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時間や場所を超えて 「人の思い」を想起させる絵が描きたい
—アーティスト 寺本愛

2019.04.22

©︎Ai Teramoto

寺本 愛 さん
1990年東京生まれ。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒業。
近代化していく社会の中で今なお残り続ける固有の地域・服飾文化に着目し作品を制作。取材を通じて得たイメージにフィクションを織り交ぜながら昇華させることで、人々の生活に通底する普遍性を描く。個展や芸術祭での作品発表を続けながら、様々な媒体へのアートワーク提供やイラストレーションなど、クライアントワークも手がける。


印象に残るものとして「目」に注目

― 絵を描き始めたきっかけは?

寺本さん 物心ついた頃から絵を描くことは好きでした。小学生の頃、長崎訓子さんがイラストレーションを手がけられた本を読んだことでイラストレーターという職業を知り、憧れるようになりました。

美術大学では幅広く学べそうなデザイン系の学科を選び、ファッションを専攻しました。

転機になったのは1年時に受けた油絵の授業で、そこで初めてしっかりと絵を描く体験をしたことがすごく楽しかった。その後は大学の課題と並行して、絵を描いていました。

寺本さんの描かれる絵は「目」が特徴的ですが、どうやって生みだしたのでしょうか?

寺本さん 大学でサークルのフライヤーを作っていた時に、イラストレーションが必要になり、今描いているような目の原型をしたキャラクターを描きました。

自分なりの、何か特徴のある「人の印象に残るもの」が必要だと考えた時に、自然と目に注目するようになりました。

直接的に影響を受けたのは石ノ森章太郎さんと横山裕一さんの作品です。特に横山さんは平面的だけどすごくギラギラした目を描かれるんです。少女漫画のキラキラして奥行きのある目とは違う「情報量の多さ」みたいなものが面白いなと思いました。

そうして生まれた「目」の要素と、授業で学んだ服飾やファッションの要素を掛け合わせて、現在のスタイルに行き着きました。

©︎Ai Teramoto

個性を確立させていく過程で、他に影響を受けたものがあれば教えてください。

寺本さん 大きく影響を受けたのは、ゼミの先生だったパトリック・ライアン氏です。フランスから来日し、「YAB-YUM(ヤブヤム)」というブランドを立ち上げた方で、日本人以上に日本の美意識を理解されていました。

ファッションだけではなく、アートやデザイン、生き方も含めた「哲学」を教わったように思います。

テーマはどうやって決まっていくのですか?

寺本さん 2015年くらいまでは「時代を超越する服飾」をテーマに制作していましたが、だんだんと「服を着ている人間そのもの」や、「土地に根付いた服飾」へと関心が広がっていきました。

きっかけとなったのは、四国のお遍路をモチーフにした時です。白装束への興味から調べ始めましたが、だんだんと、一人一人が抱える苦悩や救いといった思いが無視できなくなっていきました。

「服飾という表層だけを面白がって描くことは浅はかではないか」と思うようになり、それ以降は、服は服で興味は持ちつつ、そういった「人の思い」を考えながら制作をするようになりました。

とはいっても、普段からテーマになるようなネタをギラギラと探しているような感じではないです。アンテナは張りつつ、その時に自然とピンときたものがあれば、自分なりに調べて、吸収して、その土地に足を運んだりしながら表現していくようにしています。

「こだわり」があれば教えてください。

寺本さん 一時の感情に寄りすぎないよう気をつけながら、地に足をつけて、冷静な目で描きたいと思っています。

創作意欲が湧くのは、「モノクロの古い写真」を見た時です。色がない分、見る側に想像させる幅が広いです。それは私の絵にも共通する部分です。

色は情報が多すぎて、あまり興味が持てません。私にとっては形や動きの方が大事なので、線にはこだわりがあります。

©︎Ai Teramoto
©︎Ai Teramoto

表現しているのは、私たちと地続きの普遍性のある人たち

クライアントワークと作品の違いは?

寺本さん 私の中では完全な別物で、別の脳味噌を使って描いている感じです。ただ、自分でテーマを見つけて描く方が自分に向いているとは思います。

クライアントワークの受け方に少しずつ違和感を持つようになりました。イラストレーションとしての仕事の場合は、私の過去の絵を見て「こんなふうに」とご依頼いただくことがありますが、今の自分は昔その絵を描いていた時のようには描けません。

割り切って描けばいいですが、うまく頭が切り替えられないときもあります。そういう意味でイラストレーターには向いていないと思います。

これからは、普段テーマにしていることに近いものをクライアントと一緒に作っていくような仕事を増やしていきたいと思っています。


―絵を描くときに、その絵を見る人のことはどのくらい考えているんですか?

寺本さん こんな風に思ってほしいと考えながら描いていますが、結果的にどう受け取られるかはあまり気にしていません。見た人が私の意図したものと違う印象を持ったとしても、それはそれで面白いと思います。

― 絵を通じてどんなことを感じて欲しいですか?

寺本さん 私が絵の中で描いている人たちは、絵を見る私たちと地続きの存在だと思って描いています。そういう意味では、私の絵を通じて、自分自身のことを客観的に見ることができるようになったらいいなと思います。

たとえ時代も場所も違ったとしても、全部がつながっていて、根底は同じというか。そんな普遍性みたいなものを感じてもらえたら嬉しいです。



文 志村江 / 写真 桑原克典

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