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冬休みはおうちで読書!
ART HOURS編集部が選ぶアート書籍10選!

こんにちは。ART HOURSでイベントレポートや書評などを書かせていただいているアートライターのかるびです。

ますます予断を許さない状況が続いているコロナ禍の下、お正月はゆっくりと自宅でNetflixを見たり読書したり・・・といった巣ごもりを決めている方も多いのではないかと思います。

そこで、美術館やギャラリーが閉まっているのであれば、本でアートを楽しんでみるのはいかがでしょうか。

アートライターという仕事柄、高額な専門書から新書や文庫レベルの入門書、マンガやライトノベルに至るまで、毎年かなりの数のアート系書籍を購入するようにしています。1年を振り返って書棚を見返して見ると、2020年は過去最高にアート書籍の出版が充実していた1年だったな、という印象です。

販売促進活動も思うようにできなかったこのような状況で、個性的で良質な書籍を世に送り出してくれた各出版社には、本当に頭が下がる思いです。

そこで、今回は年末年始の特別企画として、2020年度に出版されたアート書籍を中心に、「ビジネスパーソンがこの冬読むべきアート本特集」をお送りしたいと思います。早速見ていきましょう。

オススメ1:『13歳からのアート思考』(末永幸歩・著)

2020年、最もビジネスパーソンに読まれたアート書籍の一つでしょう。

昨今、 「アート」と「ビジネス」の関係性が見直される中で、 「アート思考」という言葉を本当によく耳にするようになりました。

アーティストの行動様式やアート鑑賞のメソッドなどをパッケージ化すれば、ビジネスシーンで使える思考のフレームワークとして応用できるのではないか、という発想が支持され、2019年頃から非常に多くの類書が発売されるようになっています。

本書もそんな背景から書かれた入門書の一つ。「アート思考」とは何なのかまず最初に解説し、そこから、古今東西の6つの作品を例に取り、アート思考を養うための作品の鑑賞法や楽しみ方、美術史の流れなどを丁寧に見ていきます。

内容的には非常にオーソドックスな本だといえます。

ですが、この本は売れるだけあって、非常に面白いのです。

タイトルが示すとおり、大人はもちろん、中高生レベルでも直感的に理解できるよう、オンライン授業の実況中継のようなテイストで、わかりやすいイラストや図版を多数使って進んでいきます。

また、各章(各講義)の最初と最後には、内容に応じて必ず自分で考えたり書いたりするための設問も用意されています。ただ読むだけでなく、読み進めながらアウトプットも自然にできるように設計されているのが嬉しいところ。

副題が示す通り、アートを通して「自分だけの答え」を見つけ出すための素晴らしい入門書でした。

オススメ2:『知覚力を磨く』(神田房枝・著)

「アート思考」についての本は、最初にご紹介した『13歳からのアート思考』でしばらく十分だな・・・と思っていたのですが、2020年秋になってからまたも良書が発売されました。

それが本書『知覚力を磨く』です。

アートから得られる思考のフレームワークを磨くのも大事ですが、それ以前に、私たちはそもそもちゃんと物事をフラットに「見る」ことができているのだろうか。と問いかけるのが本書を書いた神田房枝氏。

神田氏は、人間の知的生産のプロセスを「知覚→思考→実行」という3ステップで分けられるとし、その第1歩である「知覚」、つまり目の前の情報を正しく観て解釈する、ということが、そもそもできていない人が多いのではないか、と分析します。

確かに、物事を正しく見て把握することがきちんとできていなければ、どんなに頭の回転が速くても、インプットの大元が間違っているのですから良い仕事ができるわけがありません。

そこで神田氏は知覚力をアップするためには、「美術館で絵画を観察してみること」が最適解であると推奨。本書後半では、 美術館で絵画を鑑賞する際、自分の知覚力を磨くために最適な鑑賞法を詳細に解説しています。

でも、なぜ、美術館で絵画を見ることが、物事を正しく把握する力を身につけることにつながるのでしょうか。

それは、美術館というある種生活空間から切り離された非日常的な空間の中で見慣れない「絵画」と向き合う時、視覚的な刺激以外の余計な雑念をシャットアウトして、フラットな目線で作品全体を見やすくなるからですね。要するに、美術館は「見る」ための良い訓練場になる、ということです。

本書では、こうした美術館の中で知覚を磨くための具体的な方法論をたっぷり詳述。この本を読み終えたら、すぐに美術館に行ってみたくなるはずです!

