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24歳で美大に入学。遅咲きの苦労人がキャンバス上に見出した根源的な「美」とは?
−2BC株式会社 御手洗友昭×アーティスト 和田直祐

ArtScouterでは「ビジネスシーンにアートによるコミュニケーションを生み出すこと」をビジョンに掲げ、はたらく場へのアート導入事例をご紹介してきました。

この度、オフィスにアート作品を導入した企業経営者と、その作品を制作したアーティストが自由に語り合って頂く新たな対談企画をスタートいたしました。

その記念すべき第1弾となる今回は、アートへの造詣・理解が深い株式会社2BC・御手洗友昭さんと、2BC社内で現在飾られている「Including box #7」を制作された和田直祐さん(TEZUKAYAMA GALLERY所属)の対談をお送りします。

どのような視点で作品の購入を決断されたかという経営者側の視点、アーティスト側の作品制作プロセスや制作意図を両サイドから把握することで、オフィスに対するアート導入への視点を深めて頂ければ幸いです。

滋賀県のアトリエに滞在中の和田さんと、株式会社2BC本社をつないでのオンライン対談となりました。対談冒頭で御手洗社長と和田さんの年齢が近く、さらに御手洗社長の生まれ故郷、そして和田さんにとって第二の故郷が共に京都芸術大学・瓜生山キャンパスの近くだったという共通点を発見し、お二人は意気投合。本記事は、その直後からスタートします。

オンラインでの対談となりました。

洋漆(カシュー)という素材を突き詰め到達したオリジナリティ

―さて、場も温まったところで、まずは今回御手洗社長が購入された「Including box #7」について作品の特徴や、使用した素材、制作工程などをお伺いできますか?

和田:まず、「Including box #7」で特徴的なのは素材ですね。一般的なアクリル絵具や油絵具ではなく、「カシュー」というペンキを少し変性させた日本独自で開発された材料を使っています。カシューは、洋漆とも言われていて、漆の代用品として使われることが多い素材です。

御手洗:なるほど。

和田:樹脂と塗料の中間のような特徴なんです。乾いて固まると非常に硬くなるので、上からサンダーで研磨したり、カッターで切り取ったりでき、何層もレイヤーを重ねてグラデーションを作っていくような微細な加工もやりやすいんです。

―カシューには、絵具みたいに最初から着色されているのですか?

和田:そういう種類もあります。でも僕が使っているものは、もともと透明・無着色のタイプです。

御手洗:そうなんですね。

和田:その代わり、使う時には自分で着色して、透明感を生かした状態で重ね塗りをするようにしています。だから、鑑賞者が見た時に、光源の強弱によってグラデーションが見えたり見えなくなったり変化するように感じられるのです。

水辺に浮かぶ木の葉が見えたり見えなくなったり一瞬一瞬変わるような、映像的な要素を絵画に盛り込めたら。そう思って、学生時代から足掛け5年以上もカシューを研究し続けています。

御手洗:メディウムとしてカシューを研究されているのですね。

和田:そうです。学生時代、メディウムを特徴的にして絵画表現を膨らませられないかということに取り組んでいました。その延長上で、加工がしやすくて特徴的なメディウムとしてカシューを見つけて研究を続けるかたちになりましたね。

―ちなみに、この作品は制作を完了するまでどれくらい時間がかかっているのでしょうか。

和田:1レイヤー仕上げるのに丸1日かかります。平均すると25レイヤー、多いものだと30レイヤー程度なので、およそ1ヶ月程度ですね。

―なぜこのような作風にしようと思われたのですか?

和田:僕は学生時代から絵画における「素材」や「マチエール」に興味があり、透明な表現やグラデーションを扱った表現など、色々と試行錯誤を重ねてきました。

当時は特に作風を意識することなくやっていましたが、僕が抽象絵画に取り組み始めてからの過去のヒストリーを振り返ってみると、特に透明な表現について突き詰めて研究してきたことが軸になっていると感じますね。それを自分の中で自覚できたのがここ3~4年ぐらいです。

Including box #7 ©︎和田直祐(TEZUKAYAMA GALLERY所属)

24歳で美大入学を決めた遅咲きのアーティスト

―現在はアートフェア等での展示会では和田さんの作品は凄い人気です。ですが、作風が固まる前、つまり30歳前半くらいまでは色々と悩みながらご自身の作風を検討されていたのですね?

