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『画家が見たこども展』に学ぶビジネスチャンスを生む潜在ニーズの見つけ方

美術ブロガーの明菜です。ART HOURSでは、「ビジネスパーソンが美術展から何を学べるのか」をテーマに、オフィスから飛び出してアートから学ぶお手伝いをさせていただきます。

さて、今回は『画家が見たこども展』をご紹介します。本展は三菱一号館美術館にて2020年6月7日まで開催されています(臨時休館あり。詳細は展覧会HPを参照)。絵画に描かれた子どもを鑑賞することで、西洋における子どもの概念の変化を理解することができました。

展示風景

ビジネスパーソンの皆さんは次の3つのポイントを参考に、ビジネスチャンスを生む潜在的なニーズを見つける視点を展覧会から学べるのではないでしょうか。

①「ナビ派」とは何か
②子どもの「発見」による価値転換
③多様化するニーズの掘り起こし方

ナビ派とは?

ナビ派は19世紀末にパリで活動した芸術家グループです。後期印象派のゴーガンや日本の浮世絵に影響を受けており、色彩や構図に共通点を見出すことができます。

展示風景

主要なメンバーとしては、ピエール・ボナール、モーリス・ドニ、エドゥアール・ヴュイヤール、フェリックス・ヴァロットンらが挙げられます。特にボナールは「日本かぶれのナビ」と呼ばれるほど浮世絵に影響を受けており、縦長のキャンバスを用いた作品や、平面性を強調する衣服の柄の描き方が特徴的です。

ナビ派の画家たちは、パリの景観やそこに暮らす人々に着想を得て多くの作品を制作しました。家族や街角の日常的な風景などの身近なテーマを扱っています。

展示風景

本展では、ナビ派を中心にゴッホなど彼らに影響を与えた画家の作品も展示されています。「子ども」という共通項で絵画を鑑賞できるのですが、なぜ子どもにスポットライトを当てるのか、次の章で見ていきましょう。

なぜ「子ども」に焦点を当てるのか?

本展では、18世紀から19世紀のヨーロッパの子どもが描かれた絵画が展示されています。この時代は人間の成長に対する考え方の転換期でした。それにより、絵画の主題が変化した時代でもありました。

実は、18世紀前半頃まで、子どもは小さな大人であり、未熟な人間と見なされていました。裕福な家庭では早期に厳しい英才教育が行われ、一般家庭では7歳くらいになると職人に弟子入りするなどして、生活を成り立たせる一員として仕事をしていたのです。「子どもらしさ」の概念は無く、絵画でも子どもは大人びた描かれ方をしています。赤ん坊でさえ、背筋が真っ直ぐで凛とした表情で描かれてきました。

展示風景

しかし、18世紀後半頃から認識が変わり、現代に通ずる「子ども」観へとガラリと転換しました。一体何があったのでしょうか。

大きな影響を与えたのが、フランスの思想家ジャン=ジャック・ルソーが1762年に刊行した『エミール』です。ルソーは書物の中で、「人生には子ども時代があり、大人の世界とは異なる世界がある」と説きました。この小説風教育論がきっかけで、子どもに対する見方が変わってきたのです。現代において主流な「子どもは子どもらしく生活するべき」との考え方が生まれました。

絵画でも子どもは子どもらしく描かれるようになっていきます。19世紀末にパリで活躍したナビ派は家族や街の景観など身近なテーマを好んで描いたため、子どもを主役にした作品も多く残しています。可愛らしさはもちろんのこと、いたずら好きで少し憎らしいところや、大人には分からない子どもの社会を感じさせる行動も描き出されています。

展示風景

本展では、西洋で子どもらしさが発見され、人間の成長に対する考え方が変わったことを学べます。同時に、絵画における子どもの表現も変わってきたことを理解できるでしょう。子どもが「子どもらしく」表現されるようになった変革も頭に入れて鑑賞していただければと思います。