オススメ3:『絵を見る技術』(秋田麻早子・著)

『知覚力を磨く』では、主に「見る力」を養うために、絵を観察するための具体的な方法論について詳述しています。

実はこの『絵を見る技術』でも同様に絵を観察するための具体的な技術を中心に取り扱っているのですが、本書では、アーティスト側が絵画を魅力的に見せるために様々に駆使してきた技法に焦点を当てて掘り下げているのが特徴。

歴代のオールドマスターの名作を使って、巨匠たちが絵の中へと入念に仕込んだ「構図」や「色彩」の妙技の数々を、体系立ててたっぷりと解説してくれます。

非常に印象的だったのが、とにかく絵画に線を引いてみると、様々な構図上の工夫が浮き彫りになってくるということ。たっぷりの図解で、名画の構造が丸裸にされていきます。

初級者向けに絵画鑑賞のコツを指南する入門書は、過去何百冊と出版されてきましたが、これだけ作品の「形」と「色」に着目し、わかりやすく整理してくれている本は非常に珍しいと思います。徹底してロジカルに絵を分析する楽しみを提案してくれる良書でした。

オススメ4:『美術の経済』(小川敦生・著)

書店では、流行の「アート思考」系の本だけでなく、アートとお金の関係性をまとめた本も最近よくビジネス書コーナーで見かけるようになりました。

「アート」と「お金」の関係性を論じた本は、これまでギャラリーのオーナーやオークショニア関係者など、アート業界の中でもお金に最も近い人々が著者となる傾向にありました。したがって、本の内容もアートマーケットの動向やギャラリーやオークションの楽しみ方、業界の課題、現代アートの特徴、といった切り口が一般的でした。

その点、本書『美術の経済』は、長らく美術ジャーナリストとして活躍され、現在は大学教授を務める著者が書いただけあって、話題の幅広さ、バランスの良さが好印象でした。

例えば、ルネサンス時代の画家や江戸時代の狩野派、あるいは幕末~明治の浮世絵師や洋画家が一体どのようにして生計を立てていたのかといった話題から、美術館や展覧会とお金の関係、美術商の営む最新のビジネス動向やその特徴、課題など、興味深い切り口がいくつも用意されています。

元経済紙記者らしい、軽快で読者の興味をかきたてるような語り口も面白く、ぜひお休みの間に一気読みしてみたい読み物です。

オススメ5:『現代アート入門』(デイヴィッド・コッティントン・著)

ショッキングピンクで彩られた表紙の題字、『現代アート入門』というキャッチーなタイトルに、中身も確認せずに購入したのですが、読んでみると、全く入門書ではありませんでした(笑)。

一瞬、「やられた!」と思ったのですが、気を取り直して読み進めてみると紛れもない良書でした。

本書では、モダン・アートの起源をエドゥアール・マネが発表した有名な《草上の昼食》に置き、そこから2000年代までの美術史の流れを、社会や制度、メディアとの関係性の中でじっくりと見ていきます。

マネが1863年の落選者展で人々の嘲笑を浴びてから約150年、未だに現代アートは、時に行き過ぎた(かに思える)前衛性のおかげで、意味不明で不愉快で、バカバカしく思えるような作品も数多く存在します。しかしその一方で、現代アートの展覧会は世界中で史上空前の大ヒット中。多くのファンを虜にしています。

元々、既得権益や商業主義と結びついた既存の伝統的権威から分離し、前衛的な存在であり続けようとしたモダン・アートが、今や美の殿堂としてアート界を支配する美術館とがっちり組み合い、商業主義のど真ん中へと躍り出つつあるわけです。

そして、モダン・アートが前衛的な存在であり続けるためには、唯一無二のオリジナルとなることが絶対条件となりますが、そもそも資本主義を推進する原動力こそが「オリジナリティ」であるというのも大いなる矛盾ですよね。

