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『ミナ ペルホネン / 皆川明 つづく』に学ぶ自分らしい価値

展示風景

美術ブロガーの明菜です。ART HOURSでは、「ビジネスパーソンが美術展から何を学べるのか」をテーマに、オフィスから飛び出してアートから学ぶお手伝いをさせていただきます。

さて、今回は東京都現代美術館で2020年2月16日まで開催されている『ミナ ペルホネン / 皆川明 つづく』を紹介します。ミナ ペルホネンは、1967年に東京で生まれた皆川明(みながわ あきら)氏が文化服飾学院卒業後に創立したブランドです。

1995年の創業から20年以上にわたってプロダクトを世に送り出してきた皆川氏の考え方には、現代の企業における課題設定のあり方に通じるものを見出すことができました。ビジネスパーソンの皆さんは次の3つのポイントを参考に、現代において求められている「企業のあり方」を展覧会から学んでみてはいかがでしょうか。

①ミナ ペルホネンのサステナブルなデザイン
②プロダクトが愛され続けるひみつ
③「長く持続する価値」の見つけ方

ミナ ペルホネンとは?

『ミナ ペルホネン』は、皆川氏が1995年に立ち上げたブランドです。形からではなく「生地から服を作り始める」というコンセプトでゼロからファッションのデザインを行っており、近年は食器やインテリアファブリックのデザインにも活動の幅を広げています。

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一般的なファッションブランドは、各年の春夏・秋冬で新作を発表して販売します。そのため各シーズンの終わりにはセールが行われ、ファッションは短期間に消費される傾向にあります。ミナ ペルホネンの特徴で他のファッションブランドと大きく異なる点の一つが、同じモチーフを使った服を何年も作り続けることでしょう。移り変わりの激しいトレンドを作るのではなく、スタンダードとして愛され続ける作品を発表しているのです。

皆川氏は、私たちもよく知っている施設の制服デザインも手掛けています。例えば、東京スカイツリーのチケット販売係や清掃係、金沢21世紀美術館や青森県県立美術館の受付・監視スタッフの制服などです。遊び心がありながら古くならない皆川氏のデザインは、訪れる人々にも親しみやすさを感じさせるでしょう。

生地から服を作り始める

皆川氏のこだわりは「生地からデザインして服を作ること」です。一見、当たり前のように感じられますが、「形」ではなく「生地」のデザインから作っていくのが、ミナ ペルホネンらしさにつながります。デザインは自然界にあるものからの着想や、皆川氏の幼い頃の記憶などから手作業で作成され、素材も自身で考えていきます。

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フォルムのデザイン単独でも服飾デザイナーの仕事として成立します。しかし、より自分らしい服の制作のため、皆川氏は生地のデザインから手掛けているのです。

近年、ビジネスの世界では少しずつ企業のあり方が変化しています。従来は、売上金額や顧客数などKPIを設定し、数値の目標を達成するために戦略を立てPDCAを回していくオペレーション業務が主流でした。しかし、テクノロジーが発展した将来において、生産性向上と数値達成だけでは必ずしも十分ではなく、新しい発想や独創性が価値を持つようになります。

昨今、問題解決のプロセスをとるデザイン思考の次に、問題提起をするアート思考が注目を浴びているのもそのためです。創造性を起点とした自分らしさが不可欠になりつつあるのです。

報道内覧会に登壇した皆川明氏

皆川氏は1995年のブランド設立当初から「生地からデザインすること」を徹底し、ミナ ペルホネンらしい価値を提供してきました。彼のデザインが長く愛される理由の一つは、ブランドが揺るがぬ「自分らしさ」を持っているからではないでしょうか。私たちビジネスパーソンも、彼の仕事から学ぶことが大いにあると思います。

本展では多くのファブリックが展示されていますが、同じモチーフでも素材が異なる作品や、時代を問わず身に着けられそうなシンプルな衣服の形を見出すことができます。展覧会では皆川氏の理念やコンセプトを体現したプロダクトを通じて、「自分らしい価値」を考えるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。

息の長いモチーフの秘訣

本展の見どころの一つが、「実」の展示です。フリーハンドで描かれた円に、25個の不揃いなドットが並ぶモチーフ『タンバリン』を使用した、さまざまなプロダクトが展示されています。服だけでなく、バッグ、椅子、ぬいぐるみ、食器など、いずれも温かみのある色合いと『タンバリン』モチーフが共鳴する作品で、居心地の良い展示空間となっています。

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『タンバリン』は、2000年秋冬コレクション以来、何度も登場するモチーフです。他にもミナ ペルホネンのデザインには色や形を変えて登場するものが多く、息の長いモチーフもブランドの特徴の一つとなっています。ミナ ペルホネンが目指すのは、一時的な流行ではなく「長年着用できる普遍的な価値を持つ特別な日常服」なのです。

半年ごとに新作を作ってはショーで発表して販売し、シーズンが終わればセールとなる従来の「消費」されるファッション業界において、皆川氏は揺るがずに「長く持続する価値」を見出しました。これは、皆川氏が「大事なことは意外と決まりごとに埋まってしまっているのではないか」と、ファッション業界の当たり前に疑問を持つことができたからではないでしょうか。

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同じことは私たちビジネスパーソンにも言えます。私たちは知らず知らずのうちに、自分の所属している組織やコミュニティでの当たり前や固定概念に則った行動をしてしまうことがあります。私たちが新たな価値を創出するためにも、皆川氏のように「当たり前」と思われていることに対して、違和感を持ち、疑問を投げかけることが必要なのではないでしょうか。

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本展の最後には、ミナ ペルホネンの歴史を記した年表が展示されています。皆川氏は「最低でも100年続いてほしい」と語っており、年表には2095年の項目が存在します。皆川氏による2095年のコメントを、ぜひ会場で噛みしめてみてはいかがでしょうか。

【まとめ】『ミナ ペルホネン / 皆川明 つづく』をビジネスパーソンらしく味わう

展覧会を読み解くヒントとして、ミナ ペルホネンや皆川明氏のアイディアについてお伝えしてきました。3つのポイントをまとめておきましょう。

①ミナ ペルホネンのサステナブルなデザイン
②プロダクトが愛され続けるひみつ
③「長く持続する価値」の見つけ方

皆川氏がブランド名を自身の名前としなかったのも、自分の人生よりもブランドが長く存続することが大切だと考えたからです。「ミナ」はフィンランド語で「私」という一人称で、誰がデザイナーになっても使うことができ、また服を着る人にとっても「私の服」との意味を成すため、ブランド名に採用したのだそうです。

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展覧会では、長く愛されるプロダクトの背景にある哲学を学ぶことができました。現代の多くの企業が見つけられずに苦労している「自分らしい価値」や「長く持続する価値」を軽やかに体現する皆川氏とミナ ペルホネンに、ビジネスパーソンも良い刺激を受けられるのでは、と思います。

展覧会情報

『ミナ ペルホネン / 皆川明 つづく』
展覧会会期:2019年11月16日(土)—2020年2月16日(日)
会場: 東京都現代美術館企画展示室3F
休館日:月曜日(2020年1月13日は開館)、2019年12月28日—2020年1月1日、1月14日
開館時間: 10:00—18:00 ※展示室入場は閉館の30分前まで
展覧会公式HP: https://mina-tsuzuku.jp/

文 美術ブロガー 明菜

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