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『未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか』に学ぶ倫理

展示風景

美術ブロガーの明菜です。ART HOURSでは、「ビジネスパーソンが美術展から何を学べるのか」をテーマに、オフィスから飛び出してアートから学ぶお手伝いをさせていただきます。

さて、今回は『未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか』をご紹介します。森美術館で2020年3月29日まで開催されている展覧会です。

本展では100点を超えるプロジェクトや作品が紹介され、近未来の都市、環境問題、社会や人間のあり方などを考えることができます。AI、バイオ技術、ロボット工学など最先端のテクノロジーや、それらの影響を受けたアート、デザイン、建築を通し、豊かさや生命について考察するきっかけを得られるでしょう。

エイミー・カール《「インターナル・コレクション」シリーズ》2016-2017年

ビジネスパーソンの皆さんは、次の3つのポイントをヒントに私たちの未来の光と影を考え、ビジネスのあり方や個人のライフスタイルについて思索を深めてみてはいかがでしょうか。

①ネオ・メタボリズムに学ぶ持続可能性
②バイオテクノロジーと倫理
③インターネットに依存する危険

『ネオ・メタボリズム』の都市や建築

「メタボリズム」は新陳代謝を意味する言葉ですが、建築の分野でもよく使われます。人口の増減や用途の変化に応じて、建築や都市も有機的に変化するべき、との理念があるのです。

メタボリズムは1960年代の建築運動で、当時の技術では十分に実現できませんでした。今日ではITやバイオテクノロジーの発達により、メタボリズムの発想に基づく建築や都市が実現されつつあります。

ビャルケ・インゲルス・グループ《オーシャニクス・シティ》2019年

最新のテクノロジーを用い、自然と共生し新陳代謝する建築を、本展では「ネオ・メタボリズム」と呼んでいます。興味深いのは、地上だけでなく海上や空中にも都市が広がりつつあることではないでしょうか。

例えば《Xクラウド・シティ》は、雲の上の大気圏内に居住する提案です。人口過密や大気汚染などにより、地表に住めなくなった近未来を想定したアイディアです。モジュールを外して移動させることができるので、人口や用途の変化に応じて都市は形を変えられます。

XTUアーキテクツ《Xクラウド・シティ》2019年

国内の多くの企業も「SDGs」に取り組んでおり、目標達成につながるサービスや商品の開発による、新たな市場の開拓や事業機会の創出が期待されています。本展は都市や建築にフォーカスしていますが、持続可能なビジネスを営むためのヒントを得られるのではないでしょうか。

バイオテクノロジーに対する倫理観

後期印象派の画家、フィンセント・ファン・ゴッホが、自分の左耳を切り落としたことは有名な話です。その左耳を、父系・母系のDNAを用いて再現した「タンパク質による彫刻」を、本展で見ることができます。本作の細胞は生きた状態であることを踏まえて、鑑賞していただければと思います。

会場では、マイクを通して耳に話しかけることができます。耳が相手と言えど、細胞は生きているため、故人に話しかけるのとは全く異なる感覚を覚えました。

ディムート・シュトレーベ《シュガーベイブ》2014年-

生前の耳の形は自画像の画像処理によって割り出され、3Dバイオプリンターやポリマー製の培養基材によって出力されています。バイオテクノロジーと画像処理技術によって、故人の身体の一部を再現した、と言い換えることができるでしょう。

クローン技術を用いた動物の複製は、一部の国では既に行われています。依頼者の多くは「死んだペットを複製してほしい」と願う人です。ペットに愛情を傾けているからこその希望ではありますが、命の複製に疑問を抱く第三者も多いでしょう。

上記のような側面がある一方で、クローン技術は畜産分野における生産性や品質の向上に役立ちます。また、絶滅危惧種などの保護に役立つケースもあります。

アギ・ヘインズ《「変容」シリーズ 体温調整皮膚形成手術》2013年

本展では他の作品もあわせ、生命に対する人間の手による編集や変容に対する問いを受け取ることができました。自分たちがその技術を欲するのはどのようなときなのか、考えてみてはいかがでしょうか。

インターネット空間への懸念

2016年に行われた米国の大統領選挙において、世論操作を行うツイッターアカウントの存在が問題になったことは記憶に新しいでしょう。自動作成された大量のアカウントがツイートした内容は、リツイート機能によって素早く拡散していきました。

マイク・タイカ《私たちと彼ら》2018年

《私たちと彼ら》では、AIによるツイートが出力されています。天井に取り付けられた小型プリンターから、リアルタイムでツイートが出力される作品です。

このAIは、アメリカの政治に関するツイートを自動生成するものです。大統領選挙の際に問題となった、20万件以上のツイートを機械学習するなどして、制作されました。

アカウントの持ち主を表す写真も、インターネット上の顔写真をAIに読み込ませ、自動生成した架空の人物のものです。すなわち、「AIが人間になりすましてツイッターを使っている」と言い換えられるのではないでしょうか。

マイク・タイカ《私たちと彼ら》2018年

ツイッターは実体のある人間が使うインターネット上のサービスです。一方、《私たちと彼ら》は架空の人物によるツイートが現実の空間で紙に印刷される作品です。現実と架空の世界が、ちょうど反転した関係になっています。

既に私たちの生活はインターネット無しには成り立たないところまで来ていますが、これ以上、インターネットへの依存度を高めて良いのでしょうか。本作は、インターネットは現実とは違うコミュニケーションの性質を持つことを示唆しており、両者の間には大きな隔りがあることを教えてくれます。

【まとめ】『未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか』をビジネスパーソンらしく味わう

展覧会を読み解くヒントとして、一部の作品をピックアップして考察してきました。3つのポイントをまとめておきましょう。

①ネオ・メタボリズムに学ぶ持続可能性
②バイオテクノロジーと倫理
③インターネットに依存する危険

テクノロジーに光と影があることは普遍的な真理であり、テクノロジーの暴走に歯止めをかける倫理の議論も必要となります。アート作品が示唆する未来から、人類が向かうべき方向について考えることができました。

本展では、建築やライフスタイルといった生活に密接した分野も多く取り上げられています。ビジネスパーソンの皆さんにとっても、ご自身の仕事に直結する点があるのではないでしょうか。本展での気づきをきっかけに、ビジネスにおける倫理観へも思案を巡らせていただければ、と思います。

展覧会情報

『未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命――人は明日どう生きるのか』
会期: 2019.11.19(火)~ 2020.3.29(日)(会期中無休)
開館時間: 10:00~22:00(最終入館 21:30)
※火曜日のみ17:00まで(最終入館 16:30)
※ただし11月19日(火)、12月31日(火)、2月11日(火・祝)は22:00まで(最終入館 21:30)
会場:森美術館
展覧会HP: https://www.mori.art.museum/

文 美術ブロガー 明菜

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