こうした数々の矛盾を抱えながら約150年間の発展の歴史を歩んできたのがモダン・アートである、と本書では結論づけてから、モダン・アートの抱えるこのような矛盾の原因はどこにあるのか、複雑に絡み合う問題の要素を美術史の流れを追いながら紐解いていきます。

確かに、理解には時間を要する専門書クオリティの書籍ではあるのですが、現代アートの本質を理解するには逆に近道になると感じました。約200ページとコンパクトなので、まとまった時間が取れる冬休みを活用して、こうした骨太な書籍にも挑戦してみてはいかがでしょうか。

オススメ6:『西洋美術とレイシズム』(岡田温司・著)

2020年は、アメリカで起きた1件の人種差別事件をきっかけに、「BLACK LIVES MATTER」運動など、世界中でレイシズムと戦い、乗り越えようとする活動が盛り上がった1年でした。

では、こうした人種差別は、なぜ人権意識が高まった21世紀にも根強く存在し続けているのでしょうか?

その一つの答えとして、西洋絵画、とりわけ「キリスト教美術」を題材に描いた宗教画の中に見いだせるのではないか、と分析しているのが本書です。

識字率が低かった時代、西洋の人々を啓蒙し続けてきたのは宗教画でした。キリスト教美術は、古代ローマ以来約2000年の歴史を誇りますが、この間、絵の中に埋め込まれた人種差別的なイメージやメッセージが、無意識に人々の心へと刷り込まれ続けたらどうでしょうか。

本書は、いわゆる専門書ではなく、中高生を対象とした若い読者でも読める「ちくまプリマー新書」からの出版。豊富なカラー図版を見ながら、宗教画の中の人種差別の歴史をわかりやすく紐解いてくれます。

決して楽しいトピックではありませんが、ますますビジネスパーソンにコンプライアンスが厳しく求められるようになった昨今、時事的にもホットな話題とリンクした教養を頭に入れておくのは悪くはないと思います。

オススメ7:『ホンモノの偽物』(リディア・パイン・著)

美術品や骨董品にまつわる面白い話には「真贋」についてのエピソードがつきものですよね。実際、こうした真贋鑑定にまつわる裏話をまとめた読み物や、サスペンス仕立てで読めるフィクションはそれほど珍しくありません。

最初、本書を手に取った時は、「海外の翻訳モノだから出来の良いニセモノを巡るノンフィクションなのだろうか」と思い、とりあえず購入しておいたのですが、自宅に帰ってから読んでみてびっくり。想像したよりも、斬新な面白さが感じられ、徹夜で一気読みしてしまいました。

ここで、本書のタイトルをもう一度しっかりと見てください。

「ホンモノの偽物」と書かれているように、本書は「偽物」や「模造品」「レプリカ」が本物並みに価値を持ってしまった奇妙な10の事例を掘り下げて紹介。軽快な筆致で、「一体本物の価値とは何なのか」という問いを読者に鋭く突きつけてきます。

たとえば、本書の第1章で紹介されているのは、贋作が人を騙さなくなった時、それは本物同様の存在となってしまうという皮肉。19世紀末に活動した「スパニッシュ・フォージャー」と呼ばれた贋作者による中世の装飾写本は、あまりにもクオリティが高いため、その贋作自体が価値を持ち、オークションで高額取引されています。

時間を忘れて一気読みしてしまいました。アートにまつわる面白いストーリーを求めている人には特にオススメのノンフィクションでした。

オススメ8:『100 IDEAS THAT CHANGED ART』(MICHAEL BIRD・著)

先史時代から数えると、これまで西洋美術史は約30,000年の歴史を重ねてきました。その中で、美術史の流れを変え、新しい潮流やコンセプトが生まれるきっかけになった画期的な「アイデア」が存在します。

本書では、クロマニヨン人が「アート」を発明して以来、美術史を変えてきた画期的な「アイデア」を100に分けて体系的に紹介。

たとえば、本書では「油絵具」や「キャンバス」など道具の発明、「キアロスクーロ」といった絵画技術の発展、「アカデミズム」「インスタレーション」といった制度やコンセプトであったり、美術史を形作った多種多様の要素が取り上げられます。

