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「自分はこんなものが好きなんだ」を気づかせてくれるのがアートの魅力
—東京画廊+BTAP

2019.04.22

Artwork: ©︎Kim Hong Joo

東京画廊 社長   山本 豊津 さん

1948 年東京都生まれ。武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。東京画廊社長の他に、全国美術商連合会常務理事やアートフェア東京のコミッティー、全銀座会の催事委員などを務める。著書に『アートは資本主義の行方を予言する』( PHP 新書)、『コレクショ ンと資本主義』(角川新書/水野和夫氏との共著)。



1 点ではわからなくても、3000 点見れば「自分の好き」がわかる

—東京画廊について教えてください

山本氏 1950 年に銀座にオープンした、日本で最初の現代美術画廊です。

画廊という場所の役割は、アーティストや美術にまつわる運動などを世に知らしめることですから、東京画廊でも年に8 回ほど、アーティストと組んで展覧会を開いています。

明治時代以降、油絵という西洋的な技法が日本でも発展してきましたが、日本の風土に合った西洋絵画を紹介していくことが東京画廊のコンセプトです。

取り上げるのは、世界が美術的にどう変わっているかや、日本のアーティストがどう変わってきているかを説明できるような流れを作っている作家が多いです。

日本にはたくさんの画廊がありますが、こうしたコンセプトの違いが画廊の個性になっています。画廊はものを作らないので、選ぶということでコンセプトを作っているわけ です。

だから、コレクターは作品のコレクション、画廊は作家のコレクション、そういうふうに分けてもいいかもしれませんね。

—その中で、画商の仕事とはどのようなものでしょうか?

山本氏 アーティストをマーケットに出していくための発掘と紹介が主な仕事です。

時には編集者のように、アーティストに具体的なアドバイスをすることもあります。また、画廊に絵を見に来られる方に作品を説明することも大事な役割です。

私の場合は、その作品が持っている歴史的な文脈をお客様に説明するようにしています。個人の感情で「これが面白い」みたいな伝え方はしません。

なるべく客観的な言葉に置き換えて、 お客さまに納得していただけるよう気をつけています。

—山本さんが考える、絵を選ぶ時のポイントとは?

山本氏 まず、一般の方が共通しておっしゃるのは、「画廊は入りにくい」ということです。

それなら、最初の美術体験としてはアートフェアに足を運んでみてはどうでしょうか。

世界中でいろいろなアートフェアが開催されていますが、例えば年に 1 回開催さ れる「アートフェア東京」だと150 店の画廊が出店し、作品も少なくとも3000 点は見ることが可能です。

それだけ見れば、1 点は好きな作品が見つかります。1 点だけ見ても好き嫌いはわかりませんが、3000点見ればわかるものです。

気になる作品が見つかったら、その作品をきっかけに追いかけてみたらいいでしょう。その絵が置いてあった画廊を調べ、実際に足を運んでみる。

目的を持ってなら、画廊はぐっと入りやすくなります。ルイ・ヴィトンのカバンを買いにショップに足を運ぶのと同じですよ。

大事なのは、安全な画廊から買うこと。アートフェアは出店する画廊の品質を保っていますから、その点でも最初にはぴったりでしょう。

先代から受け継がれる美術商証。東京画廊+BTAPの歴史を感じさせる。

企業にとってアートは「戦略」になる

—山本さんが考えるアートの面白さとは?

山本氏 大事なことは、好きなアートが見つかった時に「自分はこんなものが好きなんだ」と気づけることなんです。

美術史をいくら勉強したところで、「知識」と「買うこと」は一切関係がありません。

それなら、5 万円のものでいいから 1 点絵を買って、そこからスタートしてみたらいいと思います。今年は 1 点、来年もう 1 点…そうやってコレクションを増やしていけばいい。

 「前回はああいう絵がいいと思ったが、今回はこっちの方がいいな」というふうに、最初に買ったものがベースになって、自分がどう変わっていくかを楽しめるのも面白さです。

人によっては、1週間のうちに変わってしまうこともあります。人間の感情なんてそんなものです。

よくあるのは、実際に絵を飾った後に「ちょっとこの色が気になるなあ」などと思いながら毎日見ていると、気になる部分がどんどん膨らんでくるんですね。

そんな時に、じゃあ「自分が気になる部分」というが自分にとって何なのかを考えるのも、また面白いんです。だから、もしかしたら「嫌い」というのが大事なのかもしれません。

だって最初は好きで選んだのに、だんだん嫌いなところが見えてきて、それがその人にとっての一番大事な部分なのかもしれないわけですから。 そして、そういうことを気づかせてくれるのが、アートなのかもしれません。

—「アートをオフィスに飾る意味」について、どのようにお考えですか?

