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アーティゾン美術館と開館記念展に学ぶ常識破りの独創と先進

ヴァシリー・カンディンスキー《自らが輝く》1924年 石橋財団アーティゾン美術館蔵

美術ブロガーの明菜です。ART HOURSでは、「ビジネスパーソンが美術展から何を学べるのか」をテーマに、オフィスから飛び出してアートから学ぶお手伝いをさせていただきます。

さて、今回は2020年1月18日に開館したアーティゾン美術館をご紹介します。JR東京駅八重洲中央口から徒歩5分と、好立地にある美術館です。古代美術、日本近代洋画、印象派、20世紀美術、現代美術を中心に、幅広い時代や国の作品をコレクションしています。

クロード・モネ《黄昏、ヴェネツィア》1908年頃  石橋財団アーティゾン美術館蔵

ビジネスパーソンの皆さんは次の3つのポイントを参考に、独創性や先進性を美術館と展覧会から学んでみてはいかがでしょうか。

①アーティゾン美術館の快適な鑑賞空間
②イノベーションの連続としての美術史
③先進的なウェブ予約の取り組み

アーティゾン美術館について

アーティゾン美術館は、2015年から休館したブリヂストン美術館から館名を変更して開館した美術館です。ブリヂストン美術館は1952年に開館した、歴史のある私立美術館の一つです。休館中にも新たなコレクションを加え、この度アーティゾン美術館として開館しました。

《洛中洛外図屏風》江戸時代 17世紀  石橋財団アーティゾン美術館蔵

新築された美術館の展示室は4〜6階の3フロアに跨り、旧美術館の約2倍の面積に拡張されています。快適な鑑賞空間への工夫もあり、屏風などを展示するケースには横幅15mの継ぎのないガラスを採用し、シームレスに鑑賞できるようになっています。

2020年3月31日までは、開館記念展「見えてくる光景 コレクションの現在地」が行われています。次の章では展覧会について紹介しましょう。

時代や場所を横断する収蔵品

開館記念展では206点もの作品が、あらゆる切り口で紹介されています。多くの作品があるため、見る人によって捉え方は異なり、それぞれの楽しみ方ができることでしょう。

ギリシア《ヴィーナス》ヘレニズム時代(紀元前323-30年)  石橋財団アーティゾン美術館蔵

私が特に紹介したいのは、必ずしも作品が年代順に並んでいるわけではない点です。異なる時代や国の作品が一堂に会しているのを見れば、美術史が「イノベーション」の連続であったことが分かります。当時の常識をはみ出した作品を作る芸術家の発想は、現代のビジネスパーソンが求める思考と言えるのではないでしょうか。

例えば彫刻の展示では、古代エジプトや古代ギリシャの彫刻と、ブランクーシ(1876〜1957年)や、ジャコメッティ(1901〜1966年)などの作品が展示されています。

コンスタンティン・ブランクーシ《接吻》1907-1910年  石橋財団アーティゾン美術館蔵

理想的な肉体美を持つ古代ギリシャ彫刻に対し、左右から押しつぶされたようなジャコメッティの胸像や、2人の接吻をプリミティブに表現したブランクーシの彫刻が展示されているのです。作者の情報が無ければ、ジャコメッティやブランクーシの作品は古代ギリシャ彫刻よりも前に製作された、と勘違いしてもおかしくないでしょう。

これは美術史が「イノベーション」の連続であったことを示す一例ではないでしょうか。もし、彫刻の歴史が「理想の肉体美の追求」の一方向にしか進まないのであれば、ジャコメッティやブランクーシの作品は生まれません。近代に入り自由な表現ができるようになってきた時代を背景に、彫刻家たちは独創的な作品を作ったのです。

アルベルト・ジャコメッティ《ディエゴの胸像》1954-1955年  石橋財団アーティゾン美術館蔵

絵画の歴史においても、印象派が筆触分割によって色彩豊かな絵画を制作するようになったことや、キュビスムの画家が三次元の対象を面に解体して二次元に還元したことなど、数々のイノベーションが起こってきました。アーティゾン美術館の豊富なコレクションを比較すれば、絵画におけるダイナミックな変化も読み取れるはずです。

本展では、2800点を超えるコレクションの中から選りすぐった206点が、独自の切り口で紹介されています。古代文明の作品から現代アートまで、幅広い国や時代の作品を見られるため、人類の創造の歴史を一望できると言っても過言ではありません。それぞれの時代の常識を超えることで、新たな表現を獲得してきた美術をご覧になり、独創性を感じてみてはいかがでしょうか。

国内では珍しいウェブ予約チケット

アーティゾン美術館の入館は日時予約制です。この仕組みは国内では珍しく、新たな試みとして注目しています。

日時予約制とは、来館する日程と時間枠を決めたチケットをウェブで事前に予約する仕組みのことです。指定した時間枠で入館すれば、閉館まで好きなだけ美術館にいることができるもので、入れ替え制ではありません。

アーティゾン美術館 外観

当日チケットは、ウェブ予約チケットが完売していない場合のみ、美術館窓口で購入できます。ウェブ予約チケットの方が安い料金設定のため、来館日時が決まっていればウェブ予約の方が良いでしょう。

日時指定予約制は国内の美術館では珍しい取り組みですが、チケット購入の待ち時間の短縮や、展示室の混雑の緩和に役立つことが期待されます。海外の美術館では採用されているケースも多いのですが、アーティゾン美術館の取り組みの成否は、日本の美術館業界に定着するか否かに関わるとも考えられます。

左:ジーノ・セヴェリーニ《金管奏者(路上演奏者)》1916年頃、右:フランシス・ピカビア《アニメーション》1914年  石橋財団アーティゾン美術館蔵

例えば、オランダのゴッホ美術館では日時指定の事前購入チケットのみの販売で、窓口での当日券販売はありませんでした(時期によって異なるようです)。また、イギリスでは人気のある企画展で日時指定予約制を取っていることもあります。

私としては、時間を有効に使えるウェブ予約が日本にも導入されたら良いのに、と考えていたところで、僭越ながら我が意を得たりと感じています。アーティゾン美術館の新たな取り組みに対して腰が軽いことも、私立美術館の特徴であり尊敬するところです。

古賀春江《素朴な月夜》1929年  石橋財団アーティゾン美術館蔵

一方で、まだ日本では普及していないこともあり、予約制に違和感を感じてしまう方もいらっしゃるかもしれません。アーティゾン美術館が先陣を切って導入したシステムが、今後どのように受け入れられ、広がっていくのか、注目必須ではないでしょうか。

【まとめ】アーティゾン美術館をビジネスパーソンらしく味わう

美術館や展示を読み解くヒントとして、独創性や先進性についてお伝えしてきました。3つのポイントをまとめておきましょう。

①アーティゾン美術館の快適な鑑賞空間
②イノベーションの連続としての美術史
③先進的なウェブ予約の取り組み

新たに開館したので、コレクションや展覧会のみならず、建築や鑑賞空間、ウェブ上で行う日時指定予約制のシステムなどあらゆる点に注目したい美術館です。東京駅から徒歩圏内と好立地なので、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。

展覧会情報

開館記念展「見えてくる光景 コレクションの現在地」
会期:2020年1月18日(土) — 3月31日(火)
開館時間:10:00 — 18:00 (毎週金曜日は20:00まで/但し3月20日を除く)
 *入館は閉館の30分前まで
美術館HP: https://www.artizon.museum/

文 美術ブロガー 明菜

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