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『特別展 江戸ものづくり列伝-ニッポンの美は職人の技と心に宿る-』に学ぶ遊び心と実行力

鳥井京山像(戸沢弁司/作) 明治時代 19世紀 個人蔵
隅田川窯場図屏風(酒井抱一/画) 江戸時代 18世紀 江戸東京博物館蔵 展示期間2月8日~3月8日

美術ブロガーの明菜です。ART HOURSでは、「ビジネスパーソンが美術展から何を学べるのか」をテーマに、オフィスから飛び出してアートから学ぶお手伝いをさせていただきます。

さて、今回は特別展「江戸ものづくり列伝-ニッポンの美は職人の技と心に宿る-」をご紹介します。本展は東京都江戸東京博物館で2020年4月5日まで開催されています。日本のものづくりにおける美意識や、職人の探究心を学べる展覧会です。

六瓢提物(小林礫斎/作) 大正~昭和時代 20世紀 江戸東京博物館蔵

ビジネスパーソンの皆さんは次の3つのポイントを参考に、遊び心や行動力を展覧会から学べるのではないでしょうか。

①技とセンスを磨いた江戸の職人たち
②遊び心に基づく普遍的な価値
③アイディアを実現する実行力

特色ある名工たちを紹介する展覧会

日本の美術は、浮世絵や水墨画など絵画だけではありません。茶碗や印籠、人形など、日本人にとって身近な品々にも、美意識が込められています。特に江戸には将軍や、 大名、裕福な町人たちが住んでいたため、品物に高い美意識が求められました。職人たちは彼らのニーズに応えつつ技とセンスを磨きました。

蔓梅擬目白蒔絵軸盆(原羊遊斎/蒔絵、酒井抱一/下絵) 文政4年(1821) 江戸東京博物館蔵 国指定重要文化財 展示期間2月8日~3月8日

本展では、江戸東京で活躍した特色ある名工たちが紹介されています。蒔絵師の原羊遊斎(はら・ようゆうさい)と柴田是真(しばた・ぜしん)、陶工の三浦乾也(みうらけんや)、金工の府川一則(ふかわ・かずのり)、超細密工芸を究めた小林礫斎(こばやし・れきさい)の作品を見ることができます。

本展を鑑賞する上で意識したいのが、遊び心と技術です。遊び心は創造性と置き換えることができ、それらの作品から、普遍的な価値を持つ商品やサービスを生み出すヒントを得ることができました。そして、遊び心を作品で表現するためには、高い技術が必要なのです。次の章では、まず遊び心について紹介していきます。

時を超える遊び心の価値

例えば柴田是真《正月飾図》では、正月飾りの背景に初日の出があり、上部には竹が伸びています。まるで、お飾りが浮き上がっているような錯覚を生んでいます。並列して展示されている下絵を見ると、紙を貼って試行錯誤しながらトリックアート的な表現の研究を行ったことが分かります。ものづくりへの好奇心がうかがえる作品です。

次に、小林礫斎の作品をご覧ください。普通の箪笥に見えるかもしれませんが、実は掌に乗るほど小さなミニチュアの作品なのです。これ以外の作品も多くは礫斎が下地を作り、加工や加飾はそれぞれの職人が担ったそうです。作品もさることながら、収納する箱の細部にまでこだわりが詰まっている、驚異の美術品です。

象牙小箪笥(小林礫斎/作) 大正~昭和時代 20世紀 江戸東京博物館蔵

これらの作品を鑑賞し、率直に「欲しい」と感じてしまいました。実際に展示をご覧になり、同じ感想を抱く方は多いと思います。このことから、遊び心のある作品の価値は、制作当時と現代とであまり変わっていない、と考えることができるでしょう。有用性からではなく、作り手の美意識や作品に込められたストーリーに惹かれて欲しくなるのです。

遊び心ある作品が今なお価値を持っていることに鑑みると、複雑で不確実な現代におけるビジネスが目指すべき方向も見えてきます。それぞれの時代の不便を解消してきた道具は、いずれ古くなって使われなくなりますが、制作者の遊び心から生まれた作品は、時間が経っても色あせないのです。

