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『森英恵 世界にはばたく蝶』に学ぶビジョンの強さとチャレンジ精神

日本航空客室乗務員制服(5~6代目)展示風景

美術ブロガーの明菜です。ART HOURSでは、「ビジネスパーソンが美術展から何を学べるのか」をテーマに、オフィスから飛び出してアートから学ぶお手伝いをさせていただきます。

さて、今回は『森英恵 世界にはばたく蝶』をご紹介します。本展は水戸芸術館 現代美術ギャラリーで2020年5月6日まで開催されています(臨時休館あり)。世界的に有名なファッションデザイナーである森英恵(もり はなえ、1926年~)は、戦後の復興期から仕事を始め、まだ日本の立場が強くなかった時代から海外でも活躍してファッションデザインの道を開拓した人物です。本展では、力強く世界にはばいた彼女が手掛けるオートクチュールや映画・舞台の衣裳、企業の制服やユニフォームなどを鑑賞することができます。

映画「夜霧よ今夜も有難う」の映像と衣裳の展示風景

ビジネスパーソンの皆さんは次の3つのポイントを参考に、逆境に負けずイノベーションを起こそうとする強い精神を展覧会から学べるのではないでしょうか。

①国内外に影響力を持つファッションデザイナー
②当時の海外は日本人にとってアウェイだった
③「日本の美意識を伝えたい」とビジョンを持って世界へ挑んだチャレンジ精神

バルセロナ五輪日本選手団のユニフォーム

日本のファッションデザイン界のパイオニア

森英恵といえば、バルセロナ五輪の日本選手団のユニフォームのデザインや、日本航空客室乗務員の制服のデザインが有名ではないでしょうか。彼女は映画や舞台の衣裳も数多く手掛けており、1988年に開催された美空ひばりの「不死鳥コンサート」での衣裳のデザインも行いました。2019年のNHK紅白歌合戦において、AIで再現された美空ひばりが話題となりましたが、そのときの白いドレスも森のデザインです(実際の映像では衣裳もCG)。

「AIでよみがえる美空ひばり」より「あれから」と衣裳の展示風景

このように森の国内での功績は広く知られていますが、彼女は海外でも活躍する世界的なファッションデザイナーです。1965年にはニューヨークで初の海外コレクションを発表し、1977年には東洋人で初めてパリ・オートクチュール組合の会員となりました。「文化勲章」「紫綬褒章」「朝日賞」「レジオン・ドヌール勲章オフィシエ」など、多数の賞も受賞しています。

「メイドインジャパン」は粗悪品扱いだった

本展では森のさまざまな功績を学ぶことができますが、ビジネスパーソンに最も注目していただきたいのが、彼女のチャレンジ精神です。戦後の復興期という時代に日本から海外へ進出するのは、並大抵のことではありませんでした。ビジネスパーソンの皆さんも、新たな市場を切り開く困難さには深く共感するところだと思います。

展示風景

具体的に彼女のチャレンジ精神について述べる前に、環境を整理しておきましょう。まず始めに、彼女が海外進出を決めた1960年代の欧米は白人中心・男性中心の社会で、日本人の女性が活躍するのはとても難しい場所でした。

その上、日本の製品に対するイメージも良くありませんでした。森は1961年にニューヨークへ旅行に行きましたが、百貨店で日本製のシャツが1ドルで売られていることにショックを受けます。当時の日本はアメリカに「安かろう、悪かろう」の粗悪品を輸出していたのです。

展示風景

当時のアメリカは白人中心・男性中心、しかも「メイドインジャパンは粗悪品」だと思われていたため、日本人女性にとっては完全な逆境です。しかし、森は最初の海外進出先をアメリカに選びました。