山本氏 その会社のオフィスにアートを飾ることがプラスにならないといけませんよね。まず大事なのは、会社に初めて来た方がその絵で嫌な思いをするのは避けることです。

もっと積極的に考えるとしたら、「この会社はこういう絵をかけているから面白い会社だろう」と思われること。

判断材料としてアートを 1 つの試金石だと考えてみることです。 受付、通された応接間、廊下、打ち合わせスペース、執務室…これらの場所にどんなアートを置くかは、間違いなく「戦略」になるんです。

だからこそ、アートの持つ社会性を知ったうえでコーディネートする必要があります。しかし、海外に比べて日本にはまだまだそういう会社は少ないのが現状です。


©︎Isao Sugiyama

アートと時代は関連性がある

—オフィスで働く人たちにとっての、アートが飾ってあることの「作用」とは?

山本氏 その会社の持っているメンタリティとは逆のものをあえて選んで、バランスをとる手もあるでしょうし、あえて同じ方向性のものを選んでより盛り上げる手もあります。どういう雰囲気を作りたいかによって、選び方を考えたらいいと思います。

大事なのは、固定的に考えないこと。
一度オフィスにアートを飾ったら何十年も飾り続けようというのは、その会社に発展性がないということにも繋がります。だったら、例えば新商品が出るタ イミングでオフィスの絵も新しくしようとか、そうやって楽しんでいけばいいと思います。士気にも影響を及ぼすくらい、絵の作用というものはすごいのですから。

—今の時代に、アートを買ってオフィスに飾ることの意味とはどのようなものだとお考えですか?

山本氏 先ほど、どんな絵を飾るかが判断材料になると話しましたが、日本人は極力自分を隠そうとしますよね。

相手に自分を知られることが商売の邪魔になると思っている人が多く、だから同じようなスーツのスタイルで個性を出さないようにしているわけで す。

そういう意味でスティーブ・ジョブズのあの格好は、本来は日本では考えられなかったわけですが、最近は少しずつそちらに向かい始めているように感じます。特に IT 業界の人たちはそうですよね。

高度経済成長の時代にうちで前衛的な絵を買っていたのは製造業の人が多かったんです。どんどん新しいアイデアが出てくる時代に、新しいものを生み出していかないといけない製造業の人たちは、絵画の持つ前衛性に興味を持ったのです。

しかし、今や日本は製造業を放棄し始め、時代は金融業が中心になっている。すると、前衛的なものよりは、「これは確実に値が上がるだろう」というようなリスクの少ないものが好まれるように なるんです。

ZOZO の前澤さんが 123 億円を払ってバスキアの絵を買うのは、実は今の時代の理にかなっているわけです。 アートと時代というものは関連があるのです。そこも面白いところかもしれません。

—では、これからの時代に注目すべきアートとは?

山本氏  どういう絵が求められるようになるかは、正直わかりませんが、いつの時代も面白いと思われているものの方が将来的に残る可能性は高いです。

だから私はお客さまに「高いものを1 点買うよりも、安くていいので面白そうなものを10 点買った方がいい」と勧めています。

アートと時代の中で起こっていることは同じなんです。だけどアートというものは、どうしても「高尚」で「とっつきにくい」と思われがち。

確かに高尚であることは事実ですが、別に絵を買うことは他の買い物をすることと大きく変わらないんですよ。本来すごくシンプルだし、簡単なことなんです。

とはいえ、買い始めるとどんどん難しくなる 。 アートってそういうものなんですよ。面白いでしょう?

東京画廊+BTAP
http://www.tokyo-gallery.com/

東京画廊
場所 | 東京都中央区銀座8-10-5 第4秀和ビル7階
開廊時間 | 火~金11:00am – 7:00pm 土 11:00am – 5:00pm
休廊日 | 日・月・祝

BTAP – 北京東京藝術工程
場所 | Ceramics Third Street, 798 Art zone E02, 4Jiu Xian Qiao Rd., Chao Yang District, Beijing, 100015 CHINA
開廊時間 | 火~土10:30am – 5:00pm
休廊日 | 日・月・祝




文 志村江 / 写真 吉田和生


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