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『奇蹟の芸術都市バルセロナ』に学ぶ芸術の発展

展示風景

美術ブロガーの明菜です。ART HOURSでは、「ビジネスパーソンが美術展から何を学べるのか」をテーマに、オフィスから飛び出してアートから学ぶお手伝いをさせていただきます。

さて、今回は『奇蹟の芸術都市バルセロナ』をご紹介します。本展は東京ステーションギャラリーにて2020年4月5日まで開催されています。

バルセロナは、芸術や食、スポーツなどさまざまな魅力を備え、今日では観光客にも人気がある、スペイン・カタルーニャ自治州の州都です。世界遺産サグラダ・ファミリアがあり、ピカソやダリ、ミロなど著名な芸術家にとっても縁のある都市です。しかし、当時の芸術の中心であるフランス・パリからは離れています。バルセロナが芸術都市となった背景には、一体何があったのでしょうか。

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本展では次の3つのポイントを参考に、芸術都市としてのバルセロナの発展の歴史について展覧会から学べるのではないでしょうか。ピカソが美術アカデミーを中退した後、入り浸ったバルセロナにおける芸術運動の息吹を感じ、世界で通用するビジネスパーソンの教養としていただければと思います。

①バルセロナの発展
②ガウディを始めとする新しい建築
③ピカソも影響を受けた近代美術様式「ムダルニズマ」

国際都市へと発展したバルセロナ

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産業革命により人口が増加したバルセロナでは、19世紀半ばに旧市街の城壁が取り壊され、市域が拡大することになりました。それに伴い、新しい都市計画の下で整備されていきます。1888年にはバルセロナで万国博覧会が開催され、国際都市としてデビューを果たします。

本展では、アントニ・ガウディを始めとする建築家の仕事や、カタルーニャを代表する画家、ラモン・カザスやサンティアゴ・ルシニョルらの作品が紹介されていました。この2人は、ピカソが初個展を行ったカフェ「四匹の猫」を開いたメンバーでもあります。

ガウディらが設計した独特の建築

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まずは、バルセロナと聞いて真っ先に思い浮かぶであろう建築家アントニ・ガウディについて見ていきましょう。19世紀末から20世紀初頭、ブルジョワたちの注文を受けてガウディらによる建築が次々に作られました。ガウディが手掛けた作品では、グエル公園、カサ・ミラ、サグラダ・ファミリアなどが有名です。

カザ・バッリョー 外観 ART HOURS 編集部撮影

1906年に竣工したカザ・バッリョーは、ガウディによる住宅建築の最高峰とされています。曲線を取り入れたアール・ヌーヴォー的な外観も印象的ですが、展示される扉や椅子からは、内装にも曲線を取り入れていたことが分かります。ガウディは自然の構造にヒントを得て、「自然界には直線が存在しない」ことから、曲線や曲面によって建築を構成しました。

アントニ・ガウディ(デザイン)、カザス・イ・バルデス工房
《カザ・バッリョーの組椅子》1904-06年頃、カタルーニャ美術館
©Museu Nacional d’Art de Catalunya, Barcelona (2019)

直線を排した個性的なデザインが目立ちますが、組椅子は人間の体に合う柔らかな面から作られているそうです。ガウディはデザイン性だけでなく人間工学にも長けていたことが分かります。

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ただし、ブルジョワたちが煌びやかな生活を送る一方で、過酷な生活環境を強いられる労働者たちもいたことは忘れてはいけません。本展では、身なりの良い娘の肖像画と自動織機を操る娘の絵画の対比により、両階級の溝を浮き彫りにしています。

近代美術様式「ムダルニズマ」の登場

19世紀から20世紀初頭、芸術の中心地はフランス・パリでした。この時代に、画家のラモン・カザスとサンティアゴ・ルシニョルは、パリとバルセロナを行き来することで、最新の芸術様式や手法に触れて持ち帰り、故郷の芸術界をリードしました。

