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『カルティエ、時の結晶』が仕掛ける驚異の世界―5つの見どころを解説

《ネックレス》 カルティエ、2018年 デイヴィッド&レイラ・セントナー蔵

美術ブロガーの明菜です。ART HOURSでは、「ビジネスパーソンが美術展から何を学べるのか」をテーマに、オフィスから飛び出してアートから学ぶお手伝いをさせて頂きます。

さて、あなたにとって一番身近なアートは何ですか?かつて『腕時計』や『アクセサリー』が職人の手作りだった頃、これらは当時の人々にとって身に着けられる身近なアートだったのではないでしょうか。

時計やジュエリーで憧れのブランドといえば、カルティエ。1847年にフランス・パリで創業し、数々の高級宝飾品を世に送り出してきました。21世紀の現在も名門ブランドとして世界中のセレブリティを魅了し続けています。

今回は始まったばかりの展覧会『カルティエ、時の結晶』を紹介していきましょう。『カルティエ、時の結晶』は、時計やティアラを始めとする約300点もの宝飾品を見られる展覧会。短時間でパパッと予習したいあなたのために、本展覧会の見どころを5つに絞って紹介しましょう!

①プラチナは宝飾界の大発見だった!
②国宝級のカルティエの技術力『石の彫刻』
③資料から読み解くカルティエ
④カルティエの発想力
⑤展示空間そのものがアート!

見どころ①プラチナは宝飾界の大発見だった!

《ティアラ》 カルティエ パリ、特注品、1905年 カルティエ コレクション

ジュエリーを形作る上で大切な金属。現在よく使われる素材は『プラチナ』ですよね。しかし、実はアクセサリーにプラチナが使われるのにはとても合理的な理由があったのです!

プラチナ以外の素材といえば、金や銀がありますよね。ですが、柔らかい金を使えば石を支えるのに多くの金を使わなければならず、重々しいデザインになってしまいます。銀だと、時間と共に黒ずんでしまう問題があります。

そこで、重宝されたのが硬いプラチナ。当時は「貴金属」と認定されていなかったプラチナを、カルティエが初めてハイジュエリーに用いることを試みました。レースの透かし模様のように繊細なデザインでも石をしっかり支えることができ、申し分ない素材だったのです。

さらに、プラチナならダイヤモンドの輝きを際立たせることも可能です。プラチナの白さと輝きは電灯の光をよく反射し、宝石をより美しく見せてくれます。現在に至るまでプラチナが宝飾品によく使われているのは、「プラチナをハイジュエリーに使う」という斬新な発想のおかげ。このようなアイディア力は、現代のビジネスパーソンである私たちも見習うべきでしょう。

見どころ②国宝級のカルティエの技術力『石の彫刻』

《ブルドッグ》 カルティエ、1907年頃 カルティエ コレクション

愛らしいブルドッグちゃんのオブジェ。よく見ると、前足と胴体の色味が違うことが分かりますか?しかも実物を見ると、ブルドッグの体には豊かな茶色のグラデーションがかかっていることに気づきます。

そもそもこのブルドッグちゃんは、クォーツを彫刻してできた作品。プラスチックなど、人間が自由に形を決められる素材ではないのです!

一言で『石の彫刻』と簡単に言えますが、これは突出した超絶技巧によるもの。しかも、天然の石が持つ微妙な色の変化を活かして作品を作らなければ、生き生きとしたジュエリーにはなりません。

石が持つランダムな色味をも作品に活かす、石の彫刻技術。アート作品としていつまでも見ていたい、カルティエのジュエリーの秘密が1つ、解けたのではないでしょうか?

見どころ③資料から読み解くカルティエ

《スクラップブック》 カルティエ パリ、1930年頃 カルティエ アーカイヴ

本展覧会で私が「一番面白い!」と思ったのは、なんとジュエリーではなく…。1冊のスクラップブックの見開きたった2ページでした。

これは創業者の孫でブランドを継いだルイ・カルティエが集めた資料の一部。明らかにヨーロッパではない異国の動物の写真がクリップされています。彼の未知なる世界への好奇心は、デザイナーのインスピレーションに繋がったのでしょう。

面白いことに、類稀な芸術家との共通点。世界中の珍しいものを集めたい欲望は、オランダの巨匠レンブラントも持っていたのです。つまり、未知の刺激をたくさん浴びることは、昨日まで無かったものを作るアイディアに繋がるのではないでしょうか?