和田:たとえば大学院在籍時から卒業してすぐの頃は、画面が真っ暗な作品なども作っていましたね。美術館やギャラリーなどで作品が展示されるスペースって、たいてい白壁ですよね。そこにコントラストの強い「黒」を飾ると、ほぼ真っ黒にしか見えなくなるものですが、そんな中でもテカリのある黒、マットな黒など色彩に微細な変化をつけて、人間が受ける光の影響や効果を追求する作品を作り続けていました。

―今とは全く違う表現方法を研究されていた時代があったのですね。ちなみに、いつ頃アーティストになろうと決意されたのですか。

和田:実際に本格的にアーティスト活動と呼べるほどの活動ができるようになったのは、まだ今から3年前くらいなんです。ただ、決意した、といえるのは23歳の時です。僕は、普通の人よりもかなり遅い24歳の時に京都芸術大学に入学しました。高校時代に美術の勉強をしていたのですが、大学受験が上手く行きませんでした。2浪後に進学をあきらめて一度就職しているんです。当初は仕事しながら美術の勉強を独自に続けようと思っていたのですが、やはりちょっとずつ美術から遠ざかっていってしまっていたのですね。

でも思い起こすと、自分が美術に取り組んでいた時代が一番精神的に充実していた時だったので、23歳になってから改めて美術にチャレンジしたいと思い直しました。そこから美術大学に入る、ということになりましたね。

御手洗:今、京都芸術大学では大庭大介さんや椿昇さんなど有名な作家が教えていらっしゃいますが、やはり在学中の活動は彼らの作ったコンセプトや考え方などに影響を受けることもありましたか?

和田:京都芸術大学が今のようなカリキュラムになったのは僕が卒業してからです。大庭さん、椿さんとは卒業後アーティスト同士の立場で交流があるのですが、そういう時に京都芸術大学ならではの先輩後輩の人のつながりのかけがえのなさを実感しています。

御手洗:確かに京都ではそうした人と人の連綿とした繋がりの良さを実感しますし、ありがたいですよね。アーティスト活動のために様々なオルタナティブがある東京とは違って、京都では活動拠点や選択肢も限られていますからね。

―そういう意味では、現在和田さんが所属されているTEZUKAYAMA GALLERYとは最初どのように出会われたのですか?

和田:TEZUKAYAMA GALLERYと関係が深い、あるコレクターさんが猛烈に推薦してくれたおかげなんです。その方は、「ARTISTS’ FAIR KYOTO 2019」というアートフェアで僕の作品をひと目見て5秒で購入を決めてくれたんです。

―5秒で?!それは凄い!

和田:それで、そのコレクターさんつながりでTEZUKAYAMA GALLERYさんからも声がかかるようになり、ギャラリーでの展示をはじめ、東京の天王洲や、新宿のLUMINEで開催されたアートフェアにも出展させて頂けるようになったんです。

―すると、大学卒業後はしばらくインディペンデントなアーティストとして活動されていたのですか?

和田:そうですね。本当に自営業というか(笑)。卒業してから3年くらいは自分で営業活動をしたりして、下積み生活が続きました。活動の幅を広げるにも金銭的な制約が大きくて、仲間と複数人でスタジオをシェアしたりして、いろいろやりましたね。

―凄い・・・!本当にご苦労なさっていたのですね。

まるで枯山水の中で座禅を組んでいる感覚に?和田作品の不思議な魅力とは

―御手洗社長、改めて「Including box #7」を社内に飾ってみた感想を教えて頂けますか?

御手洗:そうですね。当社はIT業界の経営者の方をお客様として、お客様がどういったビジネス変革をしていくかという領域のコンサルティング業務を主に手掛けているのですが、昨今は変化が急速に訪れるので、単にイノベーションを繰り返すだけではどうにもならないことが起こりがちです。乗り越えるためにはパラダイム・シフトみたいなものを起こしていかないといけないという・・・。

和田:はい。

御手洗:一方で、日本のIT業界は昭和から平成と常に右肩上がりで成長を続けられた幸運にも恵まれたこともあって、今のコロナ禍のような急激な変化を前にしてもなかなか頭が柔らかくなりません。それを懸念している我々としては、常に頭を柔らかくしておかなくてはいけないと思っているんです。

―そこでアートの出番というわけですね。

御手洗:そうなんです。アートと対面する時、自分自身を見つめることでそこにコアな美のようなものを紡ぎ出すような感覚があって、非常に頭が柔らかくなるんです。だから、社内には抽象画ばかり飾っています。僕は、和田さんの作品を見ていると、京都の中で大徳寺などの禅寺に行った時と似たような感覚を抱くんです。

和田:はい。

御手洗:枯山水に囲まれて座禅を組んだ時、自然の美や変化を鋭敏に感じ取れる瞬間がありますよね。先程、「水辺に浮かぶ木の葉は、色が変わったり見えなくなったり一瞬一瞬変化していく、そんな微細な感覚を絵の中に表現したい」と和田さんが仰ったことと、どこか似ている気がします。

世の中の流れや動きは原理原則としては変わっていないのですが、見る人の見方や時代によって変わるものだと思うんです。和田さんの作品と向かい合っていると、世の中の変化を感じながらも、本質を見抜くことができる。そんな感覚が持てるんです。

和田:ありがとうございます。

御手洗:作品を描き上げた瞬間、絵の中に何か閉じ込めたなという感覚があったりするものですか?

