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『ルネ・ラリック アール・デコのガラス モダン・エレガンスの美』に学ぶ専門性による価値創造

展示風景

美術ブロガーの明菜です。ART HOURSでは、「ビジネスパーソンが美術展から何を学べるのか」をテーマに、オフィスから飛び出してアートから学ぶお手伝いをさせていただきます。

さて、今回は『北澤美術館所蔵 ルネ・ラリック アール・デコのガラス モダン・エレガンスの美』をご紹介します。本展は東京都庭園美術館で2020年4月7日まで開催されています。

展示風景

ルネ・ラリック(1860〜1945年)は、アール・デコの時代に活躍したガラス作家です。ガラス加工の高い技術を持ち、生涯を通じて花瓶や食器などのデザインを4300種ほど考案しました。

ビジネスパーソンの皆さんは次の3つのポイントを参考に、価値を生み出せる専門性を展覧会から学べるのではないでしょうか。

①アール・デコとは
②ガラスの可能性を広げたラリック
③作品と美術館の内装との共鳴

アール・デコとは?

アール・デコは、20世紀前半にヨーロッパで流行した装飾の様式です。フランス語で「装飾芸術」という意味ですが、直線的でシンプルなデザイン、幾何学的なモチーフが特徴です。名称は、1925年にパリで開催された「現代装飾芸術・産業美術国際博覧会」の略称である「アール・デコ博覧会」に由来します。

一方、よく似たキーワードに「アール・ヌーヴォー」があります。これは19世紀末から20世紀初頭にかけて流行した美術運動で、フランス語で「新しい芸術」という意味です。花や植物、昆虫など自然のモチーフが特徴で、有機的な曲線美を装飾に用いました。ガラスの分野では、エミール・ガレやドーム兄弟がアール・ヌーヴォーの作家としてよく取り上げられます。

アール・ヌーヴォーもアール・デコも「生活の中に芸術をもたらす」ことを理想とした様式でした。職人の技巧に頼ったアール・ヌーヴォーは時代にそぐわなくなりますが、その後、量産に向いたシンプルで都会的なデザインのアール・デコが隆盛しました。

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本展で特集されるラリックは、アール・デコの時代を切り開いた作家です。とはいえ、アール・ヌーヴォーの時代にもジュエリーデザインで活躍しています。両方の時代を跨ぎ、常にニーズを捉えデザインに反映させてきました。アール・デコのみならず、アール・ヌーヴォーの面影が見られるところも、彼の作品の魅力の1つです。

香水瓶のデザインによる成功

ラリックの功績の1つに、ガラスの用途をあらゆる分野に広げたことが挙げられます。本展でも花瓶や食器だけでなく、香水瓶や照明器具、自動車につけるカーマスコットなど、多様な作品を見ることができました。

ガラスで最初に成功を掴んだのは、香水瓶の制作でした。始まりは、香水商フランソワ・コティから声をかけられたことがきっかけです。

香水テスターケース《コティの香水》コティ社 ルネ・ラリック製金属プレート付 1911年 北澤美術館

産業革命後、中産階級でも贅沢品を持てるようになり、百貨店の棚にも香水が並ぶようになりました。香水を売るためには、目には見えない香りをどうにかして伝える必要が出てきたのです。

そこでコティが白羽の矢を立てたのがラリックです。ラリックは1900年パリ万国博覧会のジュエリー部門でグランプリを受賞しており、その才能に目をつけたのです。また、ラリックもジュエリーからガラス制作に軸足を移そうとしていた頃で、コティとのコラボレーションはその後押しとなりました。

左:ラリック製ガラス・プレート付香水瓶《レフルール》コティ社(瓶はバカラ社製)1908年、右:香水瓶《レフルール》コティ社 1912年 いずれも北澤美術館

コティとの最初のコラボレーション時には製造設備が無かったため、ラリックはバカラ社の瓶につけるガラスのプレートを提供しました。

しかし、小さなガラス瓶に細かな装飾を施すのは、当時の技術では難しいことでした。その上、販売価格に影響しないよう、コストを抑える必要もあります。ラリックはデザイン性の高い香水瓶を、低コストで量産しなければならなかったのです。

