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アート・バーゼルでみる「アートの価値形成」とは

2019.04.22日

ビジネスパーソンがオフィスなどの空間にアートを導入する難しさのひとつが、そのアート作品の価格の妥当性がわからないということではないでしょうか。世界最大級のアートフェアであるアート・バーゼルを通じて、アートの価値形成に誰が影響を与えているのかを考えてみました。

アート・バーゼル香港2019

誰がアート業界をリードしているのか?

一般のビジネスパーソンにとって、作品の値段が変動し、ときには数百億円の値にもなり得るアートマーケットの価値の成り立ちはわかりにくいものです。

もちろん、市場価値が高まるアーティストに実力が必要なのは言うまでもありません。しかし、世の中には“絵を描く”という意味で実力があるアーティストはごまんといます。その中で価値が発掘され、世界に知られていくためには何が必要なのでしょうか。


ロンドンの現代アート誌「ArtReview(アートレビュー)」が毎年発表しているアート業界で世界的に影響力をもつ人物トップ100を紹介した「Power100 」という有名なランキングがあります。このランキングには、アーティストやキュレーター、ギャラリストなどが掲載されています。

このランキングで2018年のアート業界で最も影響力をもつとされたのがDavid Zwirner(デイヴィッド・ツヴィルナー)氏というギャラリストでした。このTOP100にはデイヴィッド氏を含め、26名ものギャラリストがランクインしています。アーティストのカテゴリでは23名がTOP100にランクインしています。

このランキングからもわかるように、グローバルなアートマーケットでアートの価値を形成するには、「誰が描いたか」と同じように「誰が取り扱っているか」が大きく影響しているといえます。

世界最大級の現代アートフェア「アート・バーゼル」

世界に数多くあるギャラリーの中でも厳選されたトップギャラリーだけが集まるアートフェアといわれているのが「アート・バーゼル」です。先ほどのPower100でもアート・バーゼルのディレクターが24位にランクインしており、アートフェア関係者の中では断トツの影響力を持っています。

「アート・バーゼル」は、その名前のとおり1970年にスイスのバーゼルで開催されました。このアートフェアは年々勢いを増し、現在は「アート・バーゼル」の名称のもと2002年からアメリカのマイアミビーチで、2013年からは香港でも毎年開催されています。

ヨーロッパ、アメリカ、そしてアジアのそれぞれのエリア出身のアーティストによる作品を取り入れることで、富裕層も幅広くカバーしているのです。世界中から厳選されたギャラリーが、その中でもイチ押しのアーティストを紹介するアート・バーゼルはコレクターたちにとって、効率よく最新のアートトレンドと出会う場となっています。

2019年3月27日から31日まで4日間かけて開催されたアートバーゼル香港には、35ヶ国から242のギャラリーが出展し、会期中の来場者数は88,000人にものぼりました。

しかし、会期の前半2日間に入場が許されているのはVIP招待者のみ。後半の土日はチケットが一般販売されますが、早々に売り切れてしまいます。入場制限がかけられ、入口にも会場の外にも長蛇の列ができていました。

会場は大型のコンベンションセンターである香港会議展覧中心で、広大なフロアの2フロア分を借り切って展示しています。真剣に作品をみているととても1日ではまわりきれません。

また、初日にVIP招待された熱心なコレクターや美術館関係者がめぼしい作品を購入するので、ギャラリーによってはもってきた新しい作品を次々と展示します。ですので、同じ会期中でも訪問するたびに違った作品を目にすることになります。

一般公開を迎える3日目には多くの作品のキャプションに売約済みを示すシールが貼られていて、アートフェアとはいえ買える作品がない、さながら現代アートの美術館のようになっていました。

白髪一雄、草間彌生、村上隆、奈良美智といった著名な日本人アーティストは 海外のギャラリーにもたくさん取り扱われていました。

アーティストを世界にプロモートするギャラリスト

アート・バーゼルのメインスポンサーは富裕層の資産を運用する世界最大のプライベートバンクであるスイスのUBSです。会場にはVIP招待者が入場できるコレクターズラウンジがありますが、さらにその一階上にUBSラウンジが設けられていました。

また、来訪する富裕層をターゲットとして、たくさんのラグジュアリーブランドのブースが設けられていて華やかに演出されています。

こうして集まってきた世界の富裕層やコレクター、美術館関係者にアーティストをプロモートしているのがギャラリストなのです。アート・バーゼルに出展していること自体がギャラリーのステータスとなっており、さらにそこで展示されたことがアーティストのキャリアにつながっていきます。

アートフェアはアーティストの展示会ではなく、ギャラリーによる展示会であるともいえます。

アート作品がもつ美しさは言語の壁を越えますが、一方で世界のアートマーケットで価値が形成されるには信頼できるギャラリストによる丁寧なコンテクストの説明が必要とされているのです。

活況を呈する日本のアートフェア

日本でもアートフェア東京が毎年開催されおり、2019年もアートバーゼル香港の2週間前の3月7日から10日までの4日間開催されました。

現代アートだけではなく、骨とう品など幅広い年代の作品が取り扱われているのが特徴とされています。昨今のビジネスパーソンにおけるアートブームと相まって、2019年の来場者数は6万人を超え、年々活況を呈しています。

アートフェア東京には160軒のギャラリーが出展し、そのうち海外からの出展は15軒でした。つまりおよそ9割は日本のギャラリーによる出展です。一方で、アート・バーゼル香港に出展した242軒のギャラリーのうち日本のギャラリーは約20軒でした。

日本のアートを世界に発信するためには?

日本文化の世界発信をめざして、日本人アーティストへの直接支援は官民で既に様々な取り組みがあります。

しかし、アート・バーゼルのような世界有数のアートフェアを通して世界のマーケットをみてみると、アートの価値を形成していくためには、アーティストを発掘して世界に接続させる能力をもつギャラリストに大きな役割があることがわかります。

日本のアートを世界に発信していくためには、アーティストの技能向上はもちろんのこと、たくさんの才能にあふれたアーティストの中から世界に発信できるアートを見極める審美眼をもったギャラリストにも注目していく必要があります。




文・写真 J.N by ArtScouter

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