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『バスキア展 メイド・イン・ジャパン』に学ぶ鋭い社会批判とアートの力

ジャン=ミシェル・バスキア Untitled, 1982 Yusaku Maezawa Collection, Chiba
Artwork © Estate of Jean-Michel Basquiat. Licensed by Artestar, New York

美術ブロガーの明菜です。ART HOURSでは、「ビジネスパーソンが美術展から何を学べるのか」をテーマに、オフィスから飛び出してアートから学ぶお手伝いをさせていただきます。

さて、雑誌の取材などでアートをオフィスデザインに取り入れた経営者としていつも取り上げられるのが株式会社ZOZOの創業者・前澤友作氏です。彼にインスピレーションを受け、自分のオフィスにもアートを飾り始めた経営者の方も、多くいらっしゃいますよね。

前澤氏が約123億円で購入して話題となったバスキアの絵画《Untitle》は、2019年11月17日まで六本木の展覧会でじっくり見ることができます。前澤氏の購入額ばかりが注目されてしまいがちですが、バスキアの何が日本のトップビジネスパーソンを惹きつけているのでしょうか。日本の高度経済成長期に活躍したアーティストであり、実は日本と繋がりの強いアーティストだったのです。

『バスキア展 メイド・イン・ジャパン』で、その強烈なエネルギーに刺激を受けてみてはいかがでしょうか?

バスキアについて理解を深める

ジャン=ミシェル・バスキア ©Roland Hagenberg

バスキアの画家人生の始まりは10代の頃。「SAMO©」という名前でアル・ディアスと共に描いたグラフィティ(いわゆる壁への落書き)が注目され、ニューヨークのスターにのし上がります。1970年代当時、ニューヨークで彼らが描いたのは、ウィットを込めた社会風刺のポエムでした。

上昇志向の強いバスキアは、SAMO©としての活動を終えると、画家としてカンヴァスやドアなどに絵を描くようになります。それらの作品にも詩やテキストが織り交ぜられ、ときに鋭く、ときに遠回しに政治を批判してきました。

そんなバスキアの生き方や勢いのある作品は数々のアートファンを魅了してきました。冒頭で紹介した前澤氏のみならず、コレクターとしても名高いレオナルド・ディカプリオ氏、デヴィッド・ボウイ氏もバスキアの作品を収蔵しています。戦後生まれのアーティストのオークション売上高を比較するとバスキアが頭1つ抜きんでており、アートシーンにおける存在感は年々高まっています。

27歳で突如として死を迎える天才画家、バスキア。ここからは、彼の約10年という短くも密度の高い制作について、読み解くポイントを見ていきましょう。

バスキアならではの主張

ジャン=ミシェル・バスキア Carbon/Oxygen, 1984 Hall Collection
Photo: Raul Valverde / onwhitewall.com
Artwork © Estate of Jean-Michel Basquiat. Licensed by Artestar, New York

バスキアが活躍した頃のニューヨークのアートシーンは、白人男性がほとんどで白人至上主義の世界でした。その中でバスキアは、積極的に自作に黒人を登場させてきた画家です。

それは誰か特定できる人物ではなく、アフリカ系アメリカ人の代表です。太く自信のある線と鮮やかな色で、バスキアはアフリカ系アメリカ人を描きました。それまでのアート界で主役になることはなかった人物を、最先端のアートで主役にしたのです。

バスキアは自身も含め差別される者の傷を絵画で訴えました。一方で、スターダムを駆け上がるバスキアの怖いもの無しの大胆さを感じ取ることもできます。アート界ではマイノリティでありながら白人に媚びることなく、黒人アスリートを想起させるモチーフなども描きました。

21世紀に生きる私たちも、差別の当事者と考えることができるでしょう。身近なところでも、性別や学歴で人を判断したり、されたりしたことはありませんか?