19世紀末、パリを中心とした同時代の芸術運動であるアール・ヌーヴォーや、中世の様式などから影響を受けた「ムダルニズマ(Modernismo, モダルニスモ)」という芸術様式がバルセロナに登場します。カザスとルシニョルはムダルニズマにおける重要な役割を担いました。

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カザスとルシニョルが中心となり、1897年6月にオープンしたカフェ兼レストラン「四匹の猫」をご存知でしょうか。「四匹の猫」の名称には、同時代のパリで芸術家の溜まり場となった「シャ・ノワール(フランス語で黒猫の意味)」への意識も込められています。

四匹の猫には芸術家たちが集まり、毎晩のように芸術談義が繰り広げられていたそうです。飲食の提供だけでなく、詩の朗読会や展覧会、人形劇、コンサートなども開かれました。シャ・ノワールで人気があった影絵芝居も上演されていました。

ラモン・カザス《影絵芝居のポスター》1897年、マルク・マルティ・コレクション
©Marc Marti Col・lecció

スペイン出身で世界的な画家であるパブロ・ピカソが、初めての個展を開催したのも「四匹の猫」です。幼い頃から絵の才能を発揮し、文字通り「大人顔負け」であったピカソは、1897年にマドリードの王立サン・フェルナンド美術アカデミーに入学しましたが、アカデミックな美術教育に失望して中退します。バルセロナの四匹の猫に通い始めたのは、その後の1899年頃からと言われています。

四匹の猫でピカソは、フランスに学んだ先輩画家や、同世代の画家たちとの交流を深めました。ピカソはムダルニズマの画家たちから影響を受け、またカザスらもピカソを気に入って、店のメニューの表紙のイラストなどを描かせます。初個展では、カザスの作品に着想を得た作品を発表するなど、若い世代からの挑戦を表明しました。

カフェ「四匹の猫」の内装

本展を通じ、バルセロナにおける芸術の発展に関わった人々の功績に思いを馳せることができます。カザスやルシニョルのように、海外から最先端の芸術を持ち込んだパイオニアがいて、ピカソのような若手が才能を発揮する機会を得ることができました。巨匠が若手を育てていくループによって、文化は発展していくのです。

絵画、彫刻、文学、音楽と様々な分野の表現者が集まり、議論を通してダイナミズムを起こそうとした点は、現代におけるビジネスのオープンイノベーションにも通じています。ときにぶつかり合いながらも闊達に意見を交わすことは、新しいアイディアを生み出すために欠かせません。いつの時代も、フラットな異種交流が新たなイノベーションを生み出したり、都市や国が進歩するきっかけとなったりすることが分かります。

ちなみに、「四匹の猫」は1903年に閉店しましたが、1981年には同じ場所に同名のレストランが開店しました。主に観光客向けのレストランとして営業しています。

【まとめ】『奇蹟の芸術都市バルセロナ』をビジネスパーソンらしく味わう

展覧会を読み解くヒントとして、芸術都市としてのバルセロナの発展についてお伝えしてきました。3つのポイントをまとめておきましょう。

①バルセロナの発展
②ガウディを始めとする新しい建築
③ピカソも影響を受けた近代美術様式「ムダルニズマ」

バルセロナの芸術史において特に興味深いのが、ピカソも入り浸った「四匹の猫」の存在ではないでしょうか。重鎮から若手へと芸術のバトンを渡し、若手が世界で活躍する画家に成長する、理想の組織のようにも受け取れます。パリへの憧れから始まり、パリを始め世界を席巻する芸術家を育んだとも捉えられるでしょう。

展覧会情報

『奇蹟の芸術都市バルセロナ』
会期:2020年2月8日(土)-4月5日(日)
休館日: 月曜日[2月24日、3月30日は開館]、2月25日(火)
開館時間: 10:00 - 18:00
※金曜日は20:00まで開館
※入館は閉館の30分前まで
会場:東京ステーションギャラリー
公式HP: http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202002_barcelona.html

文 美術ブロガー 明菜

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