文机硯箱揃 銘「寺小屋」(小林礫斎/作)大正~昭和時代 20世紀 江戸東京博物館蔵

不便を解消してくれるモノが溢れ、これといった問題が見つかりにくい現代にこそ、作り手の「遊び心」が新しい商品やサービスを生み出す土台として重要になるのではないでしょうか。江戸東京の職人の作品に対して、現代人の筆者でも惹かれることから、永続的に人々に受け入れられる価値を生み出す遊び心の重要性について考えることができました。

アイディアを実現する職人の実行力

前章では遊び心のある作品を紹介しましたが、いずれも職人たちの高い技術力によって実現されたものです。この高い技術力も、より良い作品を作るために労力を惜しまない鍛錬によって身に付けることができたのでしょう。

漆絵 玄徳檀渓渡河図(柴田是真/作) 明治10年(1877年) 個人蔵
下絵 檀渓渡河図(柴田是真絵様手控類)(柴田是真/作) 江戸〜明治時代 19世紀 江戸東京博物館 展示期間2月8日~3月8日

例えば、前章でも紹介した柴田是真は、他の人と一味違う技術で新境地を開拓しました。西洋から入ってきた油絵に対抗し、日本の伝統的な素材である「漆」を使った漆絵を開発したのです。漆はひび割れを起こす可能性があり、絵画に使うには難しい素材なのですが、是真はそれを物ともせず、絵画に仕立てました。

金工の府川一則は、最初から金工をめざして修行していたわけではありません。実はもともと絵師をめざし12歳で葛飾北斎に入門しました。しかし、北斎の死によりその道を断念することとなり、以前から下絵を依頼されるなど交流のあった名高い金工の東益常に師事して彫金の道を志します。

絵師とは全く畑違いの分野だったにも関わらず、一則はたゆまぬ努力により彫金の高い技術を身につけることができました。しかもモチーフの構成など、北斎の下で学んだ絵の技術が役立つ場面もありました。一則はその技術の高さが認められ、江戸幕府が鋳造した最後の銭貨である「文久永宝」の原型の彫刻も手がけるほどになりました。

文久永宝母銭(府川一則(初代)/作) 文久2年(1862) 江戸東京博物館蔵

これらの例からも分かるように、職人たちは努力によって自分ならではの技術を身につけ、現在に伝わる名品を制作したのです。前章では遊び心ある発想にフォーカスを当てましたが、良いアイディアを思いつくだけでなく、技術と努力が伴っていたからこそ、高いレベルでアイディアを実現できたと言えるでしょう。現代のビジネスにおいても、アイディアはあるものの実行する余力が無いケースは多く存在します。職人の実行力にも学べることがあるのではないでしょうか。

【まとめ】『特別展 江戸ものづくり列伝-ニッポンの美は職人の技と心に宿る-』をビジネスパーソンらしく味わう

展覧会を読み解くヒントとして、遊び心や行動力についてお伝えしてきました。3つのポイントをまとめておきましょう。

①技とセンスを磨いた江戸の職人たち
②遊び心に基づく普遍的な価値
③アイディアを実現する実行力

江戸の職人たちによる作品を見ていると、極限まで完成度を高めようとする美意識を感じ取ることができます。価値観が多様化し、量産品でなく1点ものの商品も好まれるようになってきた現代において、江戸の職人のあり方は参考になるのではないでしょうか。

展覧会情報

特別展「江戸ものづくり列伝-ニッポンの美は職人の技と心に宿る-」
会期:2020年2月8日(土)~4月5日(日)※会期中に一部展示の入れ替えあり
会場:東京都江戸東京博物館 1階特別展示室
開館時間:午前9時30分~午後5時30分(土曜日は午後7時30分まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日:毎週月曜日(ただし2月24日は開館)、2月25日(火)
博物館HP: https://www.edo-tokyo-museum.or.jp/

文 美術ブロガー 明菜

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