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『コートールド美術館展 魅惑の印象派』から学ぶビジネスパーソン必須の洞察力

エドゥアール・マネ《フォリー=ベルジェールのバー》1882年 コートールド美術館
© Courtauld Gallery (The Samuel Courtauld Trust)

美術ブロガーの明菜です。ART HOURSでは、「ビジネスパーソンが美術展から何を学べるのか」をテーマに、オフィスから飛び出してアートから学ぶお手伝いをさせていただきます。

さて、今回紹介するのは東京都美術館で2019年12月15日まで開催される『コートールド美術館展 魅惑の印象派』です。イギリスの実業家サミュエル・コートールドが築いた、印象派・ポスト印象派の絵画や彫刻を見られる展覧会です。

彼は20世紀初頭に人工シルクの製造で巨万の富を築き、当時最先端のフランス美術である印象派の美術品を購入。その充実したコレクションは、イギリスにおける印象派の評価を推し進めることとなりました。自国の外にも目を向け、面白いと感じたものをどんどん取り入れていくのは今も昔も成功するビジネスパーソンの特色ではないでしょうか。

今、あらためてビジネスとアートの関係が日本で注目を浴びています。しかし、洋の東西を問わず昔から、アートはビジネスパーソンに刺激を与え、また、ビジネスパーソンもアートに影響を与え続けてきたことを実感させてくれます。

本展は、特にアートをオフィスに導入している経営者やビジネスパーソンに、ぜひご覧いただきたい内容となっています。実業家であり美術コレクターであるコートールドの収集について、共感したり違和感を覚えたりして、コートールドと議論したくなるでしょう。

コートールド美術館とは?

ポール・セザンヌ《カード遊びをする人々》1892-96年頃 コートールド美術館
© Courtauld Gallery (The Samuel Courtauld Trust)

コートールド美術館は、世界屈指の印象派・ポスト印象派絵画コレクションを誇るロンドンの美術館。エドゥアール・マネの傑作《フォリー=ベルジェールのバー》を始めとした巨匠たちの代表作が収蔵されています。

美術館の創設者、サミュエル・コートールドはイギリスの実業家で、美術作品のコレクターでもありました。20世紀初頭に人工シルクの製造で巨万の富を築いたコートールドは、1922~1931年のわずか10年ほどでコレクションのほとんどを形成しました。

その後、ロンドン大学に創設された美術研究所に、コートールドが自分のコレクションを寄贈しました。研究所は『コートールド美術研究所』と名付けられ、その展示施設として『コートールド美術館』が誕生したのです。

コートールド美術館の名画たちが貸し出されることは滅多にありませんが、美術館の改修工事のために多くの作品が来日することとなりました。『コートールド美術館展 魅惑の印象派』では、絵画・彫刻約60点を鑑賞することができます。

なぜフランスの印象派の絵画がイギリスの美術館に?

クロード・モネ《アンティーブ》1888年 コートールド美術館
© Courtauld Gallery (The Samuel Courtauld Trust)

20世紀初頭、フランスではモネやルノワールなど印象派の絵画は高く評価されており、非常に人気もありました。しかしコートールドが暮らしたイギリスでは、印象派に対する評価は定まっていませんでした。

つまり、イギリスで印象派が人気になる前に目を付けたのがサミュエル・コートールドです。確かな審美眼に基づいて作品を見極め、イギリスではライバルが少ないうちに良質なコレクションを築くことができたのです。

自身も印象派やポスト印象派の絵画を購入する傍ら、イギリス国家のコレクションを充実させるための援助も行いました。当時のイギリスの美術館は印象派に対して懐疑的であったため、自ら5万ポンドの助成金を申し出たり、コートールド自らが会長となる絵画の収集委員会を組織することを提案したり、積極的に行動します。

こうした行動は広く報道され、イギリス国内でも「印象派は美術の伝統において重要」と理解されるようになりました。実際にコートールド基金を通じて印象派の絵画がいくつか購入され、ロンドンのナショナル・ギャラリーに収蔵されています。

コートールド美術館に印象派の絵画が多いのは、彼がいち早く印象派の芸術性に気づいたからです。その熱量は国家のコレクションをも動かすこととなりました。

《フォリー=ベルジェールのバー》に散りばめられた謎

エドゥアール・マネ《フォリー=ベルジェールのバー》1882年 コートールド美術館
© Courtauld Gallery (The Samuel Courtauld Trust)

マネが描いた《フォリー=ベルジェールのバー》は、コートールド美術館の収蔵品の中でも最高峰の傑作と呼び声が高い作品です。売り子の女性が中央に立っており、カウンターにはお酒が並ぶ普通のバーの光景のようです。

