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『レオナルド・ダ・ヴィンチ没後500年記念「夢の実現」展』に学ぶマルチな探求心

バーチャル復元された《岩窟の聖母》、左:第二ヴァージョン、ロンドン版、右:第一ヴァージョン、パリ版

美術ブロガーの明菜です。ART HOURSでは、「ビジネスパーソンが美術展から何を学べるのか」をテーマに、オフィスから飛び出してアートから学ぶお手伝いをさせていただきます。

さて、今回は『レオナルド・ダ・ヴィンチ没後500年記念「夢の実現」展』をご紹介します。代官山ヒルサイドフォーラムで2020年1月26日まで開催されています。レオナルドといえばルネサンスを代表する芸術家で、アートとデザインの両分野で活躍した人物として、現代でも頻繁に参照されます。観察眼が鋭く、芸術のみならず科学の分野でも膨大なメモやスケッチを残しています。

《集中式聖堂》模型

本展では東京造形大学が研究や教育を通じて行ってきた、一部分が失われた絵画のバーチャル復元や、構想段階で終わった機械や建築の模型による再現などを見ることができます。ビジネスパーソンの皆さんは次の3つのポイントを参考に、複数の分野を探求する大切さを展覧会から学んでみてはいかがでしょうか。

①なぜ夢の実現なのか
②レオナルド作品の復元や実現
③現代の「万能」とは何か

なぜ「夢の実現」なのか?

レオナルド・ダ・ヴィンチは「万能の天才」と称されるほどの人物で、芸術のみならず科学のあらゆる分野の研究を行いました。芸術分野では《モナ・リザ》や《最後の晩餐》を知らない人はいないでしょう。科学分野なら、鳥の翼をヒントにした飛行機の構想が特に有名です。

展示風景

残念ながら、レオナルドの存命中にすべての構想が実現したわけではありません。また、一部の絵画は欠損した状態となっています。本展はレオナルドの存命中に実現されなかった構想の一部を実現させることを目指しており、欠損した絵画のバーチャル復元や、当時の技術では実現できなかった機械の模型などを見ることができます。

東京造形大学による作品の復元や実現

レオナルドが67年の生涯で残した作品は少なく、現存する絵画は16点ほどしかありません。本展では、2019年に東京造形大学がバーチャル復元した16作品を、原寸大で鑑賞することができます。

バーチャル復元された《最後の晩餐》

横880センチメートルの《最後の晩餐》も原寸大で、プロジェクターで投影された画像を見られます。聖人たちの鮮やかな衣服だけでなく、壁の模様まで復元されていました。同時代の画家による模写や科学的根拠などから、色彩や模様が復元されたそうです。

《モナ・リザ》は主に、変色とヒビが取り除かれています。現在の《モナ・リザ》は全体的に黄色がかっていますが、復元された方は風景が鮮やかです。

バーチャル復元された《ラ・ジョコンダ(モナ・リザ)》

ヒビについては、完全には取り除かれていません。《モナ・リザ》には特に時間をかけたため、レオナルドが描いている間にヒビが入り始めた、と考えているからなのだそうです。つまり本展で見られるのは、完成当初の《モナ・リザ》の復元です。美術が好きな人にとっては堪らない展示ではないでしょうか。

さらに、完成に至らなかったブロンズ製の騎馬像も見応えがあります。4本脚の馬を彫刻にする場合、最低でも3脚が接地していないと、安定して立っていることができません。しかし、レオナルドは後ろ脚のみ接地し、前脚を上げたポーズにこだわりました。

レオナルド・ダ・ヴィンチによる初期構想スケッチに基づく《スフォルツァ騎馬像》

本展で見られる再現された騎馬像は3脚設置に見えますが、前脚にはほとんど体重がかかっていません。レオナルドのスケッチに基づき、実現しうる最大の大きさで再現されているのです。前脚の付け根で折れてしまいそうなほど、絶妙なバランスを鑑賞することができました。

本展では他にも、機械や建築の模型やコンピュータグラフィックスによる紹介映像を見ることができます。レオナルドの残したアイディアが実現したように感じられ、ロマンのある展覧会となっています。

二頭立て戦車の模型

現代に「万能の天才」は出現しうるか?

本展は、レオナルドの絵画や彫刻、機械、建築における功績に光を当てています。実際には、レオナルドは他にも数学や天文学、音楽など、多様な方面に関心を持って研究を行っていました。彼が残した膨大なメモやスケッチがその証です。

レオナルドの万能性を知り、筆者は「現代にも万能の天才は現れうるのか?」と疑問に思ってしまいました。近代化が進んだ21世紀は16世紀のルネサンス期と異なり、個人が万能性を発揮するのが困難な時代となっています。

《大墳墓計画》の模型

しかし筆者としては、レオナルドのように複数の分野で専門性を深めることが、不確実な現代を生き抜く戦略になりうることを強調したいです。一般的にも言われるように、「そこそこできる分野」を増やして掛け合わせることで、他の人と差別化してレアな人材になれるからです。

レオナルドが複数分野で功績を残せたのも、ただ「才能があったから」と割り切るのは短絡的ではないでしょうか。彼も時代の変化に対応する中で、複数分野の知見を深めていったのです。平和な時代には芸術家として活躍したものの、戦争が始まれば軍事技師としてミラノ宮廷に雇われました。軍事技師の経験は無かったものの、何事にも関心を持ってゼロから研究やスケッチを重ねて機械や兵器を考案したのです。

このように、気づきや疑問をメモやスケッチなど形として残し、何度も実験を繰り返す彼の経験主義的なアプローチは、プロトタイプをつくりなアイディアをブラッシュアップするデザイン思考にも通じます。

投石器の模型

確かに、現代で「万能の天才」としてレオナルド並みに活躍するのは難しいです。しかしアーティストが時代の変化を敏感に捉え、探究心を活かしてあらゆる分野に関心を広げていく点は、ビジネスパーソンの生存戦略としても有効です。「そこそこできる分野」を増やして差別化する戦略も、レオナルドから学ぶことができるでしょう。

【まとめ】『レオナルド・ダ・ヴィンチ没後500年記念「夢の実現」展』をビジネスパーソンらしく味わう

展覧会を読み解くヒントとして、複数の分野を探求する大切さについてお伝えしてきました。3つのポイントをまとめておきましょう。

①なぜ夢の実現なのか
②レオナルド作品の復元や実現
③現代の「万能」とは何か

本展では、レオナルド・ダ・ヴィンチの幅広い成果を学ぶことができます。複数の分野で自ら研究をして知見を深めた背景には、時代の変化もありました。平和な時代だけでなく、戦国時代も生き抜いたレオナルドの生存戦略には、現代のビジネスパーソンも共感するところがあるのではないでしょうか。

展覧会情報

『レオナルド・ダ・ヴィンチ没後500年記念「夢の実現」展』
会期:2020年1月5日(日)〜2020年1月26日(日)
会場:代官山ヒルサイドフォーラム(代官山ヒルサイドテラスF棟内)
開館時間:11:00〜20:30(入館は20:00まで)
展覧会HP: http://leonardo500.jp/

文 美術ブロガー 明菜

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