にも親しみやすいので、現代美術に苦手意識を持たれている方におすすめの美術館です

《マニフェスト(烈火の季節、垂れ幕)》2006年

残念ながら、品川にある原美術館は2020年12月をもって閉館することになっています。2021年からは、現在の伊香保のハラ ミュージアム アークを原美術館ARCと改称し、同館を唯一の拠点として活動していきます。

つまり、現在の品川の原美術館で展覧会を楽しめるのは、2020年限りです。展覧会を1つの物語として何度も楽しめる原美術館が無くなると思うと寂しいですが、今回の森村泰昌展を始めとし、皆さんにも目に焼き付けていただければと思います。

【まとめ】『森村泰昌:エゴオブスクラ東京2020―さまよえるニッポンの私』をビジネスパーソンらしく味わう

展覧会を読み解くヒントとして、日本が抱える空虚さについてお伝えしてきました。3つのポイントをまとめておきましょう。

①森村泰昌とはどんなアーティストか
②日本にある空虚さ
③物語性のある展覧会

森村氏が指摘するのは政治や文化における空虚さですが、個人が大勢集まることで政治や文化が生まれると考えれば、個人の中にも空虚があると捉えられます。今回の展覧会によって自分の中にある空虚に気づき、自らを省みるきっかけとしていただけるのではないかと思います。

展覧会情報

『森村泰昌:エゴオブスクラ東京2020―さまよえるニッポンの私』
会期:2020年1月25日[土]‐4月12日[日]
会場:原美術館
開館時間: 11:00 am – 5:00 pm(水曜のみ8:00 pmまで開館 ※入館は閉館時刻の30分前まで)
休館日:月曜(2月24日は開館)、2月25日[火]
美術館HP: https://www.haramuseum.or.jp/jp/hara/

文 美術ブロガー 明菜

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