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ラリック以前の作家の場合、ガラスが冷えて固まってから絵を付けるような技法が使われていました。ラリックはより効率の良い方法として、金属の鋳型の内側に模様を彫っておく量産方法を考えました。型の中にガラスを吹き込んだり流し込んだりすることで、瓶の成形と同時に装飾も完成します。

金属の鋳型に細密な加工を施すときには、ガラス制作を始める前のジュエリー制作経験が役立ちました。その成功によって、多くの女性の美意識をくすぐる作品を作ることとなります。

ラリックには、香りを見た目で表現するデザインの力と、上記のような技術の両方があったため、香水瓶のジャンルで成功することができました。持っている能力のすべてを出し切ったから掴めた成功と言い換えられるかもしれません。

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ビジネスパーソンの皆さんにも、似たような経験はないでしょうか。2つの専門領域を持っていれば、重なった部分で新たな価値を生み出すことができます。さらに3つ、4つと複数の分野に秀でていれば、他の人には真似できないアイディアが生まれるでしょう。

ラリックがガラスの可能性を広げられたのも、複数の分野で突出した能力を持っていたからと考えられます。ビジネスパーソンの成功事例とも見ることができるのではないでしょうか。

アール・デコ様式を伝える美術館の内装

展示風景

東京都庭園美術館本館の内装には、アール・デコ様式が取り入れられています。フランス人芸術家アンリ・ラパンが主要な部屋の内装設計に携わり、ラリックもレリーフや照明器具のデザインを行いました。

本館 正面玄関 ガラスレリーフ扉(部分)1933年(制作者:ルネ・ラリック)

これには、本館がもともと朝香宮家の自邸として建設された背景があります。朝香宮鳩彦王と允子内親王は20世紀フランスのアール・デコ様式に魅せられ、自邸の建設にあたって同様式を取り入れることとなりました。

デザイン画《朝香宮邸玄関扉》1931年 北澤美術館

本展では、本館の玄関を飾るラリックのレリーフのデザイン画が展示されています。裸婦像について「人物を薄布で覆うこと」と指示が書かれており、宮廷の玄関にふさわしくなるよう、要望を出したことが分かります。朝香宮ご夫婦とラリックとのやり取りが分かる貴重な資料となっています。

展示空間の内装と作品が見事に響き合っており、アール・デコ様式が流行していた20世紀のフランスにタイムスリップしたかのように感じられました。二度と実現するかはわからない貴重な機会なので、ぜひ足を運んでいただければと思います。

【まとめ】『北澤美術館所蔵 ルネ・ラリック アール・デコのガラス モダン・エレガンスの美』をビジネスパーソンらしく味わう

展覧会を読み解くヒントとして、価値を生み出せる専門性についてお伝えしてきました。3つのポイントをまとめておきましょう。

①アール・デコとは
②ガラスの可能性を広げたラリック
③作品と美術館の内装との共鳴

記事を通してラリックがガラスを用いて新たな分野に進出したことを紹介しましたが、これには当時の最新技術が欠かせませんでした。紙幅の都合で詳細な技術については割愛しますが、展覧会で実物と技術の解説をご覧いただき、ラリックが成し遂げた偉業を想像していただければ幸いです。

展覧会情報

『北澤美術館所蔵 ルネ・ラリック アール・デコのガラス モダン・エレガンスの美』
会期:2020年2月1日(土)– 4月7日(火)
会場:東京都庭園美術館
休館日:第2・第4水曜日(2/12、2/26、3/11、3/25)
開館時間:10:00–18:00(入館は17:30まで)
ただし、3/27、3/28、4/3、4/4は、夜間開館のため20:00まで(入館は19:30まで)
公式HP: https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/200201-0407_lalique.html

文 美術ブロガー 明菜

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