一体なぜ、あえて逆境を選んだのでしょうか。そしてどのように戦ったのでしょうか。これらを読み解くことで、森の抜きん出たチャレンジ精神を学ぶことができます。

日本の美意識で世界へ挑むチャレンジ精神

森はニューヨークへの旅行で、日本の伝統や美意識が世界に理解されていないことに気づきました。先に挙げた1ドルのシャツの例や、オペラ「蝶々夫人」で日本人女性が弱々しく描かれていたことなどから、本当の日本はそうではない、と感じました。これらの出来事を通じて得た「日本に対するイメージを変えたい」という思いが、彼女をアメリカへの進出と成功へと駆り立てたのです。

展示風景

日本の良さを理解していないアメリカでファッションショーを成功させるため、森が考えた戦略は、「日本の美意識を伝えること」と「アメリカで受け入れられること」の両立でした。日本の良さと西洋をの良さを融合したファッションを生み出し、彼女はまさにイノベーションを起こしたのです。

本展では、西洋のドレスのシルエットをベースに、着物の柄や帯、襟の形などを取り入れた作品が印象的でした。日本の着物と西洋のドレスの両方の良いところが融合して斬新な作品に仕上がっており、現代の若者が見ても美しいと感じられるデザインでしょう。

展示風景

結果として、1965年にニューヨークで開催したファッションショーでは成功を収めることができました。1977年には東洋人で初めてパリ・オートクチュール組合の会員となり、徐々に彼女の仕事は世界に認められていきました。

パリにオートクチュールのメゾンを開いてファッションビジネスの最前線を走ったり、グレース・ケリーなど世界的セレブからオートクチュールの注文を受けたりと、活躍は目覚ましいものでした。世界を股にかけて大活躍した日本人ファッションデザイナーは、森が初めてです。

展示風景

森の成功の秘訣で最も大きいのは、強い想いから生まれたチャレンジ精神ではないでしょうか。自分が知っている日本の美意識を世界へ伝え広めたいというビジョン(想い)を、西洋と日本が融合したファッションデザインを通じて実現していきました。上述したように、当時は日本人が活躍するには想像以上に厳しい環境だったと思います。そのような状況下で、冷静な現状分析と強い想いに基づき、新たな価値を生み出すことに成功し、森は世界的なファッションデザイナーとなりました。

同様の想いに基づくチャレンジ精神は、ビジネスパーソンにとっても重要ではないでしょうか。現代の企業は旧来のビジネスの延長では生き残れなくなってきており、新しい商品やサービスを生み出さなければなりません。当然、前例のない課題を解決しなければならない状況も増えていきます。そのような時に、森のように想いをもって困難にもめげず取り組めるかで得られる結果は変わってくるのではないでしょうか。

【まとめ】『森英恵 世界にはばたく蝶』をビジネスパーソンらしく味わう

展覧会を読み解くヒントとして、逆境に負けずにチャレンジする強い精神についてお伝えしてきました。3つのポイントをまとめておきましょう。

①国内外に影響力を持つファッションデザイナー
②当時の海外は日本人にとってアウェイだった
③「日本の美意識を伝えたい」とビジョンを持って世界へ挑んだチャレンジ精神

本展を通し、森英恵は表現者であるとともにビジネスパーソンでもあると感じました。日本の美意識とそれを理解していない世界とのギャップを課題とし、日本と西洋を融合したデザインによって解決した、とも捉えられるでしょう。このように表現すると非常にスマートですが、実際には白人中心・男性中心というアウェイな社会だったため、逆境に負けない並外れたチャレンジ精神が成功の秘訣となったと考えます。現代のビジネスパーソンも、森の仕事に共感する部分があるのではないでしょうか。

展覧会情報

『森英恵 世界にはばたく蝶』
会場:水戸芸術館 現代美術ギャラリー
会期:2020年2月22日(土)-5月6日(水・祝)
休館日:月曜日 ※ただし5月4日(月・祝)は開館
臨時休館:3月2日(月)〜3月31日(火)の予定(最新情報は公式HPでご確認ください)
開館時間:9:30-18:00(入場は17:30まで)
公式HP: https://www.arttowermito.or.jp/gallery/

文 美術ブロガー 明菜

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