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『ハマスホイとデンマーク絵画』に学ぶ信じる価値の伝え方

ヴィルヘルム・ハマスホイ《背を向けた若い女性のいる部屋》(1903-04年) ラナス美術館

美術ブロガーの明菜です。ART HOURSでは、「ビジネスパーソンが美術展から何を学べるのか」をテーマに、オフィスから飛び出してアートから学ぶお手伝いをさせていただきます。

さて、今回は『ハマスホイとデンマーク絵画』をご紹介します。本展は東京都美術館で2020年3月26日まで開催されています。17世紀オランダ風俗画の影響が認められることから「北欧のフェルメール」とも称されるハマスホイの静謐な絵画を中心に、日本であまり紹介されてこなかったデンマーク絵画を鑑賞することができました。

ヴィルヘルム・ハマスホイ《ライラの風景》(1905年) スウェーデン国立美術館

ビジネスパーソンの皆さんは次の3つのポイントを参考に、デンマーク絵画そのものについてや、現代のビジネスと美術の共通点を展覧会から学ぶことができるのではないでしょうか。

①黄金期のデンマーク絵画
②ハマスホイの比類ない静かな絵画
③プロモーションの重要性

日本初の本格的なデンマーク絵画展

19世紀はデンマーク絵画の黄金期とされており、コペンハーゲン郊外の風景画、デンマークの漁師町の暮らしを描いたスケーイン派、幸福な家庭の生活を主題とした室内画など、さまざまな絵画が生まれました。

19世紀が黄金期と言われるのは、デンマーク国内で芸術家を育てるため、コペンハーゲンに1754年に王立美術アカデミーが設立されたことに遡ります。設立当初は外国籍の教授で占められていましたが、しばらくすると何人かのデンマーク人が教授に任命され、彼らによってコペンハーゲンはヨーロッパにおける芸術の中心地の一つとなり、黄金期と呼ばれる一時代が築かれるに至りました。

オスカル・ビュルク《スケーインの海に漕ぎ出すボート》(1884年) スケーイン美術館

これらのデンマーク絵画が日本でまとまって紹介される機会は稀で、本展は日本初の本格的なデンマーク絵画展となっています。中でも注目したいのが、室内画です。温かみのある色調で日常を描いた作品が多く、精神的な豊かさを感じられます。

ピーダ・イルステズ《ピアノに向かう少女》(1897年) アロス・オーフース美術館

本展のタイトルは『ハマスホイとデンマーク絵画』なので、早くハマスホイを見たいと思われる方もいらっしゃるでしょう。しかし、ハマスホイ以外のデンマーク絵画をよく鑑賞することで、彼の特異性が浮かび上がってきます。同時代のデンマーク絵画を頭に入れた上で、次の章を読み進めていただければ幸いです。

ハマスホイの比類ない静けさ

ハマスホイ(1864〜1916年)もデンマークの画家ですが、上記した画家たちと比べてさらに物静かな印象の作品を多く残しています。室内風景画を多く残し、黒、白、灰色を基調に色の数が限定され、人物は後ろ向きに描かれるなど、引き算を極めた作風が特徴です。

ヴィルヘルム・ハマスホイ《室内-開いた扉、ストランゲーゼ30番地》(1905年) デーヴィズ・コレクション

その静けさからフェルメールと比較されることもあり、フェルメール作品と同様、日本人好みではないかと思います。アパートの室内を描いた静謐な絵画から、鑑賞者がストーリー性を想像で膨らませることができるからです。

例えば、《室内》のテーブルクロスには畳み皺がくっきりと残っています。この皺に関する考察だけでも、話し始めたら止まらない美術好きの方も多いでしょう。モチーフが引き算された静かな絵画には読み解きのヒントが少なく、鑑賞者は解釈の自由度が高いと感じるのではないでしょうか。

ヴィルヘルム・ハマスホイ《室内》(1898年) スウェーデン国立美術館

最初の章で挙げた画家たちも穏やかな作品を多く描いていますが、ハマスホイを見た後に鑑賞すると、随分と賑やかに感じられます。ハマスホイの絵画は比類ない静けさを称えており、デンマーク絵画で際立った存在となっています。

静謐な絵画のイメージと同様、ハマスホイは物静かで内向きな性格の持ち主でした。あまり社交的ではなく交友関係も限られていましたが、今日では大きな名声を確立しています。彼がデンマーク絵画を代表する存在となった要因の一つに、パトロンによるプロモーションがありました。

パトロンによるプロモーション

ハマスホイのパトロン、アルフレズ・ブラムスン(1851〜1932年)はデンマークの歯科医で美術収集家です。ハマスホイの初期の作品を購入後、熱心なパトロンとして彼を支えました。

パトロンとは現代のスポンサーに近い存在で、芸術家の創作活動を経済的に支える人のことです。古代から、美術史においてパトロンは大きな役割を果たしており、有名な例としてはメディチ家が挙げられます。メディチ家はレオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロなどの芸術家をパトロンとして支援し、ルネサンス期の美術を育てる上で重要な役割を果たしました。

ヴィルヘルム・ハマスホイ《ピアノを弾く妻イーダのいる室内》(1910年) 国立西洋美術館

ブラムスンはハマスホイの絵を購入するだけでなく、今日で言うところの「プロモーション活動」にも精力的でした。国内外の展覧会に作品を貸し出したり、ハマスホイの伝記を執筆したりすることで、彼の名声に貢献しました。ブラムスンが執筆した作品カタログには380点あまりの作品が掲載されており、現在もハマスホイ研究に欠かせない資料となっています。

このような成果もあり、ハマスホイが亡くなった翌年の1917年、ブラムスンが所蔵する28点のハマスホイ作品がデンマーク国立美術館に寄託され、展示されることとなりました。(残念ながら、1931年に展示スペースの不足を理由に作品は返却され、ブラムスンのコレクションは散逸していきます。)

ヴィルヘルム・ハマスホイ《自画像》(1890年) デンマーク国立美術館

ハマスホイとブラムスンの関係は、現代のビジネスの仕組みと全く同じだと感じました。商品が広く受け入れられるためには、良い商品を作るだけでなく、プロモーションによって価値を伝える必要があることと重なります。

独自の審美眼によっていち早く見出した価値を積極的に発信し、世界がそれに気づいていく流れは、19世紀も現代も似ており興味深くはないでしょうか。脚光を浴びているインフルエンサーマーケティングも、元を辿ればブラムスンの後援のような形に行き着くのかもしれません。

【まとめ】『ハマスホイとデンマーク絵画』をビジネスパーソンらしく味わう

展覧会を読み解くヒントとして、デンマーク絵画やビジネスと美術の共通点についてお伝えしてきました。3つのポイントをまとめておきましょう。

①黄金期のデンマーク絵画
②ハマスホイの比類ない静かな絵画
③プロモーションの重要性

同時代の画家と比べることで、ハマスホイの突出した静けさを理解することができます。日本人好みの引き算の美と、彼の評価に貢献したパトロンの努力を、味わってみてはいかがでしょうか。

展覧会情報

『ハマスホイとデンマーク絵画』
会期:2020年1月21日(火)~3月26日(木)
会場:東京都美術館 企画展示室
休室日:月曜日、2月25日(火) ※ただし、2月24日(月・休)、3月23日(月)は開室
開室時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
夜間開室:金曜日、2月19日(水)、3月18日(水)は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
展覧会HP: https://artexhibition.jp/denmark2020/

文 美術ブロガー 明菜

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