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『北斎 視覚のマジック 小布施・北斎館名品展』に学ぶ北斎が世界に与えた影響

展示風景

美術ブロガーの明菜です。ART HOURSでは、「ビジネスパーソンが美術展から何を学べるのか」をテーマに、オフィスから飛び出してアートから学ぶお手伝いをさせていただきます。

さて、今回は『北斎没後170年記念 北斎 視覚のマジック 小布施・北斎館名品展』をご紹介します。すみだ北斎美術館で2020年1月19日まで開催されている展覧会です。

葛飾北斎(1760-1849)は、日本を代表する絵師であるのみならず、世界的にも有名な人物です。北斎にゆかりのある信州の小布施町にある「北斎館」から、北斎による名品が本展に多数展示されています。

葛飾北斎《肉筆画帖》

本展では貴重な肉筆画などを通して、北斎の個性的な表現方法を存分に味わうことができます。ビジネスパーソンの皆さんは、次の3つのポイントをヒントに、世界で通用する「HOKUSAI」についての理解を深めてみてはいかがでしょうか。

①小布施と北斎の関係
②80歳を過ぎてもなおエネルギーに溢れる肉筆画
③世界に影響を与えた日本人

小布施と北斎の関わり

江戸で活躍した浮世絵師のイメージが強い、葛飾北斎。実は、現在の長野県の北東に位置する町、小布施(おぶせ)に深いゆかりがありました。

葛飾北斎《日新除魔 十一月五日》

83歳となる1842年に初めて信州小布施を訪れ、1844〜1848年まで小布施に滞在しています。小布施を訪れたきっかけは諸説ありますが、北斎は地元の豪農・豪商の高井鴻山(1806〜1883年)の庇護を受け、アトリエでの制作を行なっていました。

鴻山の支援のもと、北斎は多くの肉筆画の傑作を生み出しました。北斎といえば「富嶽三十六景」などの浮世絵ですが、肉筆画は浮世絵とはまた異なる味わいです。浮世絵は絵師の他に彫師や摺師が絵の制作に関わりますが、肉筆画は北斎が筆を動かしたそのままが伝わってきます。

葛飾北斎《富士越龍》

晩年の北斎が肉筆画をさらに極めた場所が、小布施町です。「北斎館」は1976年11月に開館し、これまでの40年近くの間、収益の全てを北斎の作品購入に充ててきました。たゆまぬ努力の結果、北斎館が収蔵する北斎の作品は、肉筆画が約80点、版画が約130点、摺物が約80点、版本が約250件ほどに上ります。

本展では、その中から名品中の名品が展示され、日本美術の愛好家にとって堪らない空間となっています。北斎の絶筆ともいわれる「富士越龍」も、本展覧会の前期に展示されます。

目線の高さで見られる祭屋台の天井絵

小布施で制作された北斎の傑作といえば、祭屋台の天井絵でしょう。北斎館では東町祭屋台と上町祭屋台が展示されており、それぞれに2面ずつの天井絵が飾られています。

左:葛飾北斎《上町祭屋台天井絵「男浪」》、右:葛飾北斎《東町祭屋台天井絵「鳳凰」》

本展では、その中から「鳳凰」と「男浪」が展示されています。祭屋台の天井絵を目線の高さで見ることができるので、80歳を超えているとは思えない北斎のエネルギーに圧倒されることでしょう。

葛飾北斎《上町祭屋台天井絵「男浪」》

大迫力の「男浪」の描写から、北斎の自然を観察する力が並大抵では無かったことを、うかがい知ることができるでしょう。最近ではハイスピードカメラで波を撮影した写真と、北斎が描いた波の絵が比較されることがあり、両者が似ているように見えるといった話もあります。

ちなみに「男浪」の縁を飾る縁絵は、北斎の下絵を基に鴻山が彩色しており、二人の親しさを読み取ることもできます。実際、鴻山は北斎を「先生」と、北斎は鴻山を「旦那様」と呼び、親しくしていたそうです。

絵画にかけられた視覚のマジック

本展のタイトルに「視覚のマジック」というキーワードが使われているとおり、北斎の絵には単なる写実ではない計算があります。例えば肉筆画の《二美人》では、立っている女性の首や背中が不自然なほど大きく曲がっています。

葛飾北斎《二美人》

ところが、絵を全体的に見ると特に違和感は感じられません。座っている女性や余白とうまく調和しており、完成した絵画空間ができています。

「諸国名橋竒覧」では、日本全国の橋や伝説上の橋をモチーフとし、11枚の浮世絵が制作されました。橋の強調や人物の縮尺などは明らかに現実とは異なり、絵としての締まりや面白さを優先させているように感じられます。本展ではこのような「視覚のマジック」を、北斎の絵の随所に見出すことができました。

諸國名橋竒覧 かめゐど天神たいこばし

ところで、北斎は世界でも高く評価されている人物です。その評価の高さといえば、1998年にアメリカのフォトジャーナル誌『LIFE』が発表した「この1000年で最も重要な功績を残した世界の人物100人」の中で、日本人で唯一、北斎だけが選ばれたほどです。

北斎が世界で高く評価されている理由として、西洋美術に大きな影響を与えたことが挙げられます。北斎の絵は、印象派の画家、エドガー・ドガやフィンセント・ファン・ゴッホにも影響を与えました。さらに、アンリ・リヴィエールという画家により、「冨嶽三十六景」をベースにした版画シリーズ「エッフェル塔三十六景」も制作されています。

葛飾北斎《富嶽三十六景 東海道程ヶ谷》

西洋の画家たちにとって、北斎が用いた大胆な構図はとても斬新に感じられたのではないでしょうか。本展では北斎の「視覚のマジック」を意識して鑑賞し、西洋画家たちの驚きを追体験するのも興味深いです。

【まとめ】『北斎没後170年記念 北斎 視覚のマジック 小布施・北斎館名品展』をビジネスパーソンらしく味わう

展覧会を読み解くヒントとして、小布施と北斎の関係や北斎の表現についてお伝えしてきました。3つのポイントをまとめておきましょう。

①小布施と北斎の関係
②80歳を過ぎてもなおエネルギーに溢れる肉筆画
③世界に影響を与えた日本人

2017年にはイギリスの大英博物館でも北斎を紹介する展覧会が開かれ、大盛況となりました。印象派に影響を与え、今なお世界にその名を轟かせる葛飾北斎について、この機会に理解を深めてみてはいかがでしょうか。特に海外で活躍するビジネスパーソンの方は、世界的に有名な日本を代表する絵師に関する知識を身につけることで、美術が好きなクライアントとの会話を盛り上げることができるでしょう。

展覧会情報

『北斎没後170年記念 北斎 視覚のマジック 小布施・北斎館名品展』
会場:すみだ北斎美術館
会期:2019年11月19日(火) 〜 2020年1月19日(日)
◎前期 11月19日(火)~12月15日(日)
◎後期 12月17日(火)~1月19日(日) ※前後期で一部展示替えを実施
開館時間:9:30~17:30 (入館は17:00まで)
休館日:毎週月曜日、12/29(日)-1/1(水)、2020年1月14日(火)(ただし2020年1月13日(月・祝)は開館)
展覧会公式HP: https://hokusai-museum.jp/modules/Exhibition/exhibitions/view/742

文 美術ブロガー 明菜


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