埋もれているニーズを掘り起こす

子ども向けの製品が登場したのも、18世紀後半頃からのことです。例えば衣服で、それまでは大人の衣服をそのまま縮小したような服を子どもにも着せていました。しかし、この頃からは、動きやすい半ズボンなど、子どものために作られた「子ども服」が登場するようになります。

ナビ派の画家たちも子ども向けの作品を残しており、本展でも鑑賞することができます。モーリス・ドニによる子ども向けの塗り絵や、ピエール・ボナールによる子供向けの音楽楽譜の挿絵などを鑑賞できます。

展示風景

興味深かったのが、ボナールによるアルファベットをモチーフとしたイラストです。子どもがアルファベットを覚えられるよう、A、B、C、…とそれぞれのアルファベットから始まる単語をイラスト化したものです。

通常は具体的な物がモチーフになったのですが、ボナールは感情を表す単語を採用しました。Aはamitie(友愛)、Bはbouderie(不機嫌)などです。感情をテーマにするアイディアはボナールのオリジナルとされています。

絵の中の子どもの行動や表情によって感情が豊かに表現されているため、イラストから物語を考える想像力も養えるのではないでしょうか。残念ながら、すべてのアルファベットに対応する感情の単語が見つからなかったようで、完成には至りませんでしたが、アルファベットと人の感情を同時に学べる知育作品として興味深かったです。

展示風景

このように、子どもに対する認識が変わり始めると、画家たちも子どもに関心を持ち、子ども向けの作品に着手していきました。ビジネスチャンスを求めたわけではなかったと思われますが、結果的に身近なところでニーズを発見できたと解釈できます。

まだ誰も気づいていないニーズを掘り起こすことは、現代のビジネスにおいても重要な課題です。当時の「子どもの概念」と同じように、細かなターゲットを設定し彼らの行動や思考に常日頃から注目していると、価値転換を起こすイノベーションや、まだ誰も介入していないブルーオーシャンを見つけるヒントを得られるかもしれません。

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ブルーオーシャンを見つけるには、日常生活でどれだけ多くの気づきを得られるかが重要です。例えば、24時間営業の店舗が少ないことや、男女で1ヶ月の美容代が異なることなど、日常生活で見落としている違いや気付き、当たり前に受け入れている現状にもアイディアのヒントは隠されているでしょう。「子ども」の発見も身近にある存在にフォーカスを当て、固定観念を取り払ったところから生まれたものでした。

思い浮かんだアイディアのすべてを実現できなくても構いません。まずは日常生活で多くの気づきを得て、たくさんのアイディアを考えることが、新たなニーズの発見につながります。そうして見つけたブルーオーシャンは他社が参入しにくい場所かもしれず、優位にビジネスを展開できるチャンスにもなり得ます。

【まとめ】『画家が見たこども展』をビジネスパーソンらしく味わう

展覧会を読み解くヒントとして、ビジネスチャンスを生む潜在的なニーズを見つける視点ついてお伝えしてきました。3つのポイントをまとめておきましょう。

①「ナビ派」とは何か
②子どもの「発見」による価値転換
③多様化するニーズの掘り起こし方

西洋で子どもの概念が変わったことで、絵画にも子どもが子どもらしく描かれるようになり、それはナビ派の作品にも現れているとおりです。本展で学べる価値観の変化は、まだ時代が気づいていないニーズを掘り起こすヒントにしていただけるのではないかと思います。

展覧会情報

『開館10周年記念 画家が見たこども展 ゴッホ、ボナール、ヴュイヤール、ドニ、ヴァロットン』
会期:2020年2月15日(土)~ 6月7日(日)
※当面の間、臨時休館(最新の開館情報は展覧会HPを参照)
会場:三菱一号館美術館
開館時間:10:00〜18:00 ※入館は閉館の30分前まで(祝日を除く金曜、第2水曜、会期最終週平日は21:00まで)
休館日: 月曜休館(但し、祝日・振替休日の場合、会期最終週6月1日と、トークフリーデーの4月27日、5月25日は開館)
展覧会HP: https://mimt.jp/kodomo/

文 美術ブロガー 明菜

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