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ルーブルアブダビ 砂漠の美術館が世界の富裕層を魅了する理由

2019.05.21

史上最高値の絵画『サルバトール・ムンディ』

アートオークションではときに、オフィスに飾ることなど到底考えられないような数百億円のアート作品が落札されることがあります。2017年11月、アートオークションで過去最高値の落札額を記録した『サルバトール・ムンディ』をご存知でしょうか。


Ⓒ Leonardo da Vinci

“サルバトール・ムンディ”とは「世界の救世主」という意味で、イエスキリストを描いたレオナルドダヴィンチの作品です。

落札額はなんと508億円!しかもこれほど高額なのに、代理人による落札のため、しばらくの間、本当の落札者が誰なのかは謎につつまれていました。

やがて、サウジアラビアのバデル王子が仲介して、アブダビ文化観光局に所有されていることが明らかにされました。

西暦1500年前後にダヴィンチによって描かれたイエスキリストは、500年以上経て、イスラム教の国、アラブ首長国連邦のアブダビに所有されることになったのです。

アブダビ文化観光庁は『サルバトール・ムンディ』を“砂漠のルーブル”という愛称がつけられたルーブルアブダビで展示する予定としています。

巨額が動く砂漠の美術館ルーブルアブダビとは

ルーブル美術館といえばアートに詳しくないビジネスパーソンも名前は聞いたことがあるような世界に名だたる美術館だと思います。

しかし、ルーブルの名を冠した美術館がフランスの他に、唯一、中東にもあることはあまり知られていません。

話は10年以上前にさかのぼります。2007年フランス政府とアラブ首長国連邦は協力して「世界の文化をつなぐ最終目的地(World-class destination bridging global cultures)」をテーマとした文化施設を2012年に設立することを発表します。

ルーブルアブダビに関するフランスとアブダビの合意事項はこちらに記載があります。

何よりも驚くのが金額で、30年間にわたって「ルーブル」の名前を使う権利に約530億円、ルーブルからアートのレンタルやアドバイスを受けることに対してさらに約750億円を支払うことを約束しています。

当初2012年とされていたオープンの日は幾度かにわたって延期され、2017年11月、当時のフランス大統領マクロン氏も訪問し、華々しくオープンしました。

アラブ最大の美術館

ルーブルアブダビはアブダビ国際空港から車で40分ほど、ドバイ中心部からは車で1時間半ほどのサディヤット島にあります。

フェラーリワールドで有名なヤス島に隣接し、世界最大のモスクであるシェイク・ザーイド・モスクからも車で30分ほどの距離にあります。

プリツカー賞を受賞したフランスの建築家ジャン・ヌーヴェルによる設計で、灼熱の日光を遮るヤシの木の木漏れ日から着想を得たというドーム型の建築がアラビアに異空間をもたらせています。


常設展と企画展の部屋は分かれており、2017年のオープン時点で、人類の歴史に重要な痕跡を残す620点もの作品をコレクションし、ルーブル美術館の著名な235点の作品を借り入れています。

異なる文化を同時代性で並列展示

常設展は以下の12のホールに分かれています。通路を辿ることで順番にホールにたどり着く仕組みになっています。

・The First Villages
・The First Great Powers
・Civilizations and Empires
・Universal Religions
・Asian Trade Routes
・From the Mediterranean to the Atlantic
・The World in Perspective
・The Magnificence of the Court
・A New Art of Living
・A Modern World
・Challenging Modernity
・A Global Stage

多くの美術館で見られるような地域ごとに区切った展示ではなく、歴史や時代の流れとともに各地域の文化がどのように変遷してきたかを楽しめるようになっています。

ひとつの美術館の中で、時代、地域を超えて幅広く作品を観られるだけでも貴重ですが、各ホールを巡るなかで、驚くような世界の名作にふと出会うというのもルーブルの名を冠した美術館ならではだと思います。

レオナルドダヴィンチの『ミラノの貴婦人の肖像』やナポレオンを描いた『ベルナール峠からアルプスを越えるボナパルト』など日本で展示されれば大行列ができる作品も、ゆったりと楽しむことができます。

中東にある美術館ということで、古代エジプトやアラビア語のカリグラフィーが充実しているのも特徴です。日本の書道とはまた違った縦横無尽に延びるアラビア語の美しさを感じます。

一方で、様々な時代のホールで、縄文土器から狩野派の屏風絵、江戸時代の美人画まで日本の作品が登場します。

ルーブルアブダビではオープンした初年度から「Japanese Connections: The Birth of Modern Décor」をテーマに企画展を開催しており日本文化への高い関心を示しています。

近現代アートも充実しており、モネ、ゴッホやピカソはもちろん、バスキアや日本からは白髪一雄まで一度に原作を観られるのもかなり贅沢な空間だと思われます。

最後のホールはアイウェイウェイの『Fountain of Light』。薄暗い美術館をたどってきた中、最後に登場する眩いばかりの光の噴水は圧巻です。

館内では、学芸員が中東を訪れたビジネスパーソン向けに各ホールのアートを解説していました。

縄文土器の前でビジネスパーソン向けに解説

拡大する中東のアートゾーン~富裕層の最終目的地へ

アブダビ文化観光庁はルーブルアブダビの隣で、グッゲンハイム美術館の建設に着手しており、美術館やゴルフ場をさらに追加することで、サディヤット島を「富裕層の最終目的地」にする方針を発表しています。

アラブ首長国連邦はイギリスが現地から撤退した1971年に創設されてまだ50年も経っていません。

オイルマネーで潤う国としての印象が強いですが、アラブの国々が石油という限られた資源に依存することのリスクを感じて、次世代技術に投資するファンドにも資金を注いでいることはよく知られています。

一方でビジネスパーソンにはあまり認知されていませんが、ルーブルアブダビの事例のように、世界の著名な美術館の名前を使うことやアート作品の購入、レンタルに巨額を投じています。

石油大国が持続可能な国家の成長戦略としての投資は、次世代技術だけではなく、人類の英知を集めたアート作品にも向けられていることは注目に値すると思います。

なお、2019年のNational Postによれば過去最高額で落札された『サルバトール・ムンディ』は2018年12月にルーブルアブダビへ展示される予定でしたが、説明なく延期され、その行方は誰にも分らなくなっているという記事もあります。

2019年4月にはAFPから「ダビンチ作? 今どこに? 謎呼ぶ500億円の絵画「サルバトール・ムンディ」」という日本語に翻訳された記事も投稿されています。

ミステリアスなアラビアの国は、今後、ビジネスパーソンだけでなく、世界中のアートラバーを魅了し続けることになるかもしれません。

文・写真 J.N by ArtScouter

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