さらに、以前ART HOURSで取材させていただいた株式会社BIOTOPEのCEO、佐宗邦威さんが同じ手法を取り入れていらっしゃることも興味深いです。佐宗さんはご自身が「いいな」「美しいな」と感じたことを写真に撮って記録したり、Instagramに投稿したりすることをおすすめしています。日本人が苦手な「主観」を基に意見を話す力を鍛える方法論として、次の記事の中で語っていただきました。

同じことは、現代の私たちの仕事にも言えます。現代のビジネスパーソンには、限られた時間で効率よく、しかも創造的な事業を立ち上げる能力が求められていますよね。

正解が1つに決まらない事業の舵を取るのに重要なのは、知識と経験だけではありません。常識に捉われない創造力、つまり一瞬のひらめきや、素朴なアイディアをブラッシュアップする力も必要です。

カルティエのスクラップブックを見ていると、好奇心こそ創造力の源であることに納得が行きませんか?私たちも、未知の動物に限らず、あまり詳しくないアート展に出向いたり、いつもは読まないジャンルの本を読んでみたりすることで、脳や感性にとって良い刺激を得られるはず。カルティエの姿勢に学び、常に好奇心旺盛な大人でいたいものです。

見どころ④カルティエの発想力

《ミステリークロック》 カルティエ、1997年 個人蔵

展覧会のテーマの一つは『時間』です。20世紀初頭から現代までの作品の変遷からは、カルティエがハイブランドたる理由が感じられました。常に人々を惹きつけるアイディアに溢れているのです。

例えば、『ミステリークロック』は時計の針が宙に浮いているようなデザインが特徴。歯車などの機構が見えず、針がどんな仕組みで動いているのか全く分かりません。アイディアを出した人も仕組みを考えた人も凄いですよね。

魔法のような時計ですが、ミステリークロックの基本的な仕組みはなんとも簡単。実は透き通った水晶盤と針が一体になっており、水晶盤ごと回転させることで『宙に浮いた針が回転している』ような錯覚を見せていたのです。2枚の水晶盤を重ね、それぞれに長針と短針を配置していた、ということ。『逆転の発想』とも呼べるアイディアです。

不可能を可能にするアイディアとは、意外にシンプルなのかもしれません。課題解決の事例としても勉強になりますし、カルティエの職人が一流の中の一流であることに感嘆してしまいます。

見どころ⑤展示空間そのものがアート!

『カルティエ、時の結晶』序章「時の間」 新素材研究所

本展覧会の会場構成は、新素材研究所の杉本博司氏と榊田倫之氏が手がけています。特に印象的なのが序章の『時の間』です!12本の光の柱には時計が1つずつ展示されており、時間が入れ子構造で表現されています。展覧会が始まるワクワクが高まる構成ですよね。

新素材研究所とは、『旧素材こそもっとも新しい』という理念のもとで設立された建築設計事務所。石や木など人類が古から使ってきた素材も、もちろん本展覧会で多く使われています。宝石も自然素材であることを思い出しますし、展示室ではふとした瞬間に『地球』を感じられました。

『カルティエ、時の結晶』展示風景、上 《春日鹿曼荼羅》室町時代 個人蔵、下 《2本の「フェーン(シダ)の葉」ブローチ》 カルティエ パリ、1903年 カルティエ コレクション

また、カルティエのジュエリーを歴史ある仏画と合わせた展示もあり、意外な響き合いに驚きました。デザインの普遍性だけでなく、時間や地域を超えて1つの展示として成立するのも面白いですね。

お店のショーウィンドウでもなく、ただの美術展でもない独特の会場構成。「うちのオフィスデザインも新素材研究所にお願いしたい…」なんて妄想も膨らみますよ。

『カルティエ、時の結晶』を楽しむまとめ

《時計付きデスクセット》 カルティエ パリ、1931年 アルビオンアート コレクション

宝石の美しさだけではない、展覧会の見どころを5つ紹介してきました。

①硬いプラチナが繊細な造形にぴったり
②『石の彫刻』は高度な技術
③資料展示も見応えあり
④胸を突き動かされる発想力
⑤展示構成は新素材研究所

本展覧会では、『人生で一番華やかな体験』ができるかもしれません。毎週金曜・土曜は20時まで開館しているので、お仕事終わりでも予定を入れやすいですよ!

展覧会情報

カルティエ、時の結晶
会期: 2019年10月02日(水)-12月16日(月)
休館日:毎週火曜日(ただし10月22日(火・祝)は開館、10月23日(水)は休館)
開館時間:10:00 – 18:00(毎週金・土曜日は20:00まで、入場は閉館の30分前まで)
会場: 国立新美術館 企画展示室2E
展覧会ホームページ: https://Cartier2019.exhn.jp

文 美術ブロガー 明菜 

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