バスキアがアートで示した差別への批判は、現代にもそのまま通用する普遍性を持っています。自分自身の他者に対する振舞いを省みるとともに、世界が分断されかけている現代にバスキアが生きていたら、どのような作品を作ったのか…と想像せずにはいられません。

散りばめられた文字の秘密

ジャン=ミシェル・バスキア Onion Gum, 1983 Courtesy Van de Weghe Fine Art, New York
Photo: Camerarts, New York
Artwork © Estate of Jean-Michel Basquiat. Licensed by Artestar, New York

バスキアの作品の多くは文字で埋め尽くされており、平面的な印象があります。よく見ていくと文字だけではなく、数式や化学式も描き込まれていることに気づきます。

文字や記号の解釈については諸説ありますが、1つ言えるのは、適当に描いていたのではないということ。バスキアは幼い頃から美術館に通い、美術史を学んで審美眼を鍛えました。

さらに、彼の能力についてはさまざまな逸話が語られています。7歳の頃には既に英語、フランス語、スペイン語を理解し、それぞれの言葉で歴史や文学を読んでいたそうです。7歳で交通事故に遭ったとき、母親から与えられた『グレイの解剖学』という解剖学書は、絵画のインスピレーションの源ともなりました。その他、さまざまな専門書を読み漁っていたとのこと。

このような下地があったからこそ、アートで痛烈な社会批判を行うこともでき、また鑑賞者を煙に巻くような不思議な言葉を取り合わせた詩も書けたのではないでしょうか?歴史に残る仕事をした人とは、自分の専門だけでなく幅広い知識からインスピレーションを得ているのです。

バスキアと日本の繋がり

ジャン=ミシェル・バスキア Plastic Sax, 1984 agnès b. collection
Artwork © Estate of Jean-Michel Basquiat. Licensed by Artestar, New York

バスキアの作品には、『Yen』や『Made in Japan』といった日本に関する単語がよく現れます。《プラスティックのサックス》には、おりがみのパッケージさえも描き込んでいます。

バスキアが活躍した1970~80年代には、日本の電化製品が海外にも多く輸出されていた時代。『Made in Japan』は安いのに高性能であることを示す、ある種のブランドになっていたのです。80年代後半のバブル景気の頃には円の価値が高くなり、アートシーンでも日本の存在やマネーは大きく意識されていました。

実際に何度か日本を訪れ、個展も開催したことがあるバスキア。勢いある日本での成功もあって、アートを消費することへの関心や疑問を抱き、絵画の中で考えを表現するように『Yen』を登場させたのではないでしょうか。

日本にある作品を含む総数約130点の展示

ジャン=ミシェル・バスキア Napoleon, 1982 Private Collection Photo: John R. Glembin
Artwork © Estate of Jean-Michel Basquiat. Licensed by Artestar, New York

バスキアの作品は、日本の公立美術館にも多く収蔵されています。日本の高度経済成長期とバスキアの活躍がちょうど重なり、公立美術館も積極的にコレクションしていったのです。

実は、海外では主に個人のコレクターがバスキアの作品を収蔵しており、日本ほど公立美術館に入っている例は珍しいのだとか。本展では日本の美術館が収蔵している作品も多く展示されており、今回注目すべき点の一つです。

さらに海外での展覧会を含めても、今回ほど大きな規模のバスキア展が開催されることは稀。立体作品まで展示されるのは貴重な機会なので、ぜひ目に焼き付けてくださいね。

『バスキア展 メイド・イン・ジャパン』をビジネスパーソンらしく味わうまとめ

ジャン=ミシェル・バスキア Self Portrait, 1985 Private Collection Photo: Max Yawney
Artwork © Estate of Jean-Michel Basquiat. Licensed by Artestar, New York

展覧会を読み解くヒントとして、バスキアの生涯や作品の特徴をお伝えしてきました。5つのポイントをまとめておきましょう。

①グラフィティからキャリアをスタート
②差別へ立ち向かうアート
③幅広い知識から得たインスピレーション
④日本でも成功を収めたアーティスト
⑤日本の公立美術館も作品を多数収蔵

本展は約130点もの絵画やオブジェ、素描などでバスキアを紹介する展覧会で、東京・六本木のみでの開催予定となっています。正直に言って、海外へ巡回しないのは勿体ないほどのクオリティです。世界のバスキアファンがうらやむ展覧会をお見逃しなく!

展覧会情報

バスキア展 メイド・イン・ジャパン Jean-Michel Basquiat : Made in Japan
会期:2019年9月21日(土)- 11月17日(日)
開館時間:10:00 ~ 20:00
※10月21日(月)は17:00閉館
※入場は閉館の30分前
会場:森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52階)
展覧会ホームページ:www.basquiat.tokyo
お問い合わせ: 03-5777-8600(ハローダイヤル)

文 美術ブロガー 明菜

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