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『AKI INOMATA: Significant Otherness 生きものと私が出会うとき』に学ぶゼロベースの発想力

AKI INOMATA《やどかりに「やど」をわたしてみる-Border-》

美術ブロガーの明菜です。ART HOURSでは、「ビジネスパーソンが美術展から何を学べるのか」をテーマに、オフィスから飛び出してアートから学ぶお手伝いをさせていただきます。

さて、今回は『AKI INOMATA: Significant Otherness 生きものと私が出会うとき』をご紹介します。AKI INOMATA氏の日本の美術館では初となる個展が、2020年1月13日(月)まで十和田市現代美術館にて開催されています。INOMATA氏は、生き物の生態をアートに昇華させ、鑑賞者に驚きと発見を与える、新進気鋭の現代美術家です。

INOMATA氏は2019年のアート・バーゼル香港で、MAHO KUBOTA GALLERYから作品を発表しています。

この記事では、ビジネスパーソンに特に注目していただきたい点を3つご紹介します。展覧会で気づきを得るきっかけにしていただければと思います。

①生き物が主役のアート
②クリエイティブを支えるゼロベースの発想力
③レアケースとなる美術館での生体展示

生き物の生態で人間の社会の課題を表現

AKI INOMATA《やどかりに「やど」をわたしてみる-Border-》

AKI INOMATA氏の代表作といえば、《やどかりに「やど」をわたしてみる》でしょう。本作は作家が3Dプリンターで制作した殻をヤドカリと同じ水槽に入れ、住み替えてもらうことによって成立します。

殻は東京やパリなど各国の都市を模しており、ヤドカリは引っ越しによって世界中の都市を行き来します。ヤドカリの行動に人間の移住を重ねることができ、移民や難民といった世界の問題にも思いを巡らせることができるでしょう。

AKI INOMATA《girl, girl, girl,,,》

女性の衣服を刻んでミノムシに渡し、まとってもらった《girl, girl, girl , , ,》も興味深いアートです。ミノムシのメスは蓑をまとってオスに見染められるのを待ち続ける習性があるそうで、人間の女性が着飾る理由の一つともリンクしています。

他にも、ビーバーに渡して囓られた木材の形に近代彫刻との類似性を読み取ったり、アサリの成長線の分析によって東日本大震災や復興に伴う工事などをアサリの視点で考察したり、興味深い作品ばかりです。

INOMATA氏の制作において肝要なのは、生き物が制作の主役となっている点です。人間とそれ以外の生き物は対比されることが多いのですが、INOMATA氏の作品を通すと両者が対等に感じられます。また、生き物の生態から人間の社会や文化を感じ取ることができ、不思議な体験もできるのです。

生き物の視点でアートを作るゼロベースの発想

AKI INOMATA《やどかりに「やど」をわたしてみる-Border-》

INOMATA氏の作品は、生き物の生態によって人間社会を考えさせる特徴があります。ヤドカリが引っ越しをする性質や、ミノムシが枯れ葉をまとう性質を利用した作品は、いずれも作家と生き物の共同作業によって生まれています。人間とその他の生き物との間に上下関係は無く、対等な関係と言えるでしょう。

同じことは、「〜してみる」といった実験を思わせるタイトルからもうかがえます。INOMATA氏は生き物の自然な行動を尊重しており、その結果として観察される現象を鑑賞者が考察することで、アートとして成立するのです。決して、人間が「アートになるように」生き物を誘導しているわけではありません。

AKI INOMATA《彫刻のつくりかた》

アートの世界には「バイオアート」というジャンルがあり、INOMATA氏もその文脈で捉えられることが多々あります。バイオアートとは、生命科学やバイオテクノロジーを応用した芸術表現のこと。しかし、バイオアートに位置づけられる作家の中でも、彼女ほど生き物の自然な行動を尊重して作品を作る作家はいないでしょう。

制作の多くを生き物に委ねたINOMATA氏のアートは、非常に飛躍した発想に基づいています。なおかつ、見る者を納得させる説得力があるアートなのが魅力と言えるでしょう。

独自の作品は、生物についての既知の知識はもちろんのこと、ゼロベースでの発想力が大きく寄与しているのではないでしょうか。ビジネスパーソンがアイディアを生み出すのに必要なクリエイティブさを、INOMATA氏の作品から学ぶことができます。

美術館における生体展示の挑戦

AKI INOMATA《やどかりに「やど」をわたしてみる-Border-》

通常、美術館には動物や植物を持ち込むことができません。ペットや花束を持って展示室に入ろうとすれば、美術館のスタッフに止められるはずです。これは展示作品を害虫やカビの発生をから守るためのルールなのです。

しかし、今回の十和田市現代美術館の展示では、ヤドカリやミノムシの生体展示が実現しました。休憩中や冬眠中で動かない可能性はありますが、都市を背負うヤドカリや女性の衣服をまとうミノムシを実際に見られる貴重な機会です。

【まとめ】『AKI INOMATA: Significant Otherness 生きものと私が出会うとき』をビジネスパーソンらしく味わう

AKI INOMATA《Lines-貝の成長線を聴く》

展覧会を読み解くヒントとして、AKI INOMATA氏の作品や美術館における生体展示についてお伝えしてきました。3つのポイントをまとめておきましょう。

①生き物が主役のアート
②クリエイティブを支えるゼロベースの発想力
③レアケースとなる美術館での生体展示

特に生き物の生態をアートに変容させ、人間社会に目を向けさせるINOMATA氏の発想力に驚きました。常識に捉われないゼロベースの思考によって独自の発想が生まれることを学べる、ビジネスパーソンにとっても有意義な展覧会です。

展覧会情報

展覧会名:AKI INOMATA: Significant Otherness 生きものと私が出会うとき
会場:十和田市現代美術館(青森県)
会期:2019年9月14日(土)~2020年1月13日(月)
休館日:月曜日(祝日の場合はその翌日)、12月28日(土)〜1月1日(水)年末年始休館
開館時間:9:00-17:00(入館は閉館の30分前まで)
展覧会公式HP:http://towadaartcenter.com/exhibitions/aki-inomata/

文 美術ブロガー 明菜

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