和田:そうですね。(何回もレイヤーを重ねて)出来上がった絵画には、最上部に一つ物理的に提示された表面があります。でも、表面をふわふわしたような表現にしているので、そこを透過していくと、何か新しい表面が見つかるかもしれません。どんどん絵の表面を透過して、奥に入り込んでいって視点を伸ばしてみて下さい。

人間の皮膚で例えてみましょうか。皮膚って、なんとなく肌色や茶色に見えますよね。でも、実際には結構透明なんです。顕微鏡などで見るともの凄く透けていて、どんどん内側へ入り込んでいくことができます。テクノロジーの進歩とともに、どんどん細かい場所、より小さいものを発見していくような感覚で、絵を見てほしいんです。

透過して進む、視点が延びていくということは、時代とともに進歩するテクノロジーのおかげで、身の回りのものがどんどん小さくなっていく感覚とどこかつながっていると思うんです。作品を見ながら、そういった感覚を感じて頂けたら面白いですね。

アーティストとしての成長につながる「黒歴史」をつくりたい

―最後に、アーティストとしての今後の展望を教えて頂けますか?

和田:長期的な視点に立って、自分のアーティストとしての価値を高めていきたいという思いはありますね。そのためには、作品そのものの価値を上げるだけでなく、僕自身の言動や人物像というかアーティスト像みたいなものを対外的に発信していきたいなと思っています。

具体的にはどういった活動を行っていかれる予定ですか?

和田:僕自身のアーティスト活動を振り返ってみた時、いい意味でネタになる「黒歴史」を作るというか(笑)。

―ええっ?!(笑)。それはどういう意味なのでしょうか?!

和田:これから10年先に僕のアーティスト活動を振り返ろうというときが来るかもしれない。その時に備えて、僕がどのようにしてここまで活動してきたのかというヒストリーを作っていくのが結構大事だと思うんです。

その時に、絶対あいつの行動パターンからは外れているだろうという活動などもしておくと、良い意味でインパクトにつながったりするのではないかと(笑)。今、美術史で語られる巨匠だって結構普通にそういう意外性のあるエピソードを残していますよね。

僕のいう黒歴史というのはそういう意味なんです。もちろん、何か無理やりそういったヒストリーを作り出すのは遠回りだったり、不自然だったりするかもしれないですけど(笑)。今は、そういったヒストリーの作り方を工夫したいと思っています。

御手洗:今、滋賀県と京都府の県境にある山中にアトリエを構えていらっしゃいますよね。そこは、和田さんにとってアートな生き方を実現できる場所なんですか?

和田:そうですね。ここは、一歩手前の段階から制作が始まるような感覚が味わえる特別な場所なんです。絵画を作り出す時、普通はどういう画面に仕上げるか考えますよね。でも、ここは、制作する場所を考えたり、周りの環境も含めて考えなくてはいけなくて、通常では煩わしく感じるところから取り組む必要があるんです。

スポーツに例えて言うと、体を作るのに必要なウエイトトレーニングをする以前に、より筋肉がつきやすい食べ物や食習慣の追求からスタートするような感覚です。そういった一歩手前のなにか本当に根源的なところから作るみたいな。そういうところを考えさせてくれるような場所なんですよ。ここが。

御手洗:非常に心地よい場所なのですね、そこは。

和田:そうですね。なので、それが先程言った「ヒストリーを作る」というところにつながると思っているんです。ペインティングというジャンルは、絵画として壁に飾られていたら「これは美術作品だな」とみんなわかるように、非常に規格性の高いメディアなんですよね。

言い換えると、数ある美術ジャンルの中では比較的作りやすいものなんです。それをわざわざ一歩前の段階から作るというのは、普通に社会人の枠組みの中で仕事をしている人から見ると、無用な手間としてなにかと相性が悪かったりするのですが、それをあえて経験してみる。そのことで、ヒストリーにつながる何かを得られたら、と思ってやっていますね。

御手洗:凄いですね。でも私も和田さんと同じで、(生まれ故郷の京都を離れて)東京・渋谷で働くこと自体が私にとって「黒歴史」になっているかもしれないです。

宮下公園が見える私のオフィスは、造形的には居心地が悪いという場所ではないのですが、東京にいると色々な関係性がまとわりついてくるので、この中で強い中間物の中で生きていること自体が私にとっては黒歴史だな、と感じます。

だから、山奥のアジトみたいなアトリエで、和田さんは今凄く良い時間を過ごされていらっしゃるのかな、という印象を受けました。むしろ自由というか。うらやましいです、それは。

―そろそろお時間になります。本日はありがとうございました。

御手洗:和田さん、ありがとうございました。こちらで失礼します。

和田:ありがとうございました。

文 かるび / 写真 ArtScouter事務局

●ArtScouterで取り扱っている和田直祐さんの作品はこちらから

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様々な色が交わってひとつのものを構成する チームの在り方を象徴するアート −2BC株式会社 御手洗友昭

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