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『モダンデザインが結ぶ暮らしの夢展』に学ぶ創造性とモチベーション

展示風景

美術ブロガーの明菜です。ART HOURSでは、「ビジネスパーソンが美術展から何を学べるのか」をテーマに、オフィスから飛び出してアートから学ぶお手伝いをさせていただきます。

さて、今回は『モダンデザインが結ぶ暮らしの夢展』をご紹介します。本展はパナソニック汐留美術館で2020年3月22日まで開催されています。

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本展では、1930年代〜1960年代の工芸品や家具、建築図面などを通して、日本の暮らしをより良くするために編み出されたモダンデザインの発展の歴史を見ることができます。ビジネスパーソンの皆さんは次の3つのポイントを参考に、新たな価値の創出や仕事に対するモチベーションの高め方を、展覧会から学んでみてはいかがでしょうか。

①現代の意味とは異なる「大量生産」
②異なる価値の融合による新たな価値の創出
③モチベーションの鍵となる創造性

第二次世界大戦を挟む年代の建築とデザイン

本展が扱うのは、1930年代〜1960年代と第二次世界大戦を挟んだ時代です。この頃、大衆の生活をより良いものにするため、日用品の大量生産が本格化していきました。

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当時の「大量生産」の概念は現代のそれと異なり、手仕事をベースにした効率の良い物づくりのことを指します。高速に動く機械ですべてが自動で組み立てられる、といった意味ではありません。

モダンデザインの定義は文脈によって異なるのですが、本展においては「大量生産の要求を満たしながらも機能美を追求したデザイン」と読み替えられるでしょう。木や籐、金属を使ったシンプルな椅子やテーブルには、派手な装飾が無く機能性の追求が見られます。

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本展では、海外からもたらされたデザインの考え方と、日本の土着の文化が融合して建築や家具などが生まれていく様子を見ることができました。7名の建築家やデザイナーらを軸に、モダンデザインの歴史が語られます(ブルーノ・タウト、井上房一郎、アントニン&ノエミ・レーモンド夫妻、剣持勇、ジョージ・ナカシマ、イサム・ノグチ)。

建築・デザインにおける異文化交流

本展では5名の外国人と2名の日本人を軸に、建築やデザインにおける異文化交流が語られます。例として、ここではドイツで活躍していた建築家、ブルーノ・タウト(1880年〜1938年)と高崎の実業家である井上房一郎(1898年〜1993年)の関わりを紹介します。

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タウトはドイツの政情不安のため亡命し、1933年に来日しました。1928年に初の国立デザイン指導機関として仙台に設立された商工省工芸指導所の顧問に招かれ、剣持勇(1912年〜1971年)らの指導にあたります。

井上は1925年にパリで開催されたアール・デコ展に刺激を受け、高崎に木工、織物製造組合を組織しました。産業の近代化と生活改善に取り組む井上に迎えられたタウトは、高崎からモダンデザインを発信していきます。

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タウトは生活用品を生産するにあたり、大量生産の基本形となるプロトタイプをつくることを日本人に初めて教えました。一方で、タウトは日本文化に愛を傾けており、日本人に西洋風を押し付けることはしませんでした。竹や漆などの伝統的な素材を使い、「タウト井上」印で品質を保証した商品を販売しました。

日本人に西洋の製品をそのまま押し付けるのではなく、日本の暮らしと西洋の大量生産を踏まえたデザインの考え方が合わさり、モダンデザインが生まれたことが分かるエピソードです。土着の文化と近代化の進んだ西洋という、異なる種類のものを融合して新たな価値を作った点は、現代のビジネスパーソンも直接参考にできるでしょう。

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補足ですが、タウトは桂離宮の美しさに魅せられ、滞在中にあらゆる日本の建築を見て回りました。これを踏まえ、本展の展示空間は日本の伝統的空間をモチーフにデザインされているそうです。会場構成を手がけたのは、2019年度日本建築学会賞(文化)を受賞し、数々の建築展(2018年に森美術館で開催された建築の日本展など)に携わった前田尚武氏です。

大量生産と手仕事の両立

現代の私たちが生きている社会は、大量生産・大量消費と言われます。ブルーノ・タウトの時代とは比べものにならないほど、機械による生産に依存しています。

機械化やマニュアル化が進んだ現代では、仕事に生きがいを見出せない人がいるかもしれません。

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機械化に伴うこのような問題は、19世紀後半には既に認識されていました。例えば、産業革命が起こったイギリスでは、生産が人間の手仕事から機械に移ったことにより、労働環境が大きく変化しています。19世紀後半に「アーツ・アンド・クラフツ」という運動が立ち上がり、行きすぎた機械化への批判が起こりました。

アーツ・アンド・クラフツは当時の機械が生む低品質な製品への批判である、と表層的に捉えられがちです。しかし、製品への批判のみならず、作り手のモチベーションに切り込む運動でもありました。創造性のある仕事によって人間は社会とのつながりを実感できる、といった考え方です。今日の日本でも、同じ課題を抱える現場があるのではないでしょうか。 

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本展では、大量生産を念頭においたシンプルな造形と、建築家やデザイナーによる自由な発想を見ることができます。作品を通して、手仕事と大量生産を両立しようとする精神性を探ることができるでしょう。

分業やマニュアル化が進んだ現代では、「働くモチベーション」が見過ごされやすくなっていると感じます。同じことは19世紀後半のイギリスで既に指摘されていました。本展では職人の自由な発想を学び、自身の業務と照らし合わせながら、職場におけるの創造性の発揮について考えるきっかけとなるのではないでしょうか。

【まとめ】『モダンデザインが結ぶ暮らしの夢展』をビジネスパーソンらしく味わう

展覧会を読み解くヒントとして、新たな価値の創出や仕事に対するモチベーションの高め方についてお伝えしてきました。3つのポイントをまとめておきましょう。

①現代の意味とは異なる「大量生産」
②異なる価値の融合による新たな価値の創出
③モチベーションの鍵となる創造性

本展では、7名もの建築家やデザイナーなどの有機的な関わりを学ぶことができ、1つの大河ドラマを見たような充実感を得ることができました。手仕事を愛する彼らの作品は、現代のマニュアル化された仕事とは対極にあるように感じられます。自らの仕事を省みる好機にもなるのではないでしょうか。

展覧会情報

会期:2020年1月11日(土)~3月22日(日)
開館時間:午前10時より午後6時まで(入館は午後5時30分まで)
 ※2月7日(金)、3月6日(金)は夜間開館 午後8時まで(入館は午後7時30分まで)
休館日:水曜日
会場:パナソニック汐留美術館
美術館HP: https://panasonic.co.jp/ls/museum/

文 美術ブロガー 明菜

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