ところが、同じ女性の後ろ姿(鏡像)が右側に描かれていることに違和感を感じませんか?女性の背面は鏡になっていますが、それなら彼女の真後ろに鏡像が来るはずです。

なぜ、マネはあえて現実ではありえない場所に女性の鏡像を描いたのでしょうか?これは専門家の間でも長年議論になっており、マネの真意は未だに分かっていません。本展ではその視覚効果について「中央のバーメイドの頭部を頂点とする安定した三角形の構図が成立し、その存在がより際立って見える」と解説されています。

一体どうしてマネが意図的に鏡像をずらしたのか、絵画と向き合って自分なりに考えてみるのも面白いです。ビジネスで出会った美術好きのクライアントとの話題にもぴったりでしょう。

例えば、私の考えはこうです。「彼女が誰と目を合わせているか」を明確にするために、鏡像を横にずらしたのです。

女性が向かい合っている相手の立ち位置は、鑑賞者の立ち位置と同じで女性の真正面です。そのため、正確に描けば2人の鏡像は女性の背後に隠れてしまい、女性が誰を見つめているのか分からなくなってしまいます。鏡像を使って2人の関係を伝えるため、あえて違和感のあるずらし方をしたのではないでしょうか?

絵画の右端には、髭を蓄えた男性の姿が見えます。ぼんやりと描かれているものの、女性よりもかなり年上の男性と見て良いのではないでしょうか。

フォリー=ベルジェールのバーメイドたちは、飲み物だけでなく自らの体を売ることもありました。そのような交渉の場面であることを示すために、わざわざ鏡像をずらして話し相手を描き込んだのでは…と考えます。

以上は私の解釈ですが、女性の何とも言えない表情を見ていると確信に変わってきます。皆さんもぜひ、絵画とじっくり向き合って自分なりのストーリーを組み立ててみてはいかがでしょうか?。

マネは他の作品でも、女性にまつわる絵画でスキャンダルを起こしてきました。例えば、本展で展示されている《草上の昼食》(オルセー美術館所蔵作品の小型版)がその代表例です。神話の女神ではなく現実の女性のヌードを描いたことで「美術の暗黙のルールを破った」とスキャンダルとなりました。

《フォリー=ベルジェールのバー》は、マネ最晩年の傑作。一生にわたって、マネが目に映る現実を一途に描写し続けた画家であることを示す絵画とも考えられるのではないでしょうか。

購入価格が分かる美術展

ピエール=オーギュスト・ルノワール《桟敷席》1874年 コートールド美術館
© Courtauld Gallery (The Samuel Courtauld Trust)

本展の図録には、ほとんどの作品について、コートールドがいつ、どれほどの金額で購入したのかが記載されています。作品の購入価格が分かる展覧会は珍しいので、ぜひチェックしていただきたいポイントです。

コートールドが購入した作品の中で最も高額だったのは、マネの《フォリー=ベルジェールのバー》とルノワールの《桟敷席》です。それぞれ110,000ドル(約22,600ポンド)で購入しており、他の作品に比べると群を抜いて高額であることが分かります。

一方で、驚くほどリーズナブルな価格で購入された作品もありました。例えば、ウジェーヌ・ブーダンという画家の《ドーヴィル》は600ポンドで購入しています。

なぜこれほどまでに購入価格に差があるのか、考えてみるのも面白いでしょう。大きさや素材によるものなのか、画家の知名度によるものなのか、考えられる要因はさまざまです。画商の交渉テクニックの良し悪しも影響したかもしれません。

また、気に入った作品について「自分がコートールドだったらいくらで買うだろう?」と想像するのも1つの楽しみ方です。自社のオフィスデザインにアートを導入するところまで、ついつい想像が膨らんでしまいます。

【まとめ】『コートールド美術館展 魅惑の印象派』をビジネスパーソンらしく味わう

フィンセント・ファン・ゴッホ《花咲く桃の木々》1889年 コートールド美術館
© Courtauld Gallery (The Samuel Courtauld Trust)

展覧会を読み解くヒントとして、コートールド美術館の背景や展示作品についてお伝えしてきました。4つのポイントをまとめておきましょう。

①コートールド美術館は世界屈指の印象派・ポスト印象派のコレクションを誇る
②コートールドは、イギリスにおける印象派の評価の確立に一役買った人物
③《フォリー=ベルジェールのバー》に隠された意図を考察
④購入価格を知ることでコレクター気分を味わう

全体を通して目を奪われる作品が多く、コートールドのセンスに驚くばかりでした。絵画と向き合って「何がコートールドを惹きつけたのか」などを考え、ビジネスでも活かせる洞察力を刺激したいところです。

展覧会情報

コートールド美術館展 魅惑の印象派
会期:2019年9月10日(火)~12月15日(日)
会場:東京都美術館 企画展示室
休室日:月曜日、11月5日(火) ※ただし、11月4日(月・休)は開室
開室時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
夜間開室:金曜日、11月2日(土)、11月20日(水)は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
公式ホームページ: https://courtauld.jp/
お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)
11月20日(水)はシルバーデーにより、65歳以上の方は無料。そのため混雑が予想されます。

文 美術ブロガー 明菜

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