それぞれの「アイデア」がどのように生まれ、美術史の中でどう発展してきたのかを豊富なビジュアルと共に紹介。美術史の大きな流れを、100の個別の視点から俯瞰できるので、通常の美術史本を読むときとは一味違う面白さがありました。

実は本書は、世界中で売れているベストセラーであるにもかかわらず、未邦訳の洋書なのです。

ですが、非常に流通量も多く日本でもネット/実店舗を問わず購入が可能ですし、平易な英語で書かれているので、英語の勉強にもなると思い、思い切ってオススメに入れてみました。

日本語で読むよりは少し時間を要するかもしれませんが、ベッドサイドに置いて寝る前にパラパラ1項目ずつ観ていくだけでも非常に楽しめると思います。

オススメ9:『図説 モネ「睡蓮」の世界』(安井裕雄・著)

日本で一番人気のある西洋美術の巨匠といえば「モネ」が思い浮かぶ人も多いのではないでしょうか?しかし、ここ2~3年、大型の展覧会が開催されていないためか、フェルメールやゴッホに比べるとめっきり書店でモネの本を見かける機会が減りました。

そんな中、2020年夏に出版された要注目の画集が本書『図説 モネ「睡蓮」の世界』です。著者は、モネ研究にかけては日本屈指の気鋭の学芸員・安井裕雅氏。

今回安井氏が挑んだのが、モネが描いた「睡蓮」に関連する全作品全てを図版とともに紹介する、という凄まじい取り組みです。

モネは、1883年にパリ郊外のジヴェルニーへと移住すると、広大な土地を購入し、自邸に睡蓮の浮かぶ「水の庭」を造成します。特に20世紀に入ってからの晩年期以降、彼はその自慢の睡蓮の池をライフワークとして亡くなるまで精力的に描き続けました。

その間、モネが描いた「睡蓮」作品は全部で300点以上。もちろん、世界中のコレクターや美術館に分散して保管されているわけです。この全世界に散らばったモネの睡蓮を一つ一つ比較検証し、彼の晩年の活動とリンクさせて丁寧にまとめあげた労作が本書なのです。

これは本当に凄い。読めば 必ず新しい発見があります。 正直なところ「もうモネは飽きた」と思われている方にこそ、ぜひ楽しんで頂きたい良書です。

オススメ10:『新版画作品集 なつかしい風景への旅』(西山純子・著)

2021年上半期の美術展でトレンドとなりそうな意外なジャンルが「新版画」です。

新版画とは、江戸時代の浮世絵の流れを汲み、大正~昭和前期の約50年間、輸出向けの美術品として販売するために作られた木版画です。いわゆる「自画自刻自摺」スタイルの創作版画とは違い、江戸の浮世絵制作同様「絵師・彫師・摺師」の分業体制で制作されました。

1960年代に衰退し、ジャンル自体が消滅。その後約50年間、一部のマニアを除き全く知られていない日本美術のマイナー分野に過ぎませんでした。

しかし、ここ数年で状況が変わってきました。 浮世絵ブームや日本美術ブームを背景に、一気にブレイクの兆しが出てきているのです。

特に2021年上半期は、笠松紫浪展(太田記念美術館)、川瀬巴水展(SOMPO美術館)、吉田博展(東京都美術館)とたて続けに力の入った回顧展が東京で相次いで開催されます。

その新版画について、初心者でも楽しめる画集の決定版が本書「新版画作品集」なのです。特に、日本各地の名所を叙情的なタッチで表現した風景画は絶品。ノスタルジックで心に染み渡るような詩的な風景美を、ぜひ展覧会と合わせて味わっていただければと思います。

2020年のアート書籍は楽しく学べる良書揃い。まとまった時間のある今だからこそ是非!

2020年~2021年の年末年始は、普段よりもちょっと長い冬休みを取得するビジネスパーソンもかなりいる、とニュース報道をみかけました。この冬、楽しみにしていたイベントや旅行を中止せざるを得なかった方も多いと思います。

そんな時、ぜひ手にとっていただきたいのが上記で紹介させて頂いた10冊です。他にもまだまだ良書はありますので、じっくりご自分で探してみるのもいいですね。年末年始は私たちと一緒に読書の冬を楽しみましょう!

